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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第6章 新世界を覗き見て
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73. 俺がおねショタを好きになれないただひとつの理由



 「・・・・・・いま、なんて言った?」

 それはいつもの夕食時。

 「ねえねえ何時に着くの~?」

 俺はあまりの驚きに箸を落とす。

 「11時くらいに着くってメールには書いてあったわよ。」

 嘘だ。嘘だろ。

 「やったー!え~いつ以来だろ~」

 「綾が会うのは小学生以来ね。」

 母と妹の声がどんどん遠ざかっていく。

 「そういうことだからあんたも心づもりしておいてね。」

 「おにぃは嬉しくないの?」

 「あ、あぁ・・・・・・」

 俺はどちらに返事したのだろうか。

 もうそんなことはどうでもいい。

 「くれぐれも麻美子ちゃんの前ではいつもみたいなだらしない格好しないでよ。」

 とにかく俺の安寧の時代は今日いっぱいで終わるようだ。

 

 

 斉藤麻美子、通称まみ姉は父親の兄の子供、つまり俺と綾のいとこにあたる人だ。

 年は俺達より少し上で今は多分大学生とかそのあたりだと思う。正確にはわからないが多分それくらいの年の離れ方だったはずだ。

 というのもまみ姉と最後に会ったのはもう随分前で、確か俺が中学に上がるかどうかという頃だったと思う。

 

 「ちょ、ちょっと待て。なんで突然うちに来ることになったんだよ。」

 要するに俺とまみ姉の関係はそれくらい遠いものなのだ。

 それこそこんな風に夏休みに泊まりに来るような関係では決してなかったはずだ。

 「少し前に伝えたでしょ。」

 「え?そうだった?・・・いや、そういう意味じゃなくて。これまでこんなことなかっただろ。」

 そう言われてみれば少し前、晩飯時そんな話をしていた日があったようななかったような。なにより更新が遅いせいで少し前と言ってもいつのことやら・・・。


 いや今となってはもうどうでもいい。問題はなぜ突然俺の唯一の安寧の地をいたずらに破壊するに至ったのだろうかということだ。

 それ相応の理由がないと納得しねえからな。


 「なんでも大学生になって夏休み暇なんだって。」

 そんな・・・そんな理由かよ・・・・・・。

 



 「なにおにぃそんな嫌がってるの?せっかくまみ姉さんが遊びに来てくれるのに嬉しくないの?」

 「嬉しいわけあるか!」

 まみ姉との過去のアレコレを思い出し背筋が凍る。

 「なんで?なんかトラウマでもあるの?」


 トラウマ。

 きっとそれはトラウマというより本能的・生理的忌避に近い。

 まだ俺も綾も小さかった頃、よく母に連れられてまみ姉のうちに遊びに行っていた。

 その時まみ姉は俺達を引き連れて野山を駆け回った。

 まみ姉も綾も運動神経がいいから、どんなに急斜面でもどんなに高い木でもどんなに足場の悪い道でもすいすい進んでいった。

 俺はと言うとその時から引きこもりの頭角を現していていて運動はてんでダメだった。

 だから俺は怖かったと思う。

 急斜面も俺を無理に連れて行くまみ姉も。

 夜になって風呂に入るときも俺が唯一の男だからか散々まみ姉にいじられた。

 俺は内心嫌だったのだろうが、当時の俺にNOという勇気はなかった。

 しばらくしてまみ姉が小学生になり次第に疎遠になった。


 そしてそのまま時が流れ数年後、まみ姉の家の引っ越しが決まった。

 送別会という名目で俺は久々にまみ姉と再会したその時、俺は悪寒に襲われた。

 たしかその時まみ姉は中3か高1だったと思うが、まみ姉は昔のままの性格だった。

 「よーうマサ!元気だったー?少しは運動音痴治ったかーー??あっはっは!」

 俺は肩をガシガシ叩かれるなか苦笑いしかできなかったことを今でもよく覚えている。

 そんな経緯でまみ姉は晴れて俺の苦手女リストの記念すべき1人目となったのだった。


 

 「昔はあんなに仲良さそうに遊んでたじゃない。」

 「ははは。」

 所詮親なんて子供のことちっともわかっていない。うちの子はそんなことするはずないって言う親の子に限って裏ですごいことしてるのは漫画のお約束だ。

 「あやは大好きだよ。少なくともおにぃよりは。」

 「あっそ。」

 どうやら綾の苦手女リスト入りも早そうだ。いやすでに入ってるか。

 「はぁ~~楽しみだなあ。」

 まあいい。なんてったって数年ぶりに会うんだ。ちょっと顔を見せてすぐ帰るだろう。いくら親戚とは言え長居は遠慮するだろう。うん、長居はしない。多分しないと思う。しないんじゃないかな。

 「で、まみ姉さんは何日いる予定?」

 「1泊するって。そうだ綾の部屋に布団敷いとかなきゃ。」

 神は死んだ。


 

 いつもより入念に自分の部屋の掃除をして疲れたはずなのに一晩中うなされて迎えた翌日の午前11を少し過ぎた時、いよいよその時がくる。

 ピンポーン。

 インターホンが死を宣告する。

 母親と綾は玄関の方に駆けていった。俺はリビングのソファの上で震えていた。

 「お久しぶりでーーーーーす!!!」

 「わあああひさしぶりまみ姉さんーーー!!」

 「おおーーー綾ーーー大きくなったなあ。もう中学生だっけ?????」

 ああ・・・。このデシベル。間違いなくまみ姉だ。

 「まあまあまずは上がって。」

 ちっババアめ余計なこといいやがって。そのまま玄関で5時間くらい過ごしててもいいのに。

 「3日間よろしくお願いします!!わあ懐かしいなぁこのおうち~」

 足音が近づいてくる。それに呼応して俺の心臓の音も大きくなっていく。

 「あれーーーマサはどこ????」

 ああ万事休す。

 「ああおにぃなら」

 扉が開く。

 「ど、どうも・・・」

 「あああああーーーー」

 そこからは俺くらいあろうかという女性にしては長身で、スタイルも大人びてて、しかし顔立ちと言動からは一切その年齢を感じられない子供のようなお姉さんが勢い良く入ってきた。

 「おおーーーー大きくなったなあ!!!!!」

 顔を上げると縮地でも使ったのではないかと思うほど一瞬で間合い縮まっていた。

 「すっかり背も大きくなって!!!」

 そう言って俺の頭に手を伸ばしてくる。

 もうなにもかもうるさい。動きも声もなにもかもだ。今まででこんなに感嘆符が多く並んだことはないんじゃないかと思うほどうるさい。

 「まあもう高校生ですし・・・」

 「そうだったね!合格おめでとう!!そうかあーーー。ってなんで敬語なの??久しぶりで緊張してる????」

 「もうおにぃ照れちゃって~~~」

 「ははぁ・・・・・・」

 「もーう、相変わらずくぁわいいなぁぁーーー!!」

 ははは。誰か助けてくれ。

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