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王の後悔

 城門(じょうもん)(やぶ)られた。

 ()()ってきた兵士(へいし)たちの怒号(どごう)(しろ)空気(くうき)(ふる)わせる。

 (しろ)内外(ないがい)(けん)(まじ)わる金属音(きんぞくおん)()(ひび)く。

 城内(じょうない)(はし)(まわ)兵士(へいし)たちの足音(あしおと)と「(おう)(さが)せ」と(さけ)(こえ)(わたし)包囲(ほうい)せんとしていた。

 この(しろ)(じき)制圧(せいあつ)される。(わたし)()らえられ、断頭台(だんとうだい)()たされることになるだろう。


 (いや)だ。


 (わたし)身震(みぶる)いした。

 自分(じぶん)(わる)かったのだと()かっていても、(みじ)めに()らえられ、民衆(みんしゅう)悪意(あくい)視線(しせん)怒号(どごう)(あつ)まる(なか)()()される姿(すがた)は、想像(そうぞう)ですら()(がた)いものだった。

 (わたし)(けん)(つか)(にぎ)り、(やいば)首筋(くびすじ)()てた。

 だが、()(ふる)えて()すことも()くこともできない。

 (わたし)(けん)(ほう)()げた。


 (なさ)けない。なんて(なさ)けない。


 (かく)れていた部屋(へや)(とびら)蹴破(けやぶ)られ兵士(へいし)()()んできた。

 (わたし)反射的(はんしゃてき)()()した。どこをどう()(まど)ったのか、気付(きづ)くと窓際(まどぎわ)()()められていた。

 兵士(へいし)(いか)りで(わけ)のわからない言葉(ことば)(さけ)(けん)()()げた。

 (わたし)は「ひいっ」と(なさ)けない悲鳴(ひめい)()げると(おも)わず(まど)()(ひら)いていた。そしてそのまま、(まど)(そと)転落(てんらく)した。


 こういう(とき)()きたまま()らえるんじゃないのか。なぜ(けん)()()げたんだ。(ころ)されるかと(おも)ったじゃないか。


 落下(らっか)しながら馬鹿(ばか)なことを(かんが)えたものである。

 (つぎ)瞬間(しゅんかん)(わたし)地面(じめん)衝突(しょうとつ)(いき)()えた。

 (ねが)わくは、(つぎ)(せい)では(おだ)やかな人生(じんせい)(おく)れますように。





 そして(わたし)目覚(めざ)めた。

 (やわ)らかい布団(ふとん)(うえ)()(よこ)たえる(わたし)()(うつ)るのは、見知(みし)った部屋(へや)風景(ふうけい)だった。

 とは()え、それは(わたし)王太子(おうたいし)時代(じだい)使用(しよう)していた部屋(へや)だった。

 あれだけの戦闘(せんとう)(あと)だ。こんなに綺麗(きれい)(のこ)った部屋(へや)などあるはずがない。

 (わたし)はゆっくりと(からだ)()こした。

 これは(ゆめ)か。それとも(いま)までが(なが)(ゆめ)だったのか。

 (すく)なくとも()()れるものはすべて現実的(げんじつてき)で、とても(ゆめ)(なか)とは(おも)えなかった。

 乳母(うば)()て、『殿下(でんか)』と()ばれたので、やはり(いま)王太子(おうたいし)なのだと確認(かくにん)した。

 乳母(うば)()うには、(わたし)高熱(こうねつ)()して寝込(ねこ)んでいたのだそうだ。

 (わたし)が「もう大丈夫(だいじょうぶ)だ」と(つた)えると、乳母(うば)安心(あんしん)して(かお)(ゆる)めた。

 (わたし)今日(きょう)年月日(ねんがっぴ)(たず)ねた。寝込(ねこ)んでいたせいで時間(じかん)感覚(かんかく)がはっきりしないというと、納得(なっとく)して(こた)えてくれた。

 それは(わたし)十八才(じゅうはっさい)高等学院(こうとうがくいん)三年(さんねん)()創立記念(そうりつきねん)パーティーの一月前(ひとつきまえ)だった。

 (わたし)(なが)(ゆめ)()ていたのか、これまでのことはすべて現実(げんじつ)だったが時間(じかん)逆行(ぎゃっこう)してしまったのか、どちらかは()からない。

