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【勇者を転生させる】とかいう超ブラックな仕事~異世界転生の裏側~

作者: 水谷 輝人

 ――――――異世界転生。

 それは今や、マンガ、アニメなどの二次元好きなら誰もが知っている王道ジャンル。

 日本で特に何かが秀でているわけでもない普通の人たちが、何らかの理由で異世界へと転生させられてしまうのだ。

 トラックに轢かれて、女神に出会い、チートな能力や設定を貰って異世界へと旅立つ。

 ただそれだけだと思われがちだが、実はそうではない。

 異世界転生、その裏には、多くの人たちの汗と涙が詰まっていることなんて、人間たちには知る由もないだろう。




※※※※※※※※




『スズキシゲル……、スズキシゲル……、私の声が聞こえますか……?』


『あ、あなたは一体……!? なぜ僕の名前を知っているんですか?』


『私は女神ヴァルキュリア。【戦】と【勝利】を司る女神です』


『め、女神さま、ですか……! だから僕の名前を……』


『スズキシゲル、嘆かわしいことにあなたは現世でその命を落としてしまいました』


『そうだ、僕トラックに轢かれそうになった女の子をかばって……』


『トラックに轢かれそうになった女の子をかばって死んでしまうという最期、なんと素晴らしいのでしょう。あなたには資格があります!』


『資格ですか?』


『ええ、異世界転生の資格です!』


「なぁ~にが『資格があります』よ。あの男がランダムで選ばれただけじゃない」


 ――――――ここは天界。

 多くの神々や天使たちが暮らしている天上の世界。


 私の名前はローニャ。女神ローニャよ。

 何の女神なのかって?

 ……女神全員に何かしらの称号があるわけじゃないのよ。

 ヴァルキュリア様みたいに称号があるのは上位の女神たちだけ。


 ……っていうのは置いといて。

 私がさっき言ってた、ランダムで選ばれただけっていうのは本当のこと。

 っていうか、ほとんどの異世界転生がそうなんじゃないかしら?

 というのも、理由があって……。



「おい!トラック運ちゃんども!」


 と、少し離れたところから誰かの怒号が聞こえてきた。


「なんなんだよこの数字! 全然轢けてねぇじゃねえか!」


「「「すっ、すみません!」」」


「いいか? お得意様たちとの契約じゃ明日までに30人必要なんだよ! それなのにてめぇらまだ10人しか轢いてねぇじゃねぇか!」


「「「すみませんでした!」」」


「今すぐ行ってこい!」


「「「はっ、はいぃいいい!!」」」


「いいか!? コンビニ前のニートと夜勤帰りの社畜を狙うんだ! 20人轢いてくるまで帰ってくんな!」



 あの怒っているのは第1支部【天界(みちびき)課】の支部長、女神ヴァイオレータ様。

 【天界(みちびき)課】というのは、現世で死んでしまった者たちの魂を天界に導く役割を担ってるんだけど……、ここ百年くらいの間【計画殺人課】って呼ばれてるの。

 その理由が、異世界転生させるための日本人を用意する方法なんだけど……。


 例えばさっきのトラックの運転手たち。

 あれは実はトラックの運転手に成りすました天使たちで、深夜のコンビニ前にいるニートや社畜を狙って轢いてきて、わざと異世界転生させる仕組みになってるの。

 他にも色々巧妙な手口があって――――――。



「いいかい幼女たち。見た目がパッとしないけど妙に正義感だけありそうな陰キャっぽいお兄さんの所に行って、迷子感を出して助けてもらって、わざとトラックか踏切に突っ込むんだ。そしたらお兄さんが助けてくれて、死んで異世界転生するから」


