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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第7章 その夏は未来を変えた
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81. 日本の夏、緊張の夏


 さっきまでの外の暑さもすっかり忘れ、みんなで涼しい空間を享受する。全くクーラーとは偉大な発明だ。

 「で、今日は何か集まった理由は?」

 もしかしたらというか多分何もないんだろうとは薄々思っているが、全員が揃ったということで本日集まった理由を部長さんに尋ねる。

 「それがですねー。」

 ふふふと白川は笑う。む、これは予想が外れたか。なんかあるな。

 「実は母が仕事先で譲ってもらったらしく。」

 そう嬉しそうに言いながら何かの紙きれを机の上に広げる。

 「プールの入場券?」

 一枚手に取った佐々木がその紙切れの正体を明かしてくれた。どうやら白川の取り出した紙は市民プールの入場券らしい。

 「せっかくですし今度皆さんで行きませんか?」

 ・・・・・・。

 ・・・。

 「いいね!そう言えば今年の夏はまだ夏らしいことしてないし!」

 喜ぶ佐々木。

 「わたし、その、そういうところあまり行ったことなくて・・・」

 なんて言いながらも満更でもなさそうな順。

 「なら決まりですね!」

 実は1番楽しみそうな白川。


 ・・・・・・。

 ・・・。

 俺は今この空間に恐ろしい温度差があることを肌で感じだ。それはもうこの部屋と外くらいの温度差だ。

 現状沈黙を貫いている人物がこの空間に二人いた。

 一人はもちろん俺。

 ここで何かを発言するのは悪手以外の何物でもない。

 そもそも頭数に俺が入っているかは五分五分だ。

 だってプールだぞ?

 俺とは対極にある存在だ。あんな陽の空間に行ったら陰の俺は中和されてこの世から消え去るだろう。

 仮に頭数に入っていたとしても喜ぶべきか悲しむべきかいかなる反応をしても白い目で見られるのは必至だろう。

 喜べばスケベと言われ悲しめば空気を悪くする。

 ここは沈黙。それ以外ない。

 久しぶりに俺は背景に同化した。

 「今度水着買いに行かない?」

 「いいですね!」

 「わたし水着買うの初めて。」

 「それは選びがいがありますなぁ~。」

 「ふふふ、そうですね。」


 ・・・・・・。

 ・・・。

 そしてもう一人沈黙を貫いている人がいる。

 「北本さん・・・?」

 そう、北本だ。

 「え、あ、はい。プールですか・・・。」

 「しずくちゃんも水着買いに行くの一緒に行くよね?」

 「え、ええ・・・」

 「あ、これ6枚あるよ?」

 「そうなんです。だから順さん、刻さんにも声をかけてもらえませんか?」

 「いいの?2枚も私たちがもらっちゃって。」

 「むしろありがたいんです。使えなければただの紙ですから。」

 「そういうことなら・・・。わかった、ありがとうね。」

 「いえいえ。」

 ・・・・・・。

 ・・・。

 とりあえずわかったことは俺も頭数に入っていることと北本はプールにあまり乗り気ではないということだ。

 理由については・・・、まあなんとなくわかるような気もしないでもないがここはわからないということにしておいたほうがいいのだろう多分。

 

 「まさくん期待しててね?」

 「へ?」

 「私たちの水着。」

 佐々木はなんだかよくわからないことを言いながら頬を染める。

 「・・・・・・白川、こういう時どう答えるのが正解なんだ。」

 白川に助けを求める。

 「さあ、ご自身で考えてみては?」

 「おーい。」

 が、助けの手は差し伸べられず、そのかわりになぜか3人は笑っていた。こっちの気も知らずにまったく・・・。

 ・・・・・・ってかまじで俺こいつらとプール行くの?本当に?

 いや、別に嫌じゃないけどさ。でもさ、素直に喜べるほど人間できてないんだけど俺。

 「てか確認だけどさ、俺行っていいの?忘れてるかもしれないけど一応俺男だぞ?」

 「来たくないんですか?」

 「いや、そういう・・・」

 俺でもわかる、これはきっと千載一遇のチャンスだと。多分クラスの男子なら両手を挙げて喜ぶような場面だと。

 これまでフィクションだと思っていたアニメの水着回は本当は実在していたのだ。

 だが、これまでの俺のスタンスとちっぽけなプライドと出処のわからない不安が俺の頭を支配する。



 「来たく・・・ないんですか?」

 白川はじっと俺の目をまっすぐ見てくる。

 「・・・行かせていただきます。」

 だからその目をやめてくれ。

 ・・・ああもうなんも考えられん。いいよ、多分1番このイベントに胸を躍らせているのは俺なんだから。行く行く行かせていただきます。

 「ではどの日に行くか決めましょうか。」

 にこにこしながらみんなが日にちを決めるのを見る俺の顔はきっと傍から見たら相当気持ちの悪いものだっただろう。

 だってどうしてもこいつらの水着姿を想像してしまう。

 別に今時ちょちょっと検索すれば水着どころではない画像がいくらでも液晶画面を通して見ることができる。でもなぜだろう、知り合いのそういう姿を想像すると特別ゾクゾクしてしまうのは。それは普段の姿を知っているからだろうか。そういうバックグラウンドがよりその非日常の姿をより特別なものにするのだろうか。

 いかんいかん、邪な気持ちがむくむくと育つ。・・・・・・とりあえず落ち着くために北本を見ておこう。

 「・・・・・・なんです。」

 「いや・・・べつに・・・」

 ひぇっ、こわ・・・。北本は人が殺せるんじゃないかという目をしていた。

 ここはそっとしておこう・・・

 「私が水着なんて・・・私の水着なんて・・・」

 ・・・聞こえないふり、聞こえないふりをしておかなければ。

 今北本の方を見たら間違いなく殺される、そう本能が言っていた。

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