〈美月 視点〉平凡な女
えっと…この度は大変お待たせしてしまい…読んでくださっていた方大変申し訳ないです。
少し学校が忙しくて、手を出さずにいました。
久しぶりの投稿なのでおかしいところとか出てくるかも知れませんが、また読んで頂ければと思います。
夢魔美月の人生はごく普通の人生だった。
ごく普通の家に生まれ、容姿も友達曰く中の上かそれぐらいで、学校の成績だって平均の少し上をいく程度。
アニメや漫画のキャラクターで例えると背景に写っているモブの様な存在、それが自分であると美月自身認めている。
人並みに『男』に興味があった美月は友達と一緒に他校の男子生徒の追っかけをして『男』との出会いを求めいたが、特質した何かもなく、平凡なごく普通の女の子であった美月など相手にされなかった。
だがそれは、美月に限った話ではなくこの世界の大半の『女』に共通している事であった。
何故なら、世界の人口の大半は『女』で占められているからだ。
それが何故なのか、理由は判明していないが生まれてくる子供達は大半が『女』であり、そのせいでこの世界の男女比は『1:100』というのが現状。
大体の『男』は設備が整っている私立の学校に通う為、美月の様に公立の高校に通っていると、まず『男』と関わることは出来ない。
運良く、『男』と関われることがあったとしても数の少ない貴重な『男』が、ありふれた平凡な『女』である美月を相手にする筈もなく、美月は憧れていたアニメやドラマの様に運命的な出会いをする事もないまま高校を卒業し、美月はそのまま就職した。
それからは退屈な日々が続いた。
朝早くに通勤の為に満員の電車に乗り、ひたすら机に向かって事務作業。
仕事が終わり、家に帰っても出迎えてくれる人もいない。
疲れ切った身体ではご飯を作る気にもなれず、近くのコンビニで適当に済ませてシャワーを浴びてから死んだ様に眠る。
ただそれだけを繰り返す日々。
何の為に生きているのだろうと何度考えた事だろうか?
生きることに意味を見いだせず、これからも1人寂しい余生を過ごすのだろうか…と、まだ二十歳になったばかりだとだと言うのにも関わらずそんな事ばかり考えていた。
「だったら子供でも作ってみたら良いじゃん。」
美月がその事を友達に相談すると、そう勧められた。
この世界の数少ない『男』達はあらゆる面で支援されるかわりに、いくつか"しなくてはならない"と義務付けられている事がある。
その内の一つが"精液の提出"である。
月に一度、男性は一定量の精液を提出しなければならない。
提出された精液は病院などで保管され、結婚が出来なかった『女』達が子供を作る為に人工受精として利用されるのだ。
「子供、子供ねぇ…」
「あれ?あんまり乗り気じゃない?」
「だって、出産ってめちゃくちゃ痛いって聞くし…痛いのは、やっぱり嫌かなって…」
「でも、家に帰って出迎えてくれる人がいないってやっぱり寂しいでしょ?最初のうちは子育てだって大変だと思うけど…それも含めてやっぱり憧れるじゃん?それに子供が出来たらある程度支援されるって聞くし!」
美月の様に子供を作る事に積極的になれない人は多い。
それは、妊娠から出産までの過酷さだけが理由ではなく、独り身では子育ても難しいと言うのも理由に挙げられる。
そう言った理由で子供を作らないと言う人が増えた為
、それの対策として子供を作った人には幾分か支援される事になっている。
「ちょうど私も子供欲しいなって思ってたの!だから一緒に受けようよ!ねっ?」
「いや、ね?って言われても…」
結局そのまま押し切られてしまった美月は友達と一緒に病院に行き人工受精を受け、めでたく妊娠する事が出来た。
妊娠検査の結果ではやはりと言うべきか女の子と言う事であった。
あわよくば男の子が生まれたらと期待していたが、流石にそこまで甘くは無いらしい。