「「「はーい!」」」


「手ごろなカモ……もといお兄さんを見つけたらなんて言うの?」


「「「ふえぇ……道に迷っちゃったよぅ……」」」


「正解!」



「いいかいじめっ子たち。前髪で目が隠れてる教室の隅っこの根暗な男子を狙うんだ」


「「「どうして?」」」


「いじめられたストレスで二次元に走るからだよ。二次元に走ると異世界系に触れるから、いちいち我々神たちが教えなくても異世界転生に詳しくなるから楽なんだよ」


 こんな感じで、故意に死亡者を出して、その死んだ人たちをそのまま異世界転生させることで、勇者の頭数を強引に増やしているの。

 だから、【計画殺人課】なんて呼ばれてるのよ。

 つまり、さっきのスズキシゲルさんはこっちが用意した幼女に騙されて、これまたこっちが用意したトラックに轢かれたってわけ。

 『選ばれし者』なんて全くの嘘。


 まぁ、例外は一部あるけれど。

 その例外を除けば、ほとんどがこの会社の【天界導課】によって故意に天界送りにされた人たちなのよねー。


 そう、この会社【株式会社 異世界勇者派遣システムコーポレーション】、略して【IYHSC】によってね。




※※※※※※※※




 株式会社 異世界勇者派遣システムコーポレーション。

 それは天界にある会社で、神々が管理している世界へ多くの勇者を送り出すという仕事をしている。

 もちろん、天界の清楚な神たちや天使たちが働く会社なので超ホワイトな会社――――――!


「んなわけねぇだろおぉがあぁああああああああ!!」



 毎日のクレーム対応!



『ちょっとぉ? おたくが用意した勇者がやってくれたんですけど! 勝手に私の世界でオタク文化流行らせ始めたんですけど!』


「申し訳ありません! その場合でしたら、我が社では対応しかねないという契約になっているはずですが」


『はぁ!? 知らないわよそんなこと! とにかくどうにかしてよね!』



『すみません。おたくに送ってもらった勇者なんですけど……』


「はい、どうしましたか?」


『最近、ちょっと言動がおかしくて……。『あと何回リセットすればいいんだ……』とかわけのわからないこと言ってて』


「ああ、それはノーマルですので大丈夫です」



 圧倒的な仕事量!



「今日あと何人転生させるって!?」


「あと16人だとさ!」


「ふざけんなよ! 一人転生させるための魔法陣のプログラム作るのに一体何時間かかると思ってるんだよ!?」



「転生する奴のDNAの解析はどうだぁ!?」


「現在解析率89%です!」


「よし! 解析が終わり次第、チート能力の情報をDNAに組み込めぇ!」


「了解です!」


「よし次の奴の解析も進めろぉ!」


「あと16人ですか……」


「泣いてないでさっさと手動かせぇっ!」




「もう私これで何連勤だろ……」


「俺は126連勤」


「えっ!? うそそんなに!?」


「俺が正しけりゃ、お前確か今日で77連勤だよ。ラッキーセブンってやつだな」


「全然ラッキーじゃない……」


私ローニャが働いているこの会社はいわゆる、“超”が付くほどのブラック企業……。

土日祝日出勤は当たり前。

 お盆休み? お正月? なにそれ、美味しいの?

 去年なんか私、ストレスでぶっ倒れて入院した3日間しか休んでない気がするような……。


「とりあえず、私リリス様に今日の仕事聞いてくるぅ……」


「おう、気ぃ付けて」




「リリス様、おはようございます!」


「あぁ、ローニャ。おはよう」


 私の目の前にいるのは、『花』の女神リリス様。

 今までいくつもの世界を救ってきた敏腕女神なの。

 私の上司で、先輩でもある人よ。


「いやー、また難度『SS』の世界の救済を頼まれちゃってー」


「難度『SS』ですか……!」


 救済する世界にはその世界ごとに、救済の難度が設定されていて、難度『D』から難度『SS』まであるの。

 難度『D』は救済する必要なし。難度『SS』は90%救済不可能って感じ。

 そんな難度『SS』の世界を、リリス様はこれまで5つも救ってきたの!


 本当にすごいお方なんだから!


「今回はどうしますか? 日本の優秀な武闘家でもその世界に転生させますか?」


「うーん、前もそうしたことがあったけど、結局うまくいかなかったのよねぇ。とは言っても、適当にトラックに轢かれた奴らの中から選ぶのもなぁ……」


 椅子に座り込んで、腕を組んで考え込むリリス様。

 どうしよう、私も何かアイデア出したらいいのかな?


「あのー、リリス様」


「ん? 何どうしたの?」


「その……、複数人転生させるのはどうでしょうか? 他の女神様たちも、一度に2、3人送っている女神様もいらっしゃいますし」


「なるほど、複数人ね……」


 すると、リリス様は何かを思いついたのか、突然立ち上がった。


「そうだ!どっかの学校の1クラス40人丸ごと異世界転生させればいいのよ!」


「…………えっ、ええぇええええええええええッッ!?」


「ん? どうしたの急に?」


「いっ、いい、今クラス丸ごと転生させるって言いました!?」


「うん、そう言ったけど。聞いてなかった?」


「いや、聞いてましたよ! さすがに40人は……!」


「なに? なんか問題ある?」


「うっ……」


 リリス様が私に詰め寄ってくる。

 問題ありありに決まってるじゃない!


