86. stray girl
「結構たくさんあるな。」
「みんな考えることは一緒だったね・・・」
流れるプールから一旦上がり、浮き輪を取りに荷物置き場に帰ってきた。とりあえずみんなが持ち寄ったプールに使えそうなグッズを出してみようということになったが、どうやらみんな(俺を除く)考えることは同じらしく、浮き輪が人数分以上もあることが判明した。
「まあふたつあれば十分だろう。」
「そうですね。」
みんなで水から上がった意味はなかったがまあしょうがない。
白川がカバンの中から浮き輪を探す。なにやら大きな箱が見えるがお弁当箱だろうか。
なんとか奥から浮き輪を取り出す。
「ほれ。」
「ありがとうございます。」
その浮き輪を受け取り俺がせっせと膨らましているその時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれー、刻?刻だよね?」
背筋に悪寒が走る。
「あ、かなじゃん!」
「刻もプール来てたんだ~」
「部活休みなの今週くらいだしね。」
「そうだよ・・・ね・・・んー?んんんー????」
・・・俺だって馬鹿じゃない。もちろんこういう事態は予想していた。
何度も言うがここは市民プールだ。
当然市民がたくさん来る。
だから学校の人と会うことも十分予想可能な出来事だ。
しかし・・・・・・
「北本さん・・・だよね?」
「どうも。」
俺は決して振り返らない。その声の主がわかっているから。
「あー!あなたは、いつしか教室に乗り込んできた・・・ということは、そこにいるのは・・・」
「こんにちは、中谷さん。」
「やっぱり白川さんだ。」
なんでだ。なぜよりにもよってこいつなんだ。なんでこいつには行く先々で出会うんだ。特殊な呪いか?
「・・・」
背後で盛り上がる女子たちに気づかれないよう俺は静かに身を潜める。目の前で徐々に膨らむ浮き輪と対照的に俺の姿はどんどんしぼんでることだろう。
「斉藤くん?いますよそこに。」
万事休す。
背中に視線を感じる。俺はここで振り返るのが正解なのだろうか。振り返らないのが正解なのだろうか。
きっとここでこいつに出会わないことが唯一の正解だったのだろう。
どちらにせよ不正解ならと、俺は堂々と振り返った。
「・・・よお。」
そこには嫌な予感通り水着姿の中谷が仁王立ちしていた。さすがスポーツ女子と言うような均整の取れたプロポーションに小麦色の肌。しかしその水着はイメージに反して可愛らしいもので少し驚いた。もちろん表情には出ないよう努めたが。
「・・・いい身分ね。こんなにかわいい子たちたくさん侍らせて。」
中谷が話すのにあわせて胸のリボンが揺れる。無駄に胸を張ったいい姿勢なのがよりそれを目立たせるのでできればやめていただきたい。
「・・・まぁ色々あってな。お前は一人か?」
「そんなわけないでしょ?陸女の友達と一緒よ!」
なんだ陸女って。海女の対義語?
「あ、そうなの?」
「あっちにはるかとかもいるよ。」
そっかそう言えば中谷と刻って同じ部活だったな。ということは陸女ってのはさしずめ陸上部女子ってところか。
「あたしちょっとみんなに挨拶してくるわ。」
「ではこれから、そうですね30分くらい自由行動にしますか。」
「おっけ~ありがと~」
「ちょっとトイレ行ってきます。」
「じゃあ私も。」
「あ、私も行きます。・・・斉藤くん、申し訳ないですがお願いしますね。」
・・・。
・・。
・。
え?お前らこのまま帰ってこないなんてこと無いよな?
目の前の出来事のテンポに置いて行かれなんとも言えない気持ちの中俺は浮き輪を膨らませる作業に戻った。
・・・てか中谷の下の名前『かな』って言うのか。
水着といい意外と可愛らしいところもあるんだな。まぁこの情報を使う未来は一生訪れないと思うけど。




