69. 俺の妹がこんなに可愛くないわけがない
金沢旅行から数日経ち、俺は再び怠惰な生活を送っていた。
というのもようやく待ちに待った高校野球が始まったからである。
生まれながらのインドア人間である俺は自宅でスポーツ中継を見るのが大好きである。
野球・サッカー・ラグビー・相撲・ゴルフetc。どれも見ているだけでとても楽しい。
その中でも高校野球は個人的に格別である。
なんというかプロにはない技術の荒削り感がなんともたまらない。
それに球児の人生を賭けた真剣さが何より見ていて感動する。
人間自分の持っていないものに惹かれると言うが、まさにそのとおりだと思う。
球児の真剣さや瞳の輝き、勝った時の喜び、負けた時の心からの悔しみ、どれも俺にはない。
だから見ていて楽しい。
ただひとつ言いたいことがあるとすればもう少し遅い時間から始まってほしい。第一試合を見逃した回数は数え切れない。
「おはよ~。」
早速テレビの前を陣取っている俺の背後から綾の眠そうな声がリビングの入り口から聞こえてくる。
「あれおにぃなんで起きてるの?」
「今日から甲子園。」
「あ~もうそんな時期かぁ。」
綾は今日も部活だろう。でもなきゃ普通の人間は休みの日こんな時間に起きない。
「今日も部活か?」
「今日は友達と遊びに行く。というか部活あったらもっと早いし。」
部活ではなかった。
「あやテレビ見たいんだけど~」
「だめだ。もう始まる。」
テレビには整列する球児の姿が映し出されていた。
「いいじゃんこれから何時間も見るんだから~」
「いいやだめだ。高校野球ってのは一瞬見逃すとあっという間に点が入ってたりするんだから。」
もちろんそれも好きな理由である。
「おにぃこそあの変な部活には行かないの?」
「あれは当分ない。多分。」
白川曰く週1くらいで皆の都合のいい日に集まるらしい。もちろんその予定合わせの会合に俺はいない。都合のいい日しかないので。
できれば野球のある日は避けてほしいが、別に図書室にいたとしてもスマホのラジオアプリで聞けるのでそこまでの週1くらいならそれもまた乙かななんて思っているので別に俺が会合にいないことはそこまで気にしていない。
「まあいいや。はい。」
綾は俺の返事には興味なさげに何故か俺に手を差し出てくる。
「なに。」
「リモコン貸して?」
「断る。」
なんとなくそう言われるんじゃないかと思っていたので間髪入れず拒否する。
「ねえママ~またおにぃがテレビ占領してる~」
はっ。綾のやつ母親に助けを求めに行ったな。だが甘い、俺がスポーツ見るのを好きになった原因はそもそも母親なんだから。
お前と父親だけなのだ、この家族でアウトドア派なのは。
つまり今の我が家では俺側がマジョリティーなのだ。
だからきっと俺のスポーツ観戦を認めてくれる。
「あんた、綾にテレビ見させてあげなさいよ。」
「は?」
え?
「あんたと違ってたまにしかテレビ見られないんだから。」
あれえ~~~~
「ほら早くリモコン渡しなさい。」
その期待は幻想だった。
家でも学校でも女どもの圧政に屈する俺だった。なんでだろう、高校に入ってからそんなことばかりのような・・・。
俺は思わず自分の手相を見る。
・・・まあいい。綾はちょっとしたら友達と遊びに行くだろう。ここは優しいお兄ちゃんとして譲ってやってもいい。
「いつ家出る予定なんだ?」
観念してリモコンを手渡しながら尋ねる。
「12時くらい?」
「は?」
「なに。なんかあるの?」
「いやいや、じゃあなんでこんな早く起きてきたんだよ。」
「おにぃと違って普通の人はちゃんと午前に起きるもんなの。」
「へぇ・・・」
カルチャーショックに打ちひしがれる。
まじか・・・。小学生のときしっかり睡眠を取りましょうと教わって以来しっかり睡眠を取っている優等生は俺だけのようだ。みんな不健康な生活してるんだね。
「ほら、はやくどっかいって。」
茫然自失の俺をよそにテレビの画面はすでによくわかからないドラマに変わっていた。
現在10時、すでにやることがなくなった。夏休みに入って全く麻雀に勝てないのだがこれは呪いだろうか。
まったくテレビがないとどうしようもない。てか俺どんだけテレビに依存してるんだ。昨今若者のテレビ離れが叫ばれていらしいが、そうなら俺は若者ではないらしい。
・・・家出るか?
一応旅行から数日経って外出できるだけの体力は復活した。
それに目的もある。
読んでいる漫画の新刊が発売されたからそれを買いに行くという目的が。
・・・・・・出るか?
今日ももちろん暑い、暑いがまだ午前中ということもあってか普段よりは暑くない。
何よりこのままなにもない自室で寝ていても仕方ない。
・・・・・・・・・・・・・出るか。
俺は冷房の効いた部屋に別れを告げる決心をして夏休み4回目の外出をすることにした。