 だが、たとえすべて(ゆめ)だったとしても、あれが現実(げんじつ)には絶対(ぜったい)()こらないと()()ることは、(わたし)にはできなかった。

 充分(じゅうぶん)()こり()ることだ。ならばやり(なお)さなくてはならない。もしすべて現実(げんじつ)だったとしたら尚更(なおさら)である。

 贅沢(ぜいたく)()えば、もっと(まえ)からやり(なお)したかったが、そんなことは()っても意味(いみ)のないことだ。

 (わたし)早速(さっそく)手紙(てがみ)二通(につう)()いた。

 一通(いっつう)(わたし)のこの時点(じてん)での婚約者(こんやくしゃ)である公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)へ。

 もう一通(いっつう)(わたし)(あい)する(ひと)へ。

 それは明日(あす)早朝(そうちょう)自習室(じしゅうしつ)への()()しの手紙(てがみ)だった。




 高等学院(こうとうがくいん)三年時(さんねんじ)創立記念(そうりつきねん)パーティー。

 それは(わたし)後悔(こうかい)してもしきれない(あやま)ちを(おか)した()であった。

 その()(わたし)大勢(おおぜい)生徒(せいと)職員(しょくいん)招待客(しょうたいきゃく)がいる(なか)で、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)婚約(こんやく)破棄(はき)宣言(せんげん)したのである。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(わたし)(あい)する(ひと)(たい)して(おこな)った数々(かずかず)非道(ひどう)仕打(しう)ちを(なら)()て、(せめ)()てた。それが(のち)にどのような事態(じたい)()()こすかを(かんが)えもせずに。

 公爵(こうしゃく)憤慨(ふんがい)した。当事者(とうじしゃ)一人(ひとり)証言(しょうげん)だけで、ろくに調(しら)べもせずに(むすめ)(つみ)があったと()()断罪(だんざい)したことは(ゆる)しがたいと。

 父上(ちちうえ)にも「なぜ前以(まえもっ)相談(そうだん)しなかったんだ」と、(おこ)られた。

 だが、当時(とうじ)(わたし)自分(じぶん)間違(まちが)ったことをしたとは微塵(みじん)(おも)っていなかったので、まったく()(みみ)()たなかった。

 その(うえ)公爵(こうしゃく)には、悪事(あくじ)(はたら)いた(むすめ)(かば)うなら爵位(しゃくい)剥奪(はくだつ)する、とまで()ったのだ。

 もちろん、当時(とうじ)(わたし)にそんな権限(けんげん)はない。(したが)必要(ひつよう)など()かったのだが、公爵(こうしゃく)爵位(しゃくい)返上(へんじょう)一族(いちぞく)もろとも姿(すがた)()した。

 父上(ちちうえ)からしたら、そもそも婚約(こんやく)破棄(はき)自体(じたい)間違(まちが)いだと(おも)っているようだったが、それは(いま)さら()ってもどうにもならないことだと(かんが)えているようだった。

 だが、さすがに公爵(こうしゃく)一族(いちぞく)姿(すがた)()したことには()(よわ)くし、体調(たいちょう)(くず)して寝込(ねこ)みがちになった(あと)()くなられてしまった。

 父上(ちちうえ)()(つら)(かな)しいものであったが、(のぞ)(どお)(あい)する(ひと)(きさき)(むか)え、(わたし)上手(うま)くやっているつもりになっていた。

 (すく)なくとも即位(そくい)()十年(じゅうねん)何事(なにごと)もなく平穏(へいおん)()ぎていった。

 そしてある()突然(とつぜん)平民(へいみん)たちが蜂起(ほうき)したのだ。

 各地(かくち)紛争(ふんそう)()こり、その対処(たいしょ)のために(へい)(おく)ったが、平民(へいみん)出身(しゅっしん)兵士(へいし)たちの(なか)には寝返(ねがえ)(もの)(おお)くいた。

 前年(ぜんねん)天候(てんこう)不良(ふりょう)によりどこの農地(のうち)不作(ふさく)だったにもかかわらず、(ぜい)例年(れいねん)(どお)(はら)わなければならない。元々(もともと)、ギリギリの()らしをしていたのだ。これ以上(いじょう)はもう()えられないと、(かれ)らは口々(くちぐち)()った。