それでも、最初は乗り気では無かった妊娠も、お腹の子が大きくなるにつれて産まれて来るのが待ち遠しくなり、お腹の子の事が愛おしく思えてきて仕方がなかった。
そして何事もなく出産当日を迎えたのだが、その日に事件は起きた。
「はぁ、はぁはぁ…私の、赤ちゃん…」
産まれた赤ちゃんの泣き声が響く部屋で、出産の痛みに耐え息を荒くした美月だったが、自分の子供が産まれた事で、今までに無かった感情が込み上げて来る。
聞こえてくる元気な赤ちゃんの泣き声に、美月は幸せそうな笑みを浮かべていた。
美月の赤ちゃんを抱えた看護師のあげた困惑する声を聞くまでは…
「美月さん、おめでとうございます!元気な女の…え、うそッ!?」
「…え?」
「お、お、おと、おとこぉぉッ!?」
「「「「ッ!?!?!?」」」」
看護師があげた声に美月を含めた他の医師達が驚愕のした。
看護師の叫び声のせいか赤ちゃんのあげる泣き声が一層大きくなる。
しかし、それを咎める者はいない。
何故なら、この部屋にいる全てのモノが男の子に思考を奪わらていたからだ。
妊娠検査の際に股の部分が足で隠れていたりするせいで、性別を勘違いする事が稀にある。
そのせいで、妊娠検査の時に女の子だったと勘違いしてしまったのだろう。
『男』の赤ちゃんが生まれる確率はとても低く、流石に比喩ではあるが一部では、宝くじの一等と同等の確率、価値で言えばそれ以上とまで言われるほどだ。
美月自身、自分の産んだ子が『女』ではなく『男』だったと知って舞い上がっていた。
自分の子供といえど、同じ屋根の下で『男』と暮らす生活というのはこの世の全ての『女』の願望。
『男』と一緒に同じご飯を食べ、同じ湯船に浸かって、同じ空気を吸う…近親婚が許されているこの国では、それ以上の事だって出来るかもしれない。
もし仮に、他所で『男』が養子にでも出されようものならば借金をしてでも『男』を手に入れようとするであろう。
今まで、自分が得られなかった
美月は早く、自分の子供が見たいと医師達に声をかける。
「あの、その子の…その子の顔を見せて下さい」
出産後の痛みが未だに続くなか、自分の子供に早く会いたいばかりに懸命に声を絞り出した。
美月はこれからの生活、自分の息子と一緒に暮らす生活を思い浮かべて期待し、歓喜していた。
「…ほ、ほんとに『男』なんですよね?」
「此処に就職してから結構経つが、『男』を見るのは私も初めてだ…。」
「す、すごい、これが『男』の…こんな風になってるんだぁ…ちっちゃいから隠れて検査の時見えなかったのね」
「は、はぁはぁ…ジュルリ」
だがそれも、次第に恐怖、怒りに変わっていった。
美月自身まだ、自分の子供の顔すら見ていないと言うのにも関わらず、医師たちは夢中になって初めて見る『男』に群がっている。
自分の子供がこのまま奪われてしまうのでは無いかと言う恐怖、たいして親しくも無い人に自分の子供が好き放題されている事に対する怒り。
そして何よりも…自分自身に対する恐怖と怒り。
あわよくば…などと、自分の子供に対して『女』としての欲望を抱いていた事を恥じた。
ーーさっきまでの私はあんな風な顔をしていたのだろうか…
誰もが狂気じみた顔を浮かべている。
初めて見る『男』を見て興奮しているのだろうが、自分もあんな顔をしていたのかと思うとゾッとする。
未だ泣いている我が子が大の大人に囲まれて、足を広げられたりと酷い仕打ちを受けている中、美月が黙っていられる筈も無かった。
「私の…私の子に触らないでッ!!」
痛みも忘れ声を荒げる美月の声に、医師達はギョッとして赤ちゃんから離れた。
この時、美月は誓った。
絶対にこの子は守ってみせる、他の女なんかには渡さない、と…
これが、美月自身を長年苦しめ続ける事になるなんて、この時の美月には知る由もない事だった。
という訳でお母さんの回想パートでした。
もうしばらく、後一話か二話ぐらいお母さんパートになると思います