83. 水着回はもう目の前
「・・・・・・。」
バスに乗車すると車内には同じ目的と思われるグループが2,3すでに乗っていた。
俺以外の女子は後方の長椅子に座る。俺はその前の2人がけの席に荷物と一緒に座っている。そして面白いことに俺達含め乗客みんな手に飲み物を持っている。まさに今日の暑さを端的に表していた。
しかし俺だけひとり別の席に座っているこの状況、気を落ち着けるにはちょうどいい。
やっぱりこのイベント、どう考え直しても俺ひとりにはかなり荷が重い。海外のトラックくらいに過積載である。
だって俺1人に女子5人だぞ?
そりゃ日頃もそうだが、あくまでそれは部活動であってプライベートではない。学校の性質上そうなったといくらでも言い訳ができる。
だが今日は違う。
学外、しかもよりによってプールだ。
前々日くらいまでは「せっかくだし楽しまなきゃもったいないw」なんて思っていたが今となってはそんなうわついた感情も心の余裕も一切ない。
いや、プール自体は楽しみだ。うん。水泳は俺ができる数少ないことの1つだし。
だがなんだこのいたたまれなさは。
本当にこいつらは俺といて楽しいのだろうか。俺がいないほうが楽しいんじゃないだろうか。あの日俺が図書室にいたからしょうがなく誘っただけなんじゃないだろうか。そもそも俺がこの部活にいるのが悪いんじゃないか。果たして俺はこいつらに歓迎されるのだろうか。
・・・はぁ、なんだか今どこに向かっているのかもよくわからなくなってきた。
ぐるぐるした感情の中、俺は大きなバイパス道路の面白みのない風景を眺めながら後方の女子たちの会話をなんとなく聞いていた。
「ウォータースライダーってしたことある?」
「ええ、楽しいですよ。」
「私も好き!」
「じゃあわたしと一緒に滑らない?ひとりだとなんか心細くて・・・」
「順さん初めてですか?」
「うん。」
「ほほう、それは盛大に滑らなきゃね!」
まぁ別行動すればいっか。
6人が5人になっても四捨五入すれば10人だしおんなじようなもんだろ。
「あの・・・実は私もしたことないんです・・・」
「しずくちゃんも?」
「・・・ええ、まぁその、なんか怖くて。」
「じゃあわたしと一緒に初体験しようよ!」
「・・・・・・かんがえて・・・おきます」
・・・いやいや違うだろ俺。お前は学習合宿でなにを学んだんだ。
誰がどう思うとか、誰にどう思われているとか、なにが楽しいとか、そういうことを考えすぎるのはダメだろ。
今日俺はプールに遊びに来たんだ。
ただそれだけ。プールを楽しむ、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
変に考えすぎても何の意味がない。意味がないどころか悪影響しかない。
俺の座右の銘を思い出せ。バカの考え休むに似たり。
目の前だけを見ればいいんだ。木の葉のごとく今の時の流れに身を任せよう。
「あ、そろそろ着きますよ。」
ようやく落ち着きを取り戻した俺はみんなの荷物を持って席を立った。
それにしても女子の荷物ってやたら重いな・・・・・・。
「・・・。」
「・・・今日平日だよね。」
「ああ。」
「混み過ぎじゃない?」
「・・・ああ。」
「あっづ~こんなんじゃプールに入る前に干からびちゃうよぉ~〜〜」
佐々木がそういうのも無理はない。
開場直後だと言うのに市民プールの入り口は人でごった返していた。
現在時刻9時40分。
こんな時間でも真夏の太陽は容赦しないようだ。せめて日陰に入りたいものだがそれもかなわないほど人が並んでいる。ここで熱中症になる人がいてもおかしくない気がするのだが大丈夫なのだろうか。
「この様子だと入ってからも混んでそうですね・・・」
さすがの白川もここまで市民プールが盛況だとは思わなかったようだ。
「えぇ~~・・・」
「流れるプールとか、水が流れてるのか人が流れてるのかわからない状態になってそうだな。」
「・・・・・・ああもうなんでもいいから水の中に入れて~〜」
後ろを振り返る。そこにはいつもよりもさらに小さくなった三田姉妹がふにゃふにゃになっていた。白いワンピースの(見た目は)少女がふたり並んで暑そうにしている姿は本人たちには申し訳ないがなんだかかわいらしく見えた。
北本は・・・本を読んでいた。今日の本は『ドグラマグラ』なるタイトルの小説らしい。この炎天下でそんな本読んでたら頭おかしくなるぞ。
「まぁ10時までには入れるだろ。」
結局入場ゲートをくぐることができたのは10時を過ぎた頃だった。