 普通、勇者一人を異世界転生させるのに必要な工程があって。

 まず、その勇者を転生させるという企画書を作って、それを上に提出しないといけないの。

 それでOKがもらえたら、次に勇者のDNAの解析。

 今の勇者のDNAを解析するときもあれば、生まれ変わった後の体のDNAのときも。

 解析をして、はめ込めるところにチート能力の遺伝子情報を組み込んで。


 次に、勇者を異世界に転生させるための魔法陣のプログラミング。

 えっ、魔法陣なんだから魔法じゃないのかって?

 一々長ったらしい何日も唱え続けなきゃいけない魔法陣の作り方よりも、デスクワークでパソコンでプログラム組んだほうが断然楽だもの。

 あとは、現地での言語の知識とか、その他もろもろと、大量の工程があるの。


 これ全て終わるのが、大体5日くらい。

 で、それを40人分だから、200日。

 でもそんなに時間はないから、たぶん30日ぐらいで終わらせないといけない。

 40人を30日で……。


「なに? やる気がないの?」


「い、いえ! そんなことは!」


「あっそうだ! もし今回の仕事が上手くいったら、上の人たちに、あなたが上位女神になれるように口添えしてあげるわよ」


「えっ!?本当ですか!?」


「ええ、もちろん!あなたいつも頑張ってるもの」


でも、私が上位女神、名持ちの女神になれるのなら……!



※※※※※※※※



「というわけで、今から40人転生させるわよ!」


「「「はあぁあああああああああああああああ!!?」」」


 部署の中が、同僚たちの絶叫じみた驚きの声で満たされる。


「ふざっ、ふざけんじゃねぇよ!! 一人転生させるのに一体何十時間かかると思って……!」


「そもそも、そんなの企画書が通るわけないでしょう!」


「過去にも何件もクラス1つを転生させた実例があるの! 企画書は私が絶対に通す!」


「だからって……!」


「もしこの仕事が成功すれば、私は上位女神になれるの! そうしたら、あなたたちも女神や名持ちの神になれるようにしてあげるから!」


「えっ! マジですか!?」


「大マジよ!」


「よっしゃあぁあああああ! みんな、やってやるぞおぉおおおおおおおお!!」


「「「うおぉおおおおおおおおおお!!」」」


 こうして、私たちの地獄の一か月が始まった。



※※※※※※※※



「転生させる学校の候補は?」


「はい! 東京都内の都立高校を3つほど候補に挙げてます!」


「わかった、明日までに一つに絞り込んでおいて。プログラム班は?」


「現在、魔法陣のプログラムを書いてます。あと35人分です!」


「35人か……。もっとハイスピードで終わらせて!」


「「「はい!」」」


「ローニャさん。企画書の確認終わりました!」


「よし、それじゃあ、役員のジジイどもに見せに行ってくるわね」




 早速、役人たちに企画書の報告をする私。


「――――――であるからして、今回の件においては、クラス1つ、つまり40人を転生させることが適切であるという結論になりました。何か質問はありますでしょうか?」


「あー、ローニャ君と言ったかな?」


「はい」


「その、40人を異世界転生させることにおいて、何か我が社に利益があるのかね?」


 でたよ、テンプレ質問。

 結局上の役人はみんな利益利益って……。

 そんなに自分の利益が大事なの!?


「そうですね。今回の仕事をクリアし、難度『SS』の世界を救ったことになれば、我が社の評価は格段に上がると思います」


「それだけか?」


「……はい?」


「我が社の働きによって、もうすでにいくつもの難度『SS』の世界が救われてきたのだ。いまさらその数が一つ増えたところで我が社の評価は変わらない。それが我が社の利益になるというのかね?」


 なんですって……!?

 くそ……この頭の固いジジイめ……!

