67. Beyond Words
「すごい人だな。」
夏休みとは言え平日なのに徽軫灯籠とやらに近づくにつれ人がどんどん増えていく。
「ええ、あ、少し見えてきましたね。」
北本が指差す方向を見ると石の橋と灯籠がある大きな池が見えてきた。
「みんなこれを見るために来てるのか。」
「これだけじゃないと思いますが・・・まあ一番はあそこから見える景色でしょうね。」
「へえ」
今時ネットで写真どころか動画で見れるのにわざわざこんなに多くの人が金を払って自発的にその景色を見に来ているのか。
テレビの絶景特集でも心ときめかない俺には到底真似出来ないだろうな・・・。
第一風景とかじゃなくてももっと手軽でわかりやすい心ときめくコンテンツが今のネットにはあふれている。
興奮している北本には悪いが俺は結構冷めた状態で兼六園観光を終えることになりそうだ。
「きっと実際にあそこに立ったらわかりますよ。」
「どうだろう・・・・・・俺感性鈍いしな。」
「まあまあ、ほらもうすぐです。」
北本につられて歩みを進める。
「あっ、すごい。」
カメラを持った人が何人かいる灯籠と橋がよく見える場所に到達した俺は・・・・・・
「・・・・・・」
・・・・・・俺は言葉を失った。
手前には灯籠と橋。奥には中央には池。後景には松の木。完璧なバランスでまるで絵画のようで。
どの要素も自己主張をしてこない、しかし写真では感じられない迫力がそこにはあって。
この風景を人が作っているということをつい忘れてしまうくらいにあまりにも自然で。
・・・・・・そんな言葉で説明することもおこがましいような圧倒的な『美』が眼前に広がっていた。
「どうです?」
「あ、ああ・・・・・・」
「きれいでしょ?」
「想像以上だった。」
「よかったです。一応斉藤くんにも喜んでもらえて。」
「お前が金沢を提案したのか。」
「ええ。」
「・・・・・・よかったよ。うん。」
「ふふっ。よかったです。」
初めて俺は美しいということを心で見ることができた。
「・・・・・・」
佐々木が石橋を渡ってこちらへ来る。
・・・表情を見る限りどうやらこの体験をしたのは俺だけではなかったようだ。
そのあとは、茶屋街を歩いたり、金箔のソフトクリームを食べたり、武家屋敷を見たり、白川がナンパされたり、お土産を買ったり、順に誕生日プレゼントを渡したりしてあっという間の金沢旅行が終了した。
さすがにみんな疲労困憊のようで帰りの電車では行きのときのような盛り上がりはなかった。
「お前は眠くないのか。」
行きではやかましかった対面の3人娘は全員方を寄せ合って寝ている。
「少し眠いですけど誰か起きてないといけないですし。」
「俺が起きてるから寝ていいぞ。」
「それが一番危ない気がするんですが。」
「・・・お前らって俺のことなんだと思ってるの?」
「冗談ですよ。私は斉藤くんを信用しています。」
「ったく。」
外の景色はもう真っ暗で何も見えなかった。
「楽しかったですね今日は。」
「・・・・・・まあそこそこ。」
「相変わらず素直じゃないですねぇ。」
「いいだろつまんないって言ってるわけじゃないんだから。」
「ふふふ、まぁそうですね。」
口ではそんなことを言っているが正直かなり楽しかった。
いつもの刺激のない生活では味わえないであろう高揚と興奮と衝撃を体験できた。
写真や動画で見て知った気になっていたものも、自分の目を通して、自分の肌で感じて見たものとは全くと言っていいほど別物ということを痛感した。
今の世の中はすぐ知ることができる。
だからこそ知らないものが増えたような気がする。
今やスマホでどこでも調べられるしいつでも画像なり映像なりで見ることはできる。
しかし目に見えないところにこそ面白さや真髄や本質があるのかもしれない。
・・・って今日初めて知った俺がこんなことを思うなんて生意気だな。
全く俺は生意気な弟だ。
俺は苦笑しながらやはり目のやり場に困るので仕方なく外の真っ暗な風景を見る。
「なにか見えますか。」
「いや、なにも。」
行きのときよりなにもない真っ暗な景色だが、なぜだか俺には帰りの風景のほうが色鮮やかに見える気がした。
「・・・くん。斉藤くん。起きてください。」
「・・・・・ん」
「もう着きますよ。」
・・・あんなこと言っておいて結局寝てしまったらしい。
「「「・・・・・・」」」
「ん?」
なんか窓にはないはずの柔らかさを頭に感じる。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「もう、私立ちたいんですけど。」
「あっ、す、すまん!」
どうやら白川に寄りかかって寝ていたらしい。
それに気付いた俺は慌てて目を覚ます。
「何寝てるんですかしかも気持ちよさそうな顔してああ情けないいやらしい。」
お前らだって寝てたくせに、とは反論できなかった。
「じゃあねー」
「さようなら」
駅でみんなと別れる。
「じゃあ行くか。」
家が同じ方向である白川と2人で歩き始める。
夜だからか、旅の疲れからか、それとも静寂を楽しめるほどの間柄になれたからか。
2人無言のまま静まり返った道を歩いていた。
「・・・。」
しかしその時俺の頭の中では今日の旅行の違和についてどうしても考えずにはいられなかった。




