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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第6章 新世界を覗き見て
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65. 図書室発混沌行き



 人生は旅のようなものなんて言うが実際の人生なんてそんな色鮮やかなものではないだろう。

 少なくとも俺の人生で旅を感じたことはない。

 旅で人生観が180度変わったみたいなことを言う人もいるらしいが、これも怪しい。

 旅の1回や2回で変わる価値観なんてたびに行かなくてもコロコロ変わるだろと思う。


  「なにか見えますか?」

  「いや、別に何も。」

  学校に緊急招集されてから3日後俺達5人は早朝から日帰りの旅行に発った。

  「久しぶりだな~旅行。」

  「そうなの?」

  「病院にいることが多かったからね・・・・・・」

  「ああ・・・・・・そっかぁ。」

  「だからこの旅行が決まった時すごく嬉しかったの。」

  「今日は順さんの歓迎も兼ねているのでぜひ楽しんでください。」

  「いつもみんなで旅行とかしているの?」

  「そうでもないよね?」

  「ええ、たまたま夏休みでしたし。白川さんが18きっぷを提案してくれなかったらきっと今もあの図書室にいたと思いますよ。」

  「・・・・・・そう、なんだ。」

  「だから運がいいよ!」

  目の前では楽しげに談笑する北本佐々木順の3人娘が座っている。

  ちなみに日帰りとは言え旅なんて行って順の体調は大丈夫なのかと集合時に順に聞いたところ、調子のいい日は動いたほうが体にいいと医者に言われているらしい。

 

  「・・・・・・うん、そうだね。良かったこの部に入って。」

  「まだそういうのは早いですよ。この部には問題児がいるんで。」

  「おい。」

  「自覚はあるんですね。」

  「お前がこっちを見たからだろ。でか俺別に何もやってないだろ。」

  いわれのない非難に思わず口を挟む。

  「確かに学力以外の問題はないですね、今のところはまだ。」

  「・・・・・・」

  後半には引っかかる言葉があったが勉強のことを言われると何も言えなくなる。

  「・・・・・・2人はいつもこんな感じなの?」

  「そうなんだよ・・・」

  「そうなんだ・・・」

  「順、お前からももっと優しい心を持つように北本に言ってくれよ。」

  「・・・・・・そういうところは鈍いんだね。」

  「え?」

  「「「・・・・・・」」」

  なぜか非難の目を向ける人が2人ほど増えた。

  俺は隣に救いを求める。

  「・・・・・・」

  が、白川も同じ目をしていた。

  今日も俺には味方がいないらしい。初っ端からこんなんでこの旅行は大丈夫なのだろうか。



  麻からボックスシートを陣取った俺達の目的地は金沢だ。

  夏休みとは言え平日の鈍行なので列車はそこまで混んでいない。

  「ところで今日の旅行を発案したのはお前なんだよな?」

  「そうですよ。」

  「なんで金沢にしたんだ?」

  「言ったのは私じゃありませんよ。日帰りで行ける場所の中でどこがいいか話し合って金沢がいいということになったので。」

  「ねえその話し合いに俺確実に参加してないよね。」

  「こういうことを決める時にはそもそも旅行やめようとか言い出しそうな斉藤くんはいないほうが早く決まるんで。」

  「あ、そう。」

  白川は呆れたような目でそう言ったが、全く持って反論できないくらい俺を見透かしている。ほんとこいつ俺の心理を読んでるな。メンタリストか?


  でも金沢とはなかなかいいチョイスだ。

  こういう機会じゃないと行かないだろうし、観光地も多いから退屈しないだろう。

  それに美味い海鮮が食えるかもしれない。

  別に自発的には行こうとは思わないが、1人2000円強で行けるのなら行くのもやぶさかではない。そんなちょうどいいラインだ。

  「・・・・・・いや、でした?金沢」

  「・・・わかってるんだろ、今俺がどんなこと考えてるのか。」

  「まあなんとなくは。」

  「じゃあ聞くな。」

  白川はさっきの呆れた顔のようで少し違う、どこか優しさも足されたような暖かさを持った笑顔で俺を見つめていた。俺はなんだか恥ずかしくなって窓の外を眺めた。

  「「「・・・・・・・・・・・・」」」

  向かいの席から冷たい視線を感じる。

  「・・・・・・なんだよ。」

  さっきまで談笑していた3人がまたしても、じとーーーっと俺を睨んでいた。

  「別にぃ・・・・・・」

  再び騒がしくなるまでは数分かかったような気がするが、俺は