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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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95. おたくくんの妄想



 「・・・・・・。」

 「えーっと、こほん。今日集まってもらったのは他でもありません。」

 「・・・・・・・・・・・・。」

 「9月にある文化祭でのクラスの出し物を今日決めたいと思います。」

 ちょっと舌っ足らずな委員長はそう言いながら黒板に大きく文化祭と書いた。

 

 ところで委員長というのはクラス委員の女子のあだ名である。

 実際クラス委員だし委員長という感じの雰囲気であるので誰が言い出したか知らないが実にしっくりくるあだ名である。

 そのおかげかクラスのみんなもそう呼んでいるらしい。

 そしてそう呼ばれると委員長はちょっと怒るらしい。最近はそう呼ばれることも諦めたらしいが。

 ちなみにこれらの情報は全てさっき北本から聞いた。北本がそういうたぐいのことに詳しいのは少し意外だと思ったが、別にこいつは社交性がないわけではないしクラスメートのことを知っていてもおかしくないなと納得した。


 「はいはーい、ちょっとみんなおちついてー」

 クラスのみんなは堰を切ったように口々にお化け屋敷だのメイド喫茶だの水着カフェだのいろいろな希望を言う。

 しかし俺はだいたいこういう議論の終着点がありふれた結論であるを知っている。

 だからぼーっと机の中に隠したスマホでニュースサイトを読んでやり過ごすことに決めた。

 



 時は8月の最終週、つまりまだ夏休みである。そんな夏休みだというのに登校日などという謎の言葉で登校の強要を正当化していることに俺は密かに憤りを隠せないでいるが学校に招集されたクラスのみなさまのテンションは非常に高かった。それは当然今の議題に対してである。


 今この空間でこの雰囲気に置いて行かれているものは俺が確認できる中では2人だ。

 ひとりはもちろん俺。そしてもうひとりはもちろん北本。なんの驚きもない。俺は1ミリも興味のない芸能人の結婚のニュース記事を読んでおり、北本は『存在と時間』とかいうSF小説かなにかを読んでいる。


 「水着カフェなんてやるわけないでしょ!」

 「お化け屋敷なんて面白くねーよ!」

 「他にまともな案はないの?」

 「高校の文化祭なんてできること限られてるだろ」

 クラスはまさに侃々諤々という感じで大盛り上がりである。

 俺は文化祭で主体的に動くつもりがないので聴衆に徹する。お化け屋敷をするくらいならメイド喫茶のほうがいいという気持ちはあるが、やる気もないのに意見を言うのは無責任な気がするのでみんなの決定に委ねるつもりだ。きっと北本も同じ考えなのだと思う。

 ちなみに教師はいない。自主性の尊重という言葉をふりかざして文化祭関係は生徒に丸投げしている。まったくいい身分である。

 

 ・・・いや、そんなことより俺には気になって仕方ないことがある。

 それは前方で楽しそうに周りの女子と話している白川のことである。

 正直に言おう、今日の登校は気まずかった。白川とどんな顔で会えばいいのかわからなかったからだ。

 1週間前、別れ際に俺は白川に・・・その・・・キスをされた。

 全く意味がわからない、あまりにも唐突なことだったが俺はキスをされた・・・はずだ。

 だが今日いざ意をを決してクラスに入ったら、白川はいつもどおり「おはようございます」と挨拶をしてきたのである。


 俺は3つの可能性を考えた。

 1つ目、白川のキスは夢だった説。

 俺はついに夢と現実の区別もつかなくなったのだ。そもそも俺が女子とプールに行ったというのも今思えばどうも嘘くさい。もはや俺は夢が現実で現実が夢の蝶々なのかもしれない。

 2つ目、白川はキスを挨拶とする文化圏に属する人だった説。

 俺が知っている日本では今、別れの挨拶にキスは用いられていないと思う。だが、世界には挨拶としてキスをするという文化を持つ国もあると聞く。白川がハーフとかクオーターとかで実は本名が白川ラブリー香織だったり白川香織・アインツベルンだったり白川・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・香織だったりする可能性もなくはない。または白川家がそういうご家庭ということもある。自分の家では当たり前ということが案外世間とずれていたなんてことは誰もがひとつくらい心当たりがあると思う。それが白川にとってこの挨拶だったのかもしれない。

 そして3つ目、白川はキスくらいなんとも思わない貞操観念の持ち主という説。

 そもそも貞操という言い回しが適切かどうか知らないが、とにかくキスくらい誰とでもできるという考えのお方だったという可能性は・・・さすがにないと信じたい。

 

 ・・・やっぱり夢だったのか?こうなってくると自分が1番疑わしい。

 だって今日の白川はあまりにもいつもどおりだ。なんなら不自然なくらい自然に見える。そうなると自分がおかしいんじゃないかと思うしかない。

 どういう意味があったのはわからないが、深く考えるほど意味がなかったのかもしれない。

 そう思うことにして見ていたのか見ていなかったのかわからないスマホをしまい顔を上げると、丸で囲まれた『メイド喫茶』がでかでかと黒板に描かれていた。

 「じゃあ担当はそういうことでいきます。」

 どうやら男子の出る幕はなさそうでホッと胸をなでおろした。

 「これから採寸するので男子はお疲れ様」

 予想通り俺達男子は早々に御役御免のようだ。

 ・・・・・・というか今日俺はなにしに学校来たんだろう。


 「あ、さいとーくんは帰らないで。」

 カバンを持ったその時委員長に呼び止められる。

 「・・・は?」

 「この後メジャー持ってくるの手伝って。」

 「なんで俺が。」

 「雑務係だし」

 委員長が黒板を指差す。

 そこには確かに雑務:斉藤と書かれていた。他の男子は買い出し係や大道具係を担当した。どうやらぼーっとしている間に係が決まったらしい。まぁそういうことなら仕方ない。裏方ならなんでもいいし、第一ちゃんと聞いていなかった俺も俺だ。

 「しっかりこき使われろよ斉藤。」

 「夏休み一人だけいい思いした報いだ。」

 教室から出ていく男子から睨まれる。

 どうやら夏休みの俺はまた男子からの恨みを買ったらしい。・・・てことはやっぱりプールに行ったのは現実だったのか。

 「ほら行くよ〜」

 ・・・・・・俺は考えることをやめて委員長の後ろについて歩いていったのだった。

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