 ……こうなったら奥の手よ。


「もし、役員の皆様にこの企画を通していただけるのでしたら、リリス様が皆様のために一肌脱ぐとおっしゃっていましたよ」


「「「なに!? それは本当かッ!?」」」


 はい、食・い・つ・い・た。


「ええ、普段がんばってくださっている役員の皆様をねぎらいたいそうですよ?」


「ま、まさか、あのリリス様が……!?」


 役員の全員がつばを飲み込んだ音が聞こえた。


「この企画、通していただけますか?」


「も、もちろんだ! 通そう!」


 へっ、このエロジジイたちめ。

 まぁ、あとでリリス様には謝っておきましょう。




「企画は通したわ! 次は勇者たちの転生だけど……」


「はい! 学校絞り終わりました!」


「どの高校?」


「都立○○高校です。1年A組がいいかと」


「うん、いいんじゃない? 偏差値も62と結構高いし、なによりこの学校……」


「はい、生徒たちのオタクの割合が多いんです」


「さすが! オタクは異世界転生させてもすぐに自分が転生したことに気付いてくれるから、楽なのよねー。あと、異世界のこととかに詳しいしね。よし、そうと決まれば!」


「はい、1年A組の生徒たちのDNAの解析を始めます」


「よし、いいわ! 魔法陣の方はどう?」


「現在残り17人分です!」


「よし、その調子でどんどん進めて!」



 そのあとはただひたすらに魔法陣のプログラムを組んだり、DNAの解析を続けた。

 そして、予定日の30日目。



「おっ……」


「「「終わったあぁああああああああああああ!!」」」


「うおぉおおおおおおお!! やってやったぜえぇええええええええ!!」


「よかった……! 全部終わった……!」


 ここまで本当につらかった。

 家に帰らずに、5日間連続でDNAの解析してた時は気が狂いそうになったわ……。

 全員、目の下にクマができたし、一日に飲んだエナジードリンクの本数は数知れず。

 でも、今日でやっと終わる。


 あと残っているのは2工程。

 勇者たちを転生させるのと、その勇者たちの能力と設定を決めること。

 もうすでに、転生させるための魔法陣は完成してるし、DNAの解析も終わってる。

 設定を決めるのも、あんまり時間がかかる作業でもないし。

 もう終わったも同然よ。


「さぁ、始まるわよ」


 私たちは、部署の中にある大きなテレビモニターを見つめる。

 そこには、リリス様と、これから転生させられる生徒たち40人がいた。


『な、なんだここは……? ここは一体どこだ?』


『私たちさっきまで、授業受けてたよね?』


『一体何が……?』


『ようこそ、勇者たち』


 リリス様が生徒たちに話しかける。


『あ、あんたは誰だ?』


『私は女神リリス。あなたたちを導く者です』


『女神? 導く? おいそれってもしかして……!』


『異世界転生!?』


 とたんに、生徒たちがざわつき始める。


『そうです。あなたたちには、異世界に転生してもらい、その世界を救ってもらいたいのです』


『『『おおっ!』』』


 リリス様の言葉を聞き、『やった! 異世界転生、俺、異世界転生できるんだ!』と狂喜乱舞する子や、『生きててよかった……』と号泣する子も。

 そんなに異世界転生するのが嬉しいの……?

 日本に全然未練がないのね……。


『ついては、あなたたちには、自分のことについて決めてもらいたい』


『自分のこと? それってどういうこと?』


『転生した世界での職業、それと自分自身の能力についてよ』


『『『うおぉおおおおおおおおお!! テンプレキタアァアアアアアアアアッッ!!』』』


 生徒たち全員が大きくガッツポーズをする。


『それじゃあ、一人づつ聞いていくわね。あなたは?』


『えーと、ソードマスターがいいです! 魔剣を使いたいです!』


「よし、早速情報を打ち込んで」


「はい、職業ソードマスター。チート能力は魔剣と」


「それじゃ、早速転生させて」


 プログラム班がEnterキーを押すと、男の子の体が光に包まれていって消えた。


『無事に転生したみたいね。次の子は?』


『はい! 私は魔法使いが良いです! あと、魔力を無限にしてください!』


「魔法使い。無限の魔力」


『次の子は?』


『格闘家。魔法が効かない体が欲しい』




 そんな感じで、ドンドン転生させていき。


『あなたで最後ね』


 ついに最後の一人になった。

 残ったのは、見た目がまさにギャルゲーの主人公といったような見た目をした男の子だ。


『えーと、どうしようかなぁ……』


 なやむ男の子。


『……ねぇ、これってさ。転生したときって赤子からなの? それとも、この体のまま転生するの?』


『その体のまま転生するのよ』


『ふーん。じゃあ、赤子から始めることってできる?』


『もちろん可能よ』


「ん?」


 この子は何を言っているの?

