94. One Day at The End of Summer
「なんだか斉藤くんって女たらしですよね。」
「ぶぇ?」
と思った矢先予想外のことを言い出したので危うく口の中の弁当を吹き出すところだった。
「は???俺が?」
さすがに大声が出てしまった。俺のどこをどう見たらそう思うのか。
「会う女の子女の子、みんな手中に収めて。」
「まてまてまてまて、どこでどのへんで俺がそんなことした!?」
「私と2人で始めたSSS部も気付けば女子4人になってますし!」
白川が珍しくツンツン怒っている。
「それはたまたまだろ。別に来たのが男子でもおんなじことになってただろうし。」
第一学校の男女比からこういう事象が起きても不自然ではないことくらい白川の頭脳ならわかるだろ・・・。
「それに北本さんといい佐々木さんといい順さんといいみんな斉藤くんに好意的ですし。」
「いやいや。まぁ佐々木と順は一旦置いておいたとしても、北本はないだろ北本は。」
「はぁ・・・・・・」
ジト目で睨まれる俺。もうなにがなんだかわからない。そもそもこいつはなんで今不機嫌なんだ。
「なっ、なんだよ・・・・・・」
「そういうところ、なんなんですかね。あらゆるところで無自覚で・・・ほんとこっちの身にもなってくださいよ・・・」
白川はプールのせいかいつもよりしなやかさに欠ける髪をいじりながらそっぽを向く。
「今日のお前はなんかおかしいぞ?」
前の順といい、女子ってふたりきりになると人が変わる気がする。
「そもそも!そもそもなんで私の水着だけ褒めてくれなかったんですか!!」
「は?え?」
どうした?
「今日のために買ってきたのに」
「いやいや褒めたじゃん。褒めたよね?てか俺に褒められようが何だろうがどうでもいいだろ・・・」
「他の子は褒めてたのに・・・」
「それはあいつらがうるさいから。」
「斉藤くんはわたしの水着なんて興味ないんですね。」
「いや・・・」
「わたし、スタイルにはそれなりに自信あるんですよ!」
「そう言われましても・・・」
ちらりと目線を下にやる。まぁ確かに、うん。いいよね。大きいし、くびれているし、大きいし(心の俳句)
「知ってるんですよ、今日通り過ぎる女性をちらちら目で追ってたの。バレていないとでも思ってたんですか?いつも他の女ばかり見て。」
他の女って・・・。
「いや、それは、いやぁ・・・・・・ごめんなさい」
本当にどうしたんだろうか。というかなんで俺は謝っているんだろう。俺が他の誰を見ていようが何しようが別に白川には関係ないだろ・・・。
「とりあえずこれでも食べて落ち着いてくれ・・・」
俺は静かに弁当の残りを取り分けた。
「落ち着きましたか?」
「ええ。」
「なんていうかその、どうした?」
正直俺の中の白川像がかなり変わってしまった。
「泳いで疲れているせいですかね・・・」
「今日は早く寝たほうがいいぞ。」
どうやら重症みたいだし。
「そうですね。」
「はいこれ、美味かった。ありがとう、ごちそうさま。」
そんなよくわからないやりとりをしているうちに結構な量があった弁当もすっかり空になっていた。
「こちらこそお粗末さまでした。」
白川は弁当箱を片付ける。その背中に俺はゆっくり語りかける。
「・・・なぁ白川。もうこんなことするなよ。」
「えっ?」
「まぁお前の性格じゃ他のやつらに言うのは難しいかもしれないが、俺はお前のそういうところを知ってるからな。頼りないかもしれないがもう少し俺に頼ってくれても良いんだぞ。・・・といっても弁当を食べるくらいのことしかできないかもしれないがな。」
そう苦笑いで言った。しかしそれは本心だった。
俺は白川という人間にかけられている呪いを知っている。他人のための過剰な献身、最大幸福のための尋常でない自己犠牲という呪いを。
多分白川にとってそのことは不本意だろうが、俺が気付いてしまった以上、そして恩返しとしても、その呪いの片棒をかつぐことはやぶさかではない。
なんてったって俺はいつも白川に、そしてみんなに助けてもらっている。俺がいつもみんなにしているように、たまには俺にも頼ってくれても悪い気はしない。俺なんかにできることは限られてるだろうけど、まぁ今日みたいなこともあるしな。
「・・・。もう卑怯ですよ・・・」
白川がなにか小さな声で言ったような気がした。
「なに?」
「・・・。」
白川は何も言わない。気のせいだったか。
「ま、そういうことで。じゃあな。弁当めちゃくちゃ美味かったよ。」
夕日は西の空に今にも沈みそうで、いよいよあたりも暗くなってきた。ちょうど話題もなくなったし、弁当を食べきるという至上命題も達成された。帰るにはいい頃合いだろう。
「斉藤くん!」
公園の出口に向けて歩き始めた瞬間、呼び止められる。
「ん?」
そして振り返ったその刹那。
「え?」
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それは一瞬だった。
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一瞬頬に何か柔らかいものがあたったような気がした。
「今日は、本当にありがとうございました。・・・じゃあまたっ!」
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走っていく白川の背中をただ呆然と見ることしかできなかった。
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公園の街灯が灯り我に返る。
携帯を確認すると『早く帰ってこい』という母からのメッセージが入っていた。
その夜はプールで疲れているはずなのになかなか寝付けなかった。




