85. 時の流れに身をまかせ
「さあーおよごー!!」
先陣を切って流れるプールに入っていく佐々木に続いて俺達も水に入る。
「おおおお。」
「ああ、きもちい~」
ああ~。プールの水がひんやりしていて実に気持ちがいい。散々お預けを食らっていたこともあってか一層気持ちよく感じられる。
さっきまで不倶戴天の敵とさえ思っていた太陽だが、プールに入ったらその日差しの暖かさもちょうどよく感じられる。
前でワイワイやっている女子を見ながらなにも考えずにぼーっと流れていく。幸いまだプールにまったりできるくらいの余裕は残されている。
ああなんて幸せだろう。やはり人間主体的に動くより流れに身を任せて生きたほうが楽だな。
だってここで流れに逆行して歩いてみてみろ。ただ歩きにくいだけでなく、周りから白い目で見られる。
なにもいいことはない。
何にも逆らわず何の努力もせず何も考えず、ただ流される方が自分も周りも幸せなのは考えるまでもない。
ここで大切なのは、何も考えないことだ。
蝉の声を聞き、夏の風を感じ、燦々と降り注ぐ陽光を浴びる。ただそれだけ。流される意味とかこのままでいいかとか周りの人のこととか考えちゃあいけない。全人類が流されるべきは社会の荒波でも都会の人の波でも情でもなく、この流れるプールなのだ。
・・・。
流れ行くたいしたことない景色を眺めながらなんとなく人間観察をする。
さすがに市民プールなだけあって、客層も多種多様だ。
家族で来ている人や、カップルや、中学生くらいの男子の集団。
やはり予想通りカップルが1番多いように思われる。なんとも気に食わない。
ちゃらそうなやつから真面目そうな大学生っぽいやつまで当然のように女を侍らせている。
いや、まあ確かに今日に関しては俺も多分そっち側に見えているだろうよ。
でも実際は違うからなんとも度し難い。
別に羨ましいとは思わないが、ああも見せびらかされると何だが癪に障る。
ほんとに羨ましくはないよ?
そう言うとより妬んでいるように思われてしまうのはなぜだろうか。
わざわざ言うからか。
そうか。なら何も言わないでおこう。
・・。
漫画やアニメには大体水着回か温泉回があるが、そういった回が大体6~8くらいの中盤に来るのは何か理由があるのだろうか。
温泉回といえば最近深夜アニメでも規制が厳しくて湯気や謎の光だらけなのはどうにかならないのだろうか。
きっとどちらも大人の事情があるのだろう。
ただ俺はいつまでもそういう回を入れてくれる作者や制作陣に感謝の気持ちを忘れませんよ。
・。
やはりこういう時は女子だけで来ている人たちを見るに限る。なにが良いって心が痛まない。なんならちょっと回復するまである。
それにしてもみんな結構大胆な水着を着ていて驚く。
それとなく観察していてわかったことは、なかなかのプロポーションをお持ちの方のほうが大胆な水着を着ているということだ。
どこかしらの隆起が乏しい人や、どこかしらの層が重厚な人は落ち着いた水着を着ている。
それに比べ、どこに見せても恥ずかしくないと言った体型の人はそれはもうなんでもありだ。全くありがたい。これだけでもプールに着てよかったと思える。ありがとう女子大生。俺の脳内にはjd.jpgが新たに20枚ほど追加されたのだった。
「まーーーた他の方ばかり見て、随分良いご身分ですね。」
結局色々無駄なことを考えながら仰向けに流されていたら急に日光を遮る白い布のようなものが視界に入ってきた。俺は反射で顔を避ける。
「おわ。」
「べーつにいいんですけどね。斉藤くんがなにをしてても。」
「そういいながらなんで浮き輪ひっくり返そうとしてんですかね。」
怖い笑みを浮かべた白川は俺が座っている浮き輪に手をかけている。
「それより何か用?」
話題の転換を図る。
「ちょっと疲れてしまって。」
白川の目線の先にはビーチボールで遊ぶあいつらがいた。てかこっちに手を振っている。
「行ってきたらどうです?」
「さすがにあれに混ざる勇気は俺にはないぞ。」
ああいうのって流れないプールでやるものじゃなかったっけ?
「ていうかお前この浮き輪使いたいだけだろ。」
「あ、バレちゃいました?」
そう言ってはにかみながら白川が濡れた髪を耳にかける。女子のこのしぐさにドキッとするのは俺だけだろうか。
「まぁ私も浮き輪持ってきたんですけどね。」
「もう少ししたらまた一周するし取りに行くか。」
「そうですね。」
白川がボールで遊んでいる方へ泳いでいった。
・・・二周してわかったが、案外流れるプールって間が持たねえな。