 なんでわざわざそんなことを……?


『あと、生まれたときの自分の境遇とかの設定ってできるのかな? 例えば、親が軍人だとか』


『もちろんそれも可能よ』


 なにこの子……?


『そうか。じゃあ僕の設定を決めるとするか』


 すると、その子はニヤリと笑うと、こんなことを言い出した。


『そうだな、設定は賢者の孫で勇者の息子で、ああ赤ちゃんからやり直すのめんどくさいし、今と同じ16歳がいいかな。能力は魔剣と無限の魔力と魔法無効と物理無効と、レベルカンストなしと全ステータス10倍と魔法の鎧と全ての魔法の知識と不死身と時止め(タイム・ストップ)と、時止め無効と――――――』


「「「…………は?」」」


いきなりス〇バの「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラ(以下略)エクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ」みたいなことを言い始めた。


「いやちょっと! おかしいでしょ! そんな設定できるわけないし、能力だってひとつだけに決まってるじゃない!」


『ちょっと君、いくらなんでもそれはちょっと強欲なんじゃないかしら』


「そうですよリリス様! 言っちゃってください!」


 しかし、男の子は全く動じなかった。


『えー? 別に女神様一回も能力は1個だけって言ってないよね?』


『……それもそうね。よし、もっと言っていいわよ』


「「「リリス様あぁあああああああああ!?」」」


 全員が発狂した。

 まず、転生させる先、賢者の孫で勇者の息子になるようにしなくちゃいけない。

 そもそも、そんなレアすぎる設定の子供を探すのはほとんど不可能に近い。


 さらに、大量のチート能力。

 プログラムは、チート能力が1個のとき専用に作られているので、何個もある場合には使えない。

 つまり……。


「プログラム書き直し!?」


「いやだあぁあああああああああああああ!!」


 その後、男の子、いや、悪魔が言った200個以上のチート能力を設定するのと、賢者の孫で勇者の息子とかいうちょうどいい設定の子供を探すのに10時間かかった。



※※※※※※※※



「や、やっと終わった……」


「もう……死ぬぅ……」


 部屋の中に、何人もの死体(のように白い眼を向いて寝ている状態)と化した同僚たちが転がっている。

 もちろん、私もその中の一人だ。


「うぅ……」


 もう、40人転生させるのはこりごりだわ……。


『ピンポンパンポーン。女神ローニャさん、花の女神リリス様がお呼びです』


 と、アナウンスが耳に入ってきた。


「えぇ……? リリス様……?」


 なんだろう?



※※※※※※※※



「リリス様、一体なんですか?」


「ああ、ローニャ。大切な話があってね、あなたのことを呼んだの」


「大切な話?」


 すると、リリス様は私に一枚の紙を渡してきた。


「読んでみて」


 えーと、なになに……?

 …………えっ!?


「これって!?」


「おめでとう、ローニャ。これであなたも一人前の女神ね」


 紙には、『癒』の女神 ローニャと書かれていた。



※※※※※※※※



「ふぅ、これで荷物は全部ね」


 指定された部屋に、今までの荷物を移動させた。

 今日から、『癒』の女神としての仕事が始まる。

 初めて受ける仕事は、難度『A』の世界の救済。

 初っ端からかなり難易度の高い仕事を受けることになってしまった。


「荷解き、お手伝いしましょうか?」


「ううん、大丈夫よアリス」


 私が名持ちの女神になったと同時に、秘書が私に着けられた。

 女神アリス、まだ新人だけど、仕事は結構できるみたい。


「それよりも、早速仕事に取り掛かりましょう」


「はい。それでは、今回の世界の救済、いかがして対処いたしましょう?」


「そうね……」


 私には、もしも名持ちの女神になったときに言いたかったことが一つある。

 それはもちろん……あのセリフだ。

 私はその言葉を、満面の笑みでアリスに言い放った。




「クラス1つ丸ごと、40人を転生させましょう!」

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作者のこれからの作品作りに活かさせていただきます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編として良くできている作品だと思いました。 文章も読みやすい上、ニヤリとさせられるところも多く、綺麗にまとまっていたと思います。 [気になる点] 全体的な勢いに対して、最後のオチがちょっ…
[良い点] ブラックな現場ににやりとしちゃいけませんが、にやりとさせられました。 クラス転移はこうして起こるんだなあと納得させられました。 ありがとうございました!
2020/09/11 23:54 退会済み
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