87. いつでもどこでも浮いた存在
・・・。
ふたたび浮き輪に座りぷかぷか流されていると女子たちの会話が聞こえてくる。
「みなみちゃん宿題終わった~?」
「まぁあとちょっとってところかな。順ちゃんは~?」
「数学が・・・」
「あ~ちょっと数学重いよね~」
「かおりちゃんとしずくちゃんはもう終わってそう、なんとなく。」
「私はもう終わってますよ。」
「私も。」
「はあ~~やっぱり、さすがだね~」
こんな日にそんな話題やめろよと思ったが別に俺に対する話題ではなかったので何も言うことはできなかった。ちなみに俺は全教科何も終わっていない。まったくやっていないわけではないが何かをやったと言うほどはやっていない。
第一よく考えてほしい。
なぜ夏休みなのに宿題が出るのだろうか。
脳に夏休みを与えてはいけないのだろうか。
夏休みの宿題、まさにこの国のブラック体質が現れている好例だろう。政府には働き方改革の次はぜひとも学び方改革を断行していただきたい。
「それにしても・・・」
「うん・・・・・・」
いよいよ混み始めた流れるプールはもはや歩くプールという表現のほうが適切なのではないかという有様である。
「ウォータースライダーもすごい列だし・・・」
「来てすぐ行けばよかったかもしれませんね・・・」
なんとなく朝から一発目にウォータースライダーというのも違う気がするが。
「市民プールというものを侮っていました。」
心の中で北本に同意する。正直俺も夏休みとは言え平日なら空いていると思っていた。しかし現状は市民全員プールに集結しているのではと思えるほどの人口密度だ。流れるプールから見える範囲でも他のプールの混み具合がわかる。ウォータースライダーは某ネズミの国もびっくりの長蛇の列を作っているし、波のプールは人が波打っているようにしか見えない。少子化の影響か子供用プールはそこまで混んでいないが、そこに入るわけにもいかない。
「でもあそこだけはあんまり人いないみたい。」
順が指差す。
「あーあそこはひたすら泳ぐ用のプールだからね。行ってもおじさんしかいないよ。」
「そうなんだ。」
なるほどわかった。昔の俺と父もきっとこんな感じの人混みに嫌気が差したんだ。
それで空いているプールを探し、行き着いたのがあのプール。
だから市民プールに泳いだ思い出しか無いんだな俺。
「まぁいいんじゃない?お昼まではこうまったり流されてるのも。」
「そうですね。」
俺もそう思う。
だが・・・・・・・・・いい加減言わせてくれ。
「なぁなんでお前ら俺を囲ってんの?」
現状、俺が座る浮き輪は4人の女子に完全に囲まれている。さっきまでは誰もいなかったはずなのに。
前には白川in浮き輪、そこから時計回りに順、北本、佐々木。
「それはまぁ・・・」
「なんとなく・・・」
「浮き輪に掴まりたいし・・・」
「混んでるから仕方なくですけど。」
四方八方から色々聞こえてくるがどうやらここを定位置に決めたらしい。俺はハチ公的な扱いなのか?
「誰か代わらない?」
なんか恥ずかしいんだが。
「わたし、それやってみたい。」
誰も声を上げなかったらどうしようかと思ったが順が代わってくれるようだ。俺は速やかに浮き輪から降りて順に譲る。
「んっ!えいっ!・・・ん!」
「・・・なにやってんだ?」
なぜか浮き輪につかまってぴょんぴょんしている順。
「乗れない・・・」
『それ』って浮き輪に座ることだったのか。
しかし背が小さいせいか浮き輪の上に乗れるほどジャンプできないようだ。
「・・・まあくん手伝って」
「手伝うって、どうすんだよ。」
「体かかえて。」
「じゃあ行くぞ。」
そーれ。
順をひょいと抱きかかえる。
「おあおあああ・・・あっ座れた。」
「お前ほんと軽いな。」
簡単に持ち上げられた。
「もう、急でびっくりしたよ。ああーでもこれ楽でいいね~」
「だろ?」
そういいながら浮き輪につかまる。
「やっぱりまあくんも浮き輪につかまってるじゃん。」
「あ」
どうやら人とは近くに浮いているものがあると本能的に掴まりたくなるらしい。
「・・・・・・それにしても斉藤くんって躊躇なく女性に抱きかかえられるんですね。」
「なんだよ、どういう意味だよ。」
浮き輪につかまるやいなや北本がつっかかってくる。
「別に深い意味はありませんよ、別に。」
「お前にはしねえから安心しろ。第一持ち上がるかどうか・・・」
「なにか?」
「お前じゃあ持ち上がるか・・・いや・・・・・・なんでもないです・・・」
自分からよくかわかないことでつっかかってきたくせになんで俺が睨まれなきゃいけないんだ。全く女ってのはよくわからない。
「・・・・・・」
白川、お前もか。