 たしかに、王妃(おうひ)衣装(いしょう)装飾品(そうしょくひん)のために税率(ぜいりつ)()げてはいた。それだって徐々(じょじょ)にだ。いきなりではない。(つま)に「貴方(あなた)のためにいつも(うつく)しい(わたくし)でいたいの」と()われて(ことわ)ったら(おっと)(すた)るというものだろう。

 (かれ)らを主導(しゅどう)をしていたのが(もと)公爵(こうしゃく)とその一族(いちぞく)だと()った(とき)には愕然(がくぜん)とした。そして、憤慨(ふんがい)した。

 (いま)さら(なん)なのだと。あの(とき)(うら)みを()らしに()たのかと。

 (はじ)めの(うち)こそ抵抗(ていこう)した。(わたし)(おう)なのだ。(さか)らう(もの)(わる)いのだと。

 だが、王妃(おうひ)()()したと()って、(わたし)(こころ)()れた。

 そしてあの()(むか)えたのだ。




 (つぎ)()(わたし)(すこ)(はや)学院(がくいん)()き、自習室(じしゅうしつ)二人(ふたり)()った。

 まず公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)()て、(わたし)体調(たいちょう)気遣(きづか)言葉(ことば)をかけてくれた。(あい)()わらず(すき)のない完璧(かんぺき)()()いだ。

 (つぎ)に、(わたし)(あい)する(ひと)(はい)ってきた。

 二人(ふたり)とも()()されたのは自分(じぶん)一人(ひとり)だと(おも)っていたようで、お(たが)いの(かお)()(おどろ)いて「あっ」と(ちい)さく(こえ)()げた。

 手紙(てがみ)では(ほか)(だれ)かが()ることも(はなし)内容(ないよう)(とく)()かなかったのだから無理(むり)もない。

 (わたし)(あい)する(ひと)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)()にしつつ(わたし)(ちか)づき、体調(たいちょう)心配(しんぱい)をしてくれた。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(ちが)い、たどたどしい(はな)(かた)ではあったが、(わたし)自身(じしん)心配(しんぱい)してくれていることが大事(だいじ)なのだ。

 (わたし)(いと)しさに口許(くちもと)(ゆる)むのを必死(ひっし)(こら)えた。

(わたし)は、(わたし)決意(けつい)()いてもらいたくて、二人(ふたり)をここへ()んだ」

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(かお)をしっかりと()言葉(ことば)(つづ)けた。

(わたし)貴女(あなた)との婚約(こんやく)白紙(はくし)(もど)そうと(おも)う」

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)()()(ひら)いた。

 (わたし)(あい)する(ひと)(かお)(ほころ)ばせた。

 前回(ぜんかい)(わたし)大勢(おおぜい)人々(ひとびと)見守(みまも)(なか)芝居(しばい)のクライマックスを(えん)じるが(ごと)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)断罪(だんざい)した。公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(つみ)(おか)したのだからそれを()めるのは当然(とうぜん)のことだと(おも)っていたのだ。

 だが(いま)はあの(とき)()()てた数々(かずかず)(つみ)真実(しんじつ)ではないと()っている。

 (あと)から()かったことだが、(わたし)(あい)する(ひと)(いや)がらせをしていたのは公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)ではなく、(した)しくしていた(ほか)令嬢達(れいじょうたち)だった。

 公爵(こうしゃく)(がわ)からその(うった)えを()いた(とき)は、『それでも指示(しじ)をしていたのは公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)だろう』と(おも)っていた。

 だが、実際(じっさい)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(おも)ねった令嬢達(れいじょうたち)勝手(かって)にやったことだったようだった。

 その(はなし)()いたのは公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)断罪(だんざい)から数年(すうねん)()った(あと)のことで、その当時(とうじ)(わたし)はもうどうでもいいことだと(おも)っていた。

 おそらく、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(わたし)(あい)する(ひと)直接(ちょくせつ)()った注意(ちゅうい)数々(かずかず)高潔(こうけつ)()ぎる性格(せいかく)ゆえだろうと(おも)われる。(わたし)(あい)する(ひと)()くほどキツいことを()ったのはやり()ぎだったと(いま)でも(おも)うが、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)なりの善意(ぜんい)だったのだろうと理解(りかい)している。

