89. なろう系主人公の対極にいる男
「「「ごちそうさまでした!」」」
「北本さん、佐々木さん、とても美味しかったです。ありがとうございました。」
「ほんと!しずくちゃんのおべんともみなみちゃんのゼリーもめっっちゃ美味しかった!」
「あとでさっきのゼリーのレシピ教えてくれない?」
北本の弁当、大量のおむすび、佐々木の夏の果物ゼリーと、実に充実したラインナップの昼飯を完食し、女子たちはゆっくりお茶を飲んだり日焼け止めを塗り直したりしながら談笑していていた。俺はと言うと寝転がりながらそんな会話を聞いたり聞かなかったりしていた。
夏らしい蒼穹に目をやる。
こんな風になにもなくなると途端に蝉の鳴き声がうるさく感じ始めるから人間の脳というのは不思議だ。日頃見えているもの・聞こえているものは数え切れないほどあるが、確かに「見ている」ものというものはほんのひと握りなのだろう。
そんな益体のないことを考えてしまうくらいまったりした時間が流れているときだった。
「あ、白川さん!」
「わ、まじだ、白川さんじゃん。」
「あっ。」
「おおーーー白川さんの水着・・・」
女子たちの会話が止まり、さっきまで聞こえなかった種類の声が聞こえたところでやおら体を起こす。
「ああーー!斉藤てめえー!」
声の主はわかっていた。クラスの高橋と鈴木だ。
「部活だから。」
俺は事前に用意していた文言を言う。
これも十分考えられるケースだったからな。ないに越したことはないのだがそこは俺の天性の運のなさがいかんなく発揮されたようで、あらゆる面倒事に遭遇することは避けられないようだ。
「知るか!俺達がこうやって男だけで悲しくプールに来ているのにお前だけいい思いしやがって。なんでこんな女子いるんだよ。」
「合宿の時もそうだったよな。ころすぞ。」
ああめんどくさい。お前らの事情なんて知るか。
「じゃあお前らが誘えばよかっただろ。」
というか俺は誘ったわけじゃないし。どちらかというと誘われたし。
「・・・白川さんこれから俺達といs」
「ごめんなさい。」
白川は屈託のない笑顔をしていた。だがその笑顔は同時にそれ以上の発言を牽制しているように感じる得体のしれない圧力があった。
「あはは・・・じゃあそういうことで・・・・・・」
高橋と鈴木は見事に散った。「とぼとぼ」という表現がこんなにピッタリあうことがあるだろうかと言うくらいわかりやすく肩を落として去っていった。
「斉藤くん、わかりました?自分がどれだけ恵まれている立場か。」
玉砕した男子の背中を見ていた白川はこちらに向き直るやいなや俺に叱るような口調でそんなことを言ってくる。
「まぁなんとなく・・・てか自分で言う?」
何も考えていなかったので思っていることを素直に返すしかなかった。
「あ、あんまり生意気なこと言うと高橋くん達の方に行きますよ!」
なんか勝手に赤くなっている白川。
「えぇ・・・・・・」
どう返すのが正解なのか考えていた時俺はある言葉を思い出した。
女が怒った時は男が折れれば解決する。
とあるゲームでそんなこと言っていたのを俺は記憶していた。さすが男女のやりとりを学べる教育用ビデオゲームだ。しっかり頻出問題への対応も収録されていた。
おかげで対処もすぐにわかった俺はそれを速やかに遂行する。
「はいはいわかったわかった俺は恵まれてるよ。」
「もうっ。」
しかし白川はおかんむりのようだ。
「まさくんさぁ・・・。」
「まーあーくん。ダメだよ、そんな態度じゃ。」
「この男に期待するだけ無駄ですよ。」
「あんたがこんなにたくさんの女の子に囲まれている理由がほんとにわからないわ・・・」
酷い言われようだが、刻の言葉に一切反論できる気がしなかったので黙ってふて寝するしかなかった。
・・・わかってるさ、ここにいる誰もが俺にはもったいないって。
でもそんなこと言えるわけないじゃないか。
俺は自分の思っていることを上手く相手に伝えられるほど器用でも、ストレートに言えるほどの度胸もない。
ほんと、刻の言うとおりである。
「もう、しょうがないですね・・・斉藤くんは。ほらウォータースライダー行きますよ。」
「・・・。」
まったくどの世界に女子の手に引き上げられる男がいるだろうか。日頃生き恥をさらしている俺だが流石にこの状況は自分の不甲斐なさを感じ少し恥ずかしさを覚えた。
・・・あとなんで白川は少し嬉しそうなのだろうか。
まったくこの世は俺のわからないことばかりである。




