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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第7章 その夏は未来を変えた
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93. その代償は優しい味がした

 「どうですか?」

 「うん、美味い。」

 「傷んでませんか?」

 「大丈夫みたい。」

 現在6時半。夕飯にはすこし早いが、昼飯が早かったのとずっと泳いでいたのが相まって昼あんなに食べたのに思ったよりも腹が減っていた。


 「お前も食えよ。って作ってくれた人に言う台詞じゃねえか。」

 お茶を汲んでくれている白川に弁当をすすめる。作った本人に言うのはなんだかおかしい気がしたが、正直いくら腹が減っているとは言えひとりで食うにはちと量が多すぎる。いざ弁当の蓋を開けてみると3段の重箱に色とりどり様々なおかずや甘いおあげが絶妙なおいなりさんがぎっしり詰まっていた。

 白状するとカバンから3段重が出てきた瞬間やばいと思ったのだが俺が食べると啖呵を切った手前残すわけにはいかない。だから端的に言うと一緒に食べてくれるととても嬉しかった。

 「ふふ、そうですね。少しいただきますか。」

 ふう良かった。その一言に胸をなでおろし周りの景色を見回す。

 今俺達は学校の裏にある小さな公園のベンチに座っている。まだぎりぎり夕焼けになるかならないかという明るさの中、ふたり並んで誰もなにもない殺風景な公園を眺めながら場に似合わず豪勢な弁当を食べているのだった。


 「お前は気を使いすぎだ。」

 エビフライを飲み込んでふと話し始める。

 「そう、ですかね。そう、ですね・・・」

 自嘲気味に笑う白川の顔が夕闇に陰る。

 「これでもし俺が気づかなかったらどうするつもりだったんだ。」

 「捨てるのももったいないですし・・・やっぱりこの公園で食べてたかもしれないですね。」

 「お前なあ・・・」

 本当にしたかはわからないが、こいつならするかもしれないと思えるから怖い。もし満パンの弁当が母親にみつかったら・・・とか白川なら考えそうだ。


 「斉藤くんだってそんなに気が利くなら日頃からもっと優しくしてくださいよ。」

 「別に俺は気が利くわけじゃないんだけどなあ。ただ気付いてしまった以上あのまま帰ったら気持ち悪いと思っただけで。」

 「それを気が利くというんですよ・・・日頃からそうならもっと・・・」

 「もっと、なんだよ。」

 言いよどむ白川。

 その表情を窺ったが、やばり黄昏の中ではよくわからなかった。

 「いえ、なんでもありません。やっぱりこれくらい生意気なのがちょうどいいです。」

 「ったく、なんだよそれ。」

 よくわからないがそういうことが言えるならもう心配はいらなそうだ。


 「順もびっくりしてたぞ。お前の気の回し方に。」

 弁当も残り半ばとなったところで以前商店街であった折に順と話したことを思い出した。

 「なんのことです?」

 しかし当の本人はなんのことかも覚えていないらしい。それだけ自然にやっているということだから恐ろしい。

 「前の旅行だよ。」

 「そうですか。」

 はにかむ白川はあまり嬉しそうではなかった。こいつにとって気遣いがばれることはあまりうれしいことではないようだ。

 「あいつ結構俺に似てるところあるからな。人の善意とかには敏感だと思うぞ。」

 おそらく悪意にはもっと敏感だろうと心の中では思っていたがわざわざ口にはしなかった。

 「まあ順も喜んでたよ。」

 順のかわりにというわけではないがちょうどいい機会なので伝えておいた。

 しかしどうやら一言がなにかまずかったらしい。

 「・・・なんでそんなに彼女のこと知ってるんですか?」

 突如白川の話し方に優しさが消える。

 「実はちょっと前たまたま商店街で会って、少し話したんだ。」

 「・・・・・・へぇ。珍しいですね、自分で外に出るなんて。」

 俺は飼い猫かなにかか?

 「ちょっとした用事があって。」

 「・・・・・・・・・へぇー。まぁ斉藤くんが誰と懇ろにしていようが私には関係ないですが。」

 どんどん話し方が冷たくなっていく。

 「いや、たまたま会っただけだぞ。ほんとに。」

 とりあえず無実を主張しておく。

 なんで俺は白川にこんな弁明してるんだろう。

 「どうだか・・・」

 「いやほんとだから。」

 つーんと俺と目を合わせてくれない白川。

 「あのー・・・白川さん・・・?」

 「・・・・・・」

 「・・・」

 また俺なんかやっちゃいました?



 「はぁ」

 白川が本日二度目のため息をする。


 「なんだか斉藤くんって女たらしですよね。」

 「ぶぇ?」


 不意打ちで白川がとんでもないことを言いだしたのだった。

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