 (いま)大事(だいじ)なことは穏便(おんびん)婚約(こんやく)白紙(はくし)(もど)すことだ。それさえ出来(でき)れば、(いたずら)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)()()てる必要(ひつよう)はない。

理由(りゆう)(うかが)っても(よろ)しいでしょうか」

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)抑制(よくせい)()いた(こえ)(わたし)(たず)ねた。

真実(しんじつ)(あい)(あら)うことはできないからだ」

 (わたし)(あい)する(ひと)はうっとりと(わたし)見詰(みつ)めた。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)表情(ひょうじょう)(くず)さず冷静(れいせい)さを(たも)っている。

「このことは国王陛下(こくおうへいか)はご存知(ぞんじ)なのでしょうか」

「いや、まだ(はな)していない。(わたし)たちの婚約(こんやく)(いえ)同士(どうし)のことで王家(おうけ)から公爵家(こうしゃくけ)(つた)えるのが(すじ)であるとは()かっている。だが、貴女(あなた)には(わたし)から直接(ちょくせつ)(つた)えるべきだと(おも)ったのだ」

「そうでしたか……。()かりました。(いま)(なに)(もう)しません。陛下(へいか)にお(はな)しになり承諾(しょうだく)()(あと)で、公爵家(こうしゃくけ)としてお返事(へんじ)させていただきます」

 ぐるりと(きびす)(かえ)退出(たいしゅつ)しようとする公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)を、(わたし)()()めた。

「ちょっと()て。(はなし)はそれだけではないのだ」

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)()(かえ)り、怪訝(けげん)そうな(かお)(むけ)けた。

 (わたし)()らぎそうになる(こころ)()(はら)うように(こころ)(なか)自分(じぶん)()(たた)いた。

(わたし)気付(きづ)いたのだ。(わたし)(おう)(うつわ)ではないと」

「ど、どういう意味(いみ)ですの」

 (わたし)(あい)する(ひと)動揺(どうよう)してしがみついてきた。

 (わたし)はその()にそっと自分(じぶん)()(かさ)ねた。

(わたし)(いま)まで(おう)になるということを(ふか)(かんが)えたことがなかった。いずれ父上(ちちうえ)(あと)()いで(おう)になると()われ、ただ漠然(ばくぜん)とその(みち)(ある)いて()ただけだった。だが、自分(じぶん)がその(うつわ)ではないと()かった(いま)王位(おうい)にしがみつくべきではないと(おも)うのだ」

「つ、つまり………?」

(わたし)王位(おうい)継承(けいしょう)(けん)放棄(ほうき)し、市井(しせい)(くだ)ろうと(おも)う」

「はあ!?」

 およそ貴族令嬢(きぞくれいじょう)とは(おも)えない()頓狂(とんきょう)(こえ)室内(しつない)木霊(こだま)した。

「な、な、な、(なに)(おっしゃ)っているのですか。王太子(おうたいし)殿下(でんか)がそのようなこと、(みと)められるはずがありません」

「ああ、(いと)しい(ひと)心配(しんぱい)することは(なに)もない。(なん)責任(せきにん)()わず、(だれ)からも重圧(じゅうあつ)()けられることなく、二人(ふたり)(あい)(はぐ)んで生涯(しょうがい)(とも)(あゆ)もうではないか」

 前回(ぜんかい)(こわ)(おも)いをさせてしまったがために、城から逃げ出すことになってしまったが、平民(へいみん)ならば(だれ)(うら)まれることもなく(おだ)やかに()らしていけるはずだ。

「お(ことわ)りいたします」

 (わたし)(あい)する(ひと)はそれまで()いたこともない(ひく)(つめ)たい(こえ)でぴしゃりと()()ると、(わたし)()(はら)()けた。(おも)いがけない言葉(ことば)態度(たいど)(わたし)狼狽(うろた)えた。

