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〈朱莉 視点〉王子様な天使様




「…ここ、どこぉ?」


さっきまで友達と仲良く遊んでいた筈なのに、気がつけば知らない場所にいた。

春宮(はるみや)朱莉(あかり)は迷子になっていた。


幼稚園のお迎えに来た母にまだ遊び足りないと訴えて、近くの小さな公園で同じ幼稚園の友達とかくれんぼで遊んでいた。


もといた公園に戻ろうと、朱莉は歩き回ったせいか足が痛くなり、その大きな目からはうっすらと涙が浮かんでいる。

公園の中だと、見つかりそうなので公園の外だったらバレないだろう朱莉は公園の外に出たのだが、それが間違いだった。


幼いうえに、幼稚園以外であまり外に出ることの無かった朱莉はものの数秒で道に迷い、分からないままその道を突き進んでしまったせいで気がつけば全く知らない場所に来てしまっていた。


かつてないほどの不安、恐怖に襲われる朱莉。

いくら道を進んでも一向に元の公園に戻る事もできない。


自分以外の人の気配も無く、その事が朱莉をさらに不安にさせる。



「にいなちゃんッ!どこぉーッ!?……ぅぅ」



その瞳に涙を浮かばせながらも懸命に友達の名前を叫ぶが返事は帰ってこない。

もしかしたら、もう2度と帰ることが出来ないのでは無いか?2度と皆んなに会えないのでは無いのか?と思い声を上げて泣いてしまいそうになった時、彼は現れた。



「あ、あの!」


「え…?男の子!?」



朱莉のすぐ前の家の二階の窓から自分を見下ろすその男の子に目を奪われた。

それは、朱莉にとって初めての男の子との出会いであった。


ーーきれい、てんしさまみたい…


さっきまでの恐怖なんて忘れて、朱莉はそんな事を思っていた。


朱莉の通う幼稚園は女の子ばかりが通っていて、男の子は1人として通っていない。

そもそも《男》という存在すらおらず、教員や迎えに来る友達の保護者も含めて《女》の人ばかり。


朱莉にとって《男》とはテレビに出てくる俳優や、物語に出てくる空想の空間のに過ぎない。

だから生の《男》と言うものを知らなかった。


《男》に耐性の無かった朱莉は突然現れた男の子に当然の如く目を奪われて、石像になってしまったかのように固まってしまう。


テレビで見る男の人みたいに低い声では無い。

自分と同じぐらいの年齢のせいからか《男》か《女》か曖昧な声。

だが、自分と同年代ぐらいの年代にも関わらず、歳上の様に落ち着いている様に感じる。


それでいて、テレビや本で見た男の人よりも綺麗だった。

風に靡く亜麻色の綺麗な髪、こちらを見つめる青色の透き通った瞳。

そして、女の人みたいに白い綺麗な肌。


はっきり言って朱莉は《男》に興味があるわけでは無かった。

作者の理想で固められた物語に出てくる様な優しい《男》ならいざ知らず、テレビに出ている現実の《男》は冷たくて、傲慢でむしろ苦手意識の様なものを感じている。


正直、幼稚園の友達がテレビの男の人をみてキャーキャー騒いでいる意味がわからなかった。

だけど、今ならそんな友達の気持ちが分かる様な気がする。


テレビで見る男の人達は皆んな一緒に出ている女の人に向けて冷たい眼差しを向けて、冷たい言葉を浴びせ、一言で言うと怖い雰囲気を纏っていた。


けど、この男の子からは優しい雰囲気が感じ取れた。

此方を見つめる青い目は、輝いた瞳で此方を食い入る様に見つめている。


朱莉の母親は朱莉に、《男》は《女》を嫌っているからテレビでも冷たく当たるのだと言っていたが、目の前の男の子は一切嫌な顔をせず、冷たい雰囲気も感じない。


さっきまで知らない場所に1人だったせいで、不安や恐怖を感じていた朱莉にとってその男の子は、自分を助けに来てくれた王子様の様だった。


白い肌に太陽の光が反射して輝く亜麻色の髪も相まって、上から朱莉を見下ろすその姿は、空から舞い降りてきた天使様の様だった。



「あの……そっちに行ってもいい?」


「え、あ…うん」


その姿に見惚れ顔を赤くし、固まっていた朱莉は男の子の声に条件反射で答えてしまう。

その返答に表情を明るくした男の子は、優しく朱莉に向けて微笑んでから顔を引っ込めてしまった。


朱莉は再びフリーズした。

ただでさえ綺麗な顔立ちをしたあの顔の微笑みはとてつもない破壊力だった。


男の子が何処かに行ってしまったのにも関わらず、顔の熱は一向に引かない。

あんな綺麗な人が本当に存在するのだろうか?

もしかしたら、自分の恐怖心に創り出した幻だったのではないか?

なんて考えていると目の前の家の扉が音を立てながらゆっくりと開いた。


扉の隙間からひょっこりと不安そうな顔を覗かせるその姿は男の筈なのにとても可愛らしく、此方を見てパァっと明るくなった《男》の子を見てドクンと心臓が高鳴って更に身体が熱くなる。


扉をゆっくりと閉めてからパタパタと此方に向かってくる男の子は朱莉のすぐそばまで駆け寄ってからゆっくりと口を開いた。



「ま、またせてごめんね?…大丈夫?」


「………ッ!!ぜ、ぜんぜんだいじょうぶだよっ!!」



すぐ近くまで来たことにより香る男の子の甘い香り。

さっきよりも鮮明に聞こえる男の子の声に一瞬意識が飛びかかるが、持ち直そうとした朱莉は声を大きく上げてしまい、その事にびっくりしたのか男の子はビクッと飛び上がった。


朱莉は目の前の男の子と仲良くなりたい!あわよくば、お嫁さんにして欲しいなんて思っている。


もしここにいたのが一緒に遊んでいた友達だったらきっと欲望のままに襲いかかっていたのだろう、なんて思いながらも朱莉自身は男の子目掛けて飛びかかりたい衝動を必死に抑えていた。


そんな事をしてこの出会いを壊したくなかったから必死に自分を押し殺し、無害な自分を演じた。



「あの……わたし、あかり!はるみやあかり!!」



自分の名前を名乗るのに大きな声を出してしまったからか男の子はびっくりした様子で目を見開いている。


けれど、それも一瞬で男の子はにかんだような笑顔を浮かべた。



「かなた、むまかなただよ。よろしく!」



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