91. 沈黙の証言
「・・・・・・カバンの中身を見たんですか?」
白川は歩みを止めない。
「いや、見ていない。」
「じゃあどうして・・・」
どうしてわかったのですかと白川の目が言っている。
俺は最後の確認をする。これから話す内容に間違いはないかと。
それはこの仮定をなかったことにする最後のチャンスでもあった。
しかしそれはできなかった。
俺はどうしてもこのまま白川がひとり不幸になる未来を受け入れられない。
俺は静かに口を開く。
「最初の違和感は朝お前がバス停に来た時に言っていた言葉だ。たしか『準備に時間がかかって』みたいなことを言っていたが、その時俺はお前なら前日までに準備してそうだけどなとぼんやり思った。だけどこれは後出しというか、今だから言えることで当時は気にも留めていない、とても違和感と呼べるものではなかった。」
ふう。ひと呼吸置いて話を進める。
「2つめは浮き輪を取り出す時。その時は何の違和感も持たなかった。むしろその時は自然に見えた。
しかしお昼の時に俺は得体のしれない猛烈な違和感に襲われた。それは多分その時無意識に仮定していたものがあまりにも自然に否定されたからだろう。それが3つ目。といかこれが全ての始まりだとおもう。お前が『弁当を持ってきていない』と言ったことだ。」
俺はこの時既に白川の表情でこの仮説は真実であることは確信していた。その表情はなにかを諦めたような、一種清々しさすら感じられる顔つきだったからだ。
「1つ目も2つ目も、弁当があれば普通のことだ。弁当なら当日の朝に準備するだろうし、浮き輪類以外でプールに持ち込むカバンの中に入っていてもおかしくないものと言えば弁当だ。
しかしそうやって無意識に仮定していた弁当の存在がさらっと否定された。あまりにもさらっとしていたから気づくのに時間がかかったよ。何ならついさっきまで俺の気のせいとさえ思った。」
滔々と語る俺を白川は静かに見つめる。
「そして最後、こいつがその違和感に実体と根拠を与えた。お前のカバンを受け取ったときだ。他の人のカバンはみんな軽くなっていた。そりゃそうだ、弁当を食ったんだ。カバンは空の弁当箱とビニールと水着くらいだ。というのも北本のカバンがびっくりするほど軽くなっていてな。それまで女子のカバンって重いものなんだと勘違いしてたんだ。だからみんなのカバンが多かれ少なかれ軽くなってるのに驚いたんだ。
・・・だがお前のカバンを持った時違う意味で驚かされた。行きも帰りも同じくらいの重さ、しかもみんなの分の弁当が入ってたはずの北本の行きのカバンと同じくらいの重さだった。そう考えると昼飯を食う時もたしか北本が弁当の話をする前は何かを取り出そうとしていた。」
たしかに今肩にかかっている俺のカバンも軽くなっている。それはもちろんおにぎりを食べたからだ。
みんなのカバンもそうだ。弁当を食べた分だけ軽くなっている。
だから軽くなっていないということは軽くなるためのイベントが起こらなかったということである。
それはつまりどういうことか。
「──しかし結局お前のカバンから"その"弁当が出てくることはなかった。」