(わたくし)王妃(おうひ)になるのが(ゆめ)なのです。王太子(おうたいし)でない(かた)(よう)はございません。失礼(しつれい)いたします」

 そう()()てて(わたし)(あい)する(ひと)部屋(へや)から()()ってしまった。

 (わたし)(あい)する(ひと)()()った(とびら)見詰(みつ)めたまま(かた)まって(うご)けなくなった。(なん)とか(くび)だけ(うご)かして公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(ほう)(かお)()けると、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(わたし)自分(じぶん)(こころ)決着(けり)()けられないでいることに気付(きづ)いたのだろう。仕方(しかた)なさそうに()(いき)()いて()った。

殿下(でんか)(いま)失恋(しつれん)なさいました」

 こうして(わたし)の『真実(しんじつ)(あい)』は(くず)()った。

「で、どうなさいますか」

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(わたし)(きず)ついた(こころ)など無視(むし)するように淡々(たんたん)(はなし)(つづ)けた。

「ど、どうとは」

殿下(でんか)婚約(こんやく)白紙(はくし)(もど)したい理由(りゆう)(ひと)つが()くなりましたが」


 たしかに……。


 だが、今更(いまさら)、やっぱり結婚(けっこん)しようなんて()える(わけ)がない。

「さっき()ったことはすべてそのままだ。(わたし)(おう)(うつわ)ではないことに()わりはないし、(おう)にならない(わたし)結婚(けっこん)する理由(りゆう)貴女(あなた)にはないだろう」

 自分(じぶん)()っておいて可笑(おか)しくなって、自嘲(じちょう)気味(ぎみ)(わら)ってしまった。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(わたし)()いには(こた)えず、意見(いけん)()った。

「ですが、市井(しせい)(くだ)る、というのは如何(いかが)なものでしょうか。殿下(でんか)には無理(むり)かろうと(ぞん)じますが」

 意味(いみ)()からず返答(へんとう)(こま)っていると、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(さら)言葉(ことば)(つづ)けた。

殿下(でんか)具体的(ぐたいてき)にどうなさるおつもりなのですか」

「それは、田舎(いなか)(はたけ)でも(たがや)してのんびりと……」

剣術(けんじゅつ)稽古(けいこ)長続(ながつづ)きしない(かた)がですか? 毎日(まいにち)(くわ)(にぎ)って何時間(なんじかん)(はたけ)(たがや)すと? 根気(こんき)のない殿下(でんか)には毎日(まいにち)(やす)まず(はたけ)家畜(かちく)()()うなど無理(むり)でございましょう」


 うっ……。


「だからと()って、職人(しょくにん)()いているとも(おも)えません。殿下(でんか)不器用(ぶきよう)でいらっしゃいますから」


 そ、それは……。


商人(しょうにん)など(もっ)ての(ほか)でしょう。殿下(でんか)単純(たんじゅん)でいらっしゃいますから、(だま)されてあっという()一文無(いちもんな)しになってしまいますでしょうね。そもそも殿下(でんか)平民(へいみん)家事(かじ)全般(ぜんぱん)(みずか)(おこな)っていることをご存知(ぞんじ)でいらっしゃいますか。市井(しせい)(くだ)るということはそれらも(すべ)てご自分(じぶん)でなさらなければならない、ということなのですよ。その覚悟(かくご)はございますか」


 そこまで()わなくてもいいじゃないか。

 反論(はんろん)できる要素(ようそ)(まった)くないけど……。


「だからと()って、(わたし)(おう)()いているとも(おも)っていないのだろう?」

「………それは、まあ。(なん)(もう)しましょうか………」


 そこは言葉(ことば)(にご)すんだな。


 (わたし)苦笑(くしょう)した。

 そして、最後(さいご)提案(ていあん)をした。

(わたし)次期(じき)国王(こくおう)には貴女(あなた)相応(ふさわ)しいと(おも)っているのだ」

 公爵家(こうしゃくけ)初代(しょだい)国王(こくおう)次男(じなん)二代目(にだいめ)国王(こくおう)(おとうと)分家(ぶんけ)してできた家系(かけい)で、王位(おうい)継承(けいしょう)(なん)問題(もんだい)はないはずだ。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)はすぐには返事(へんじ)をしなかった。

 数秒(すうびょう)沈黙(ちんもく)(あと)こう()った。

(いま)(はなし)()かなかったことにいたします」




 その()授業(じゅぎょう)()(そぞ)ろだった。放課後(ほうかご)になると、(わたし)()()(しろ)(かえ)り、(わたし)決意(けつい)父上(ちちうえ)(はな)した。

