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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第7章 その夏は未来を変えた
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82. The Summer


 そして迎えたプール当日。天気は快晴、まさにプール日和と言った感じだ。

 集合時間よりも早めに家を出る。

 その理由は2つ。

 ひとつは母さんと綾がうるさいから。

 昨日水着のある場所を聞いたところ誰と行くだのどこに行くだの根掘り葉掘り聞かれ、案の定翌日の今日も朝から綾に質問攻めをくらった。

 それが面倒なので急いで出たのだ。

 

 そしてもうひとつは・・・正直少し楽しみだからだ。

 いつだったか綾がどうしても行きたいと言い出して家族でプールに言ったのが最初で最後のプールになるはずだった。その時の俺は父親と2人でひたすら50メートルプールを往復していて終わったので正直プールでウェイウェイした経験がない。

 第一俺はそのへんの頭の悪い学生じゃないからプールでガールとウェーイなんて経験あるわけがない。なんなら心の中でバカにしていたまである。

 しかし今日それを経験するにあたってわかった。

 それは嫉妬だったと。

 

 今日は棚から牡丹餅、珍しくツいているのだ。

 だから全力で楽しまなければ損である。

 要するに義を見てせざるは勇なきなりってやつだ。違うか、違うな。

 とにかく思わぬプールイベントに心が踊っているのだ。

 恥ずかしさ:嬉しさ=2:8の気持ちなのが正直なところだ。

 だがそうは言ってもそういう表情を表に出すのは違うだろう。

 少しの遠回りをして俺は集合場所の学校前のバス停に着くまでに何とか心を落ち着かせることに成功した。



 

 乗る予定のバスは8時48分出発のバスである。

 現在8時34分、さすがに俺が一番乗りで未だ誰も来ていなかった。

 ・・・。

 数分経ってようやくうるさい蝉の声にも慣れ、若干家を出た時間を後悔し始めた頃、遠くに知り合いらしき人影を見つけた。

 Tシャツに短パン、少し小柄なあの出で立ちは間違いなくあいつだ。

 「おっはよーまあくん!」

 「おはよ。」

 「はやいねぇ、わたしが1番かと思ってたのに。」

 「まぁな。ほら家近いし。」

 「ふーん、ま、そういうことにしておくよ。」

 ・・・どうやらこいつには心のうちが見破られたらしい。なぜだ、俺の擬態は完璧のはずなのに。

 「それよりお前荷物多くないか?」

 「ふっふっふー、今日の南ちゃんスイーツはいつもとは一味違うよ~」

 「お、楽しみ。」

 「それに色々グッズ持ってきたからね。浮き輪とかビーチボールとか。」

 それは結構。我が家にはそういうものは一切なかったがやっぱりそういう類のグッズはあったほうがいいだろう。

 「ほら。」

 「なに?」

 「それ、渡せよ。」

 「あ、ありがと。」

 グッズの入った手提げを受け取る。さすがに何も持ってきていないうえに一人楽な思いをするのは忍びない。


 「おはようございま~す」

 木陰で2人、他の人の到着を待っているとさっき佐々木が来た方とは逆の方角から声が聞こえた。

 こっちから来るだろう人は一人しかいない。

 「おはよ~相変わらず可愛いねぇー」

 同意。水色の涼しげなスカートがなんともかわいらしい。絶対に口には出さないが。

 「よう。」

 「少し遅くなってしまいました。準備に手間取って・・・」

 白川は大きめのカバンを叩く。全然遅れていない気がするのだが白川は何時に来るつもりだったのだろうか。

 「お二人とも早いですね。」

 「うん!今日が楽しみで仕方なかったからね!」

 「俺は家が近いだけだけどな。」

 「いつもの学校は来るの遅いじゃないですか。ここ学校前のバス停ですよ。」

 もう何を言ってもダメだ。黙っておこう。

 「おはよー!」

 声の方を見ると手を振る小柄な影とお辞儀をする小柄な影が並んでいた。ふたりとも白いワンピースに麦わら帽子というTHE夏の装いである。高校生には見えないが。

 「おはよう!」

 佐々木と刻は謎のハイタッチをしている。お前らそんな仲良かったっけ。

 「おはようございます。絶好の日和ですね~」

 「ほんといい天気でよかった~。早くプールに入りたいね。」

 一瞬で1対2対2の構図が出来上がった。俺は話の輪から完全に外れてしまった。それを象徴するようにつ俺の体は半分陰から出ていたのだった。


 することがないので時計を確認する。ただ今8時43分。まだ集合時間2分前である。みんな真面目だなぁ。そして1番最後の人が最も真面目なのできっともうすぐ来るであろうことは容易に想像できた。

 「すいません、遅れました。」

 ほら来た。

 「いえいえ、全然遅れてませんよ。」

 「おはよー雫ちゃん!」

 黒い服に茶色いスカート。まさに真面目といった感じの北本が5分前に到着した。

 これで全員揃った。あとはバスを待つのみである。



 「日焼け止め塗った?」

 「もちろん、家出る前にたくさん塗ってきましたよ。」

 「かおりちゃん肌きれいだもんねー」

 「順さんだってきれいじゃないですか。」

 「いやいや私はただ日に当たってないだけ。」

 「私だってそうですよ。」

 ・・・。

 「雫ちゃんあれ持ってきた?」

 「ええ、ちゃんとこの中に。」

 「え、なになに?」

 「まあそれはお昼までのお楽しみということで。」

 「なになに教えてよしずく~。」

 ・・・・・・。

 この空間の孤立点こと俺は女子たちの親密度の変化に心和ませながら一人日向でバスの到着を待っていたのだった。








 嘘である。

 これからの出来事を想像すると心は全く和んではいなかった。

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