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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第6章 新世界を覗き見て
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72. 真夏少女試論・完


 「でもやっぱり嫉妬しちゃうな。特に白川さんには。」

 「え?」

 自販機で飲み物を買い2、人で公園のベンチに腰掛けると順はおもむろにそんなことを言いだした。

 「わたしもあんな笑顔で話してみたい。あんな体で歩いてみたい。あんな心で生きてみたい。」

 「お前だって、十分きれいな見た目してると思うけど。心は知らんが。」

 高校生的なかわいさかどうかは言及しないでおくが、実際色白でかわいらしいと思う。

 「喜ぶべきか悲しむべきか微妙な言葉だね・・・」

 「あいつみたいな心を持てるのはきっとあいつだけだろう。」

 なぜなら俺は知っている。彼女の内なる苦悩を。自覚なき苦悩を。俺とはまた違う、生まれながらにしてかけられている呪いを。

 「うん。だって普通の人は出会って数日で気持ちを察して旅行を提案できたりしないよ。」

 やっぱり気付いてたか。

 「あいつはああいうやつなんだ。いや、さすがに何様なんだって感じだが。」

 さすがに尊大が過ぎる気がして苦笑い。

 「でもきっと彼女もまあくんといると楽しいからいつもニコニコしてるんだよ。」

 「俺といないときだってニコニコしてるだろ。多分。」

 俺がいないところは俺がいないからわからないが。

 「俺に優しい人ってのは俺に優しいのではなく俺"にも"優しいんだ。」

 そう、俺にさえ優しく接してくれるんだから。

 「さすが冷静だね。」

 「なんてったって冷めてるからな俺達は。」

 俺達は2人でひとしきり笑った。

 

 「そろそろ帰るか。」

 「そうだね。」

 俺達は飲み終わった缶を捨てに自販機の方に歩く。公園の出口のアスファルト舗装された道に立つ陽炎が暑さを物語っていた。

 「なんか話し込んじゃったね。」

 「な。」

 この暑さじゃこどもも家で遊んでいるようで話している間ほとんど人が来なかった。

 「白川さんの話が多かった気がするけど。」

 お前がふってくるからな。

 ・・・といってもなんだか高校に入ってからの俺の生活にはいつもあいつがいる気がせんでもないが。

 もっとフラットでビジネスライクな関係に鳴ると思っていたのにどこで間違えたのだろうか、実に不思議だ。


 「やっぱりまあくんやっぱり白川さんが好きなの?」

 「は?どうした急に。」

 全く予想外の話題展開に動揺する。

 そんな話になる流れじゃなかっただろ。

 「えーじゃあ北本さん?勉強してる時ずっといちゃいちゃしてたもんね。」

 「あのなぁ、そういうことじゃなくて。」

 「じゃあ佐々木さんなの?まぁ彼女もまあくんにぞっこんみたいだしね。そしてなによりあのおっぱい・・・」

 「なんだ、どうしたほんと。暑さにやられたか?救急車呼ぶか?」

 順の猛攻に思わずたじろぐ。あまりの暑さでおかしくなったのかこいつ。

 「いやいや、実はずっと気になってたんだよ。SSS部の人間関係がどうなってるのかなって。」

 「どうもこうもない!あいつらはただ同じ部活ってだけだ。」

 「ほんとぉ~~?」

 順はグイグイ迫ってくる。お前そんなキャラじゃなかっただろ。

 「第一俺は一般に人を好きにならない。」

 なれない、の間違いかもしれないが細かいところは今どうでもいい。

 「これまで誰とも付き合ったことないの?」

 「あるわけないだろ。第一俺みたいなオタク。」

 「オタクなの?」

 「あ。」

 「そうなんだ。」

 「と、とにかく俺は誰かを好きになったことはない!」

 「学校であんなに女の子はべらせてるのに?」

 「人聞きの悪い言い方するな。あの部活が女子だらけなのはたまたまだ。そもそもクラスだって、学校全体だって女子だらけだろ。」

 「ふーん・・・」

 そういいながら順はにやにやしている。完全に俺を疑っているなこのやろう。

 「じゃあそう言うお前はどうなんだよ。」

 「わたしは・・・わたしはそもそも学校あんまり行ってなかったからね・・・」

 「・・・そうか。」

 場が一気にトーンダウンする。売り言葉に買い言葉とは言え少し申し訳ない気持ちになった。

 「だから・・・」

 順が耳打ちしたいのかかがむように催促するので素直にそれにしたがう。

 「だから安心して。わたし、まだ・・・処女、だよ。」

 ・・・・・・。

 「は???」

 予想外の言葉に驚き思わず距離を取る。

 「お、お、お前何いってんの?」

 さすがに自分でも動揺しているのがわかる。

 「えへへ、ちょっとは元気出た?」

 まったく。ちょっと悪いこと言ったなという俺の申し訳ない気持ちを返せ。

 やっぱお前キャラ変わりすぎだよ・・・。

 てか恥ずかしがるくらいならそんなこと言わなきゃいいのに。


 そんなよくわからないぐちゃぐちゃした気持ちの中、赤い顔をしながら手を振って走り去っていく順の後ろ姿に手を振った。

 




 さっき順と並んで歩いた道を今度は1人で歩く。

 ようやく平常心を取り戻しつつある中、さっきまでの順との会話を思い返す。

 相変わらずなんとも言えない掴みどころのなさがあるが、今日確信できたことがあった。


 順は世界を極めて冷静に見ている。


 それは俺の他人観のような、北本の勉強哲学のような。

 つまり大きな諦めがそこにはある。

 もしかしたら掴みどころのなさもこれに起因しているのかもしれない。

 俺が他人と上手く関われないように、北本が過剰に勉強に依存しているように。

 順も自分という存在の扱い方が不自然になってしまうのかもれない。


 俺は彼女の人生を知らない。

 だが不躾ながらつい彼女のこれまでの人生の歩みを想像してしまう。

 どういう人生を歩めば世界に対してここまで冷静にいられるのだろう。

 人というものは諦めると余裕が生まれると思っている。

 俺も他人というものに対してある種の諦めの感を持っている。

 その不可侵さや理不尽さに、だ。

 そういう諦念は人からやる気を失わせる。

 だから俺は他人に対してどこまでも冷静になってしまう。

 俺のこの感情から演繹すると順は世界を諦めているということになる。

 しかしそれは俺とは似て非なるものである。

 それはあまりにも広大で深遠な諦念である。


 だから俺はつい考えてしまう。彼女はどういう人生を送ってきたのだろうか、と。

 もう周りはすっかり暑くなっているはずなのに今の俺は何故かそこまで暑さを感じなかった。

 



 

 ・・・・・・帰り道、再びアニメショップの前を通ったその時だった。


 「あ。」

 「あ。」

 気付いたのはほぼ同時。


 俺達はそれ以上の言葉を交わすことなくそれぞれ帰るべき場所に歩いた。

 「なんでいつもあんたがいるのよ・・・・・・」

 ただすれ違う時そんな言葉が俺と同じ青いビニール袋を持った中谷から聞こえた気がした。

 ・・・そりゃこっちのセリフだよ。


 なんで俺は家を出るたびこんなに知り合いと会うんだ?

 

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