 (はじ)めはもちろん(まった)本気(ほんき)にされなかった。

 だが、父上(ちちうえ)にも(おも)うところがあったようで、後日(ごじつ)公爵(こうしゃく)宰相(さいしょう)()()しこの(けん)について(はな)()いが()たれた。

 具体的(ぐたいてき)にどのような(はなし)がされたかまでは()からないが、(わたし)王位(おうい)継承権(けいしょうけん)放棄(ほうき)(みと)められ、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)次期(じき)女王(じょおう)になることに()まった。

 だが、なぜか(わたし)たちの婚約(こんやく)はそのままということになった。

 王族(おうぞく)としての公務(こうむ)はあるものの政治的(せいじてき)権限(けんげん)はない。

 よっぽど(わたし)平民(へいみん)にしたくなかったのだろう。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)はといえば、意外(いがい)にもこの決定(けってい)異議(いぎ)(とな)えることなく()()れたという。本人(ほんにん)確認(かくにん)してみれば、『ただでさえ国中(くにじゅう)混乱(こんらん)するような変更(へんこう)をするのです。これ以上(いじょう)()けた(ほう)()いでしょう』といった返事(へんじ)をされた。なるほど、公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)らしいと納得(なっとく)をした。

 (わたし)元々(もともと)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(うら)みや(にく)しみがあったわけではい。婚約破棄(こんやくはき)宣言(せんげん)した(とき)初恋(はつこい)冷静(れいせい)さを()いていたという自覚(じかく)がある。失恋(しつれん)からしばらく()ち、気持(きも)ちが()()いた(いま)となっては、(わたし)(ことわ)理由(りゆう)がないどころか、あれだけ評価(ひょうか)(ひく)(わたし)見捨(みす)てないでくれて感謝(かんしゃ)気持(きも)ちすらある。

 公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)からは『不得手(ふえて)なことは(おお)いですが、唯一(ゆいいつ)()()社交性(しゃこうせい)であり、王族(おうぞく)として必要(ひつよう)能力(のうりょく)でございます』と、(けな)されている気分(きぶん)になるような()言葉(ことば)をもらった。

 この決定(けってい)国民(こくみん)発表(はっぴょう)されると、(おも)ったような混乱(こんらん)はなく、むしろ好意的(こういてき)()()れられた。(わたし)想像(そうぞう)以上(いじょう)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)国民(こくみん)人気(にんき)があったらしい。

 高等学院(こうとうがくいん)卒業後(そつぎょうご)公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)(しろ)(かよ)って政務(せいむ)(まな)(はじ)めた。とても()()みが(はや)く、半年後(はんとしご)には父上(ちちうえ)補佐(ほさ)ができるようになっていた。

 それからさらに一年後(いちねんご)私達(わたしたち)結婚式(けっこんしき)()げた。

 (つま)政務(せいむ)(はげ)み、(おっと)である(わたし)社交(しゃこう)担当(たんとう)する。一般的(いっぱんてき)夫婦(ふうふ)とは(ぎゃく)だが、これはお(たが)いに(しょう)()っていたようだ。(つま)は『適材適所(てきざいてきしょ)』だと(わら)った。

 ちなみに、(わたし)初恋(はつこい)(ひと)はあの(あと)遠国(えんごく)留学(りゅうがく)し、そちらで(ゆめ)(かな)えたらしい。彼女(かのじょ)(しあわ)せそうでなによりである。

 (わたし)元々(もともと)予定(よてい)とは少々(しょうしょう)(ちが)結果(けっか)になってしまったが、むしろこれで()かったのだと(おも)えるほど(おだ)やかな日々(ひび)(おく)っている。


 (わたし)(いま)何一(なにひと)後悔(こうかい)をしていない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地獄のように読みづらい、漢字が読めない年齢層はここにこない、ルビなんかいらん
[一言] ルビが何かのギミックになっているのかと思って読み進めたけど徹頭徹尾ただのルビで草。対象年齢いくつを想定して書いたんだろう 内容は丁寧になろうテンプレキャラ揃えたなって感じでした。逆を言えばテ…
[良い点] 誰も不幸になっていないのは好感が持てる。 [気になる点] ルビの多さ。逆に読みづらくなっているね。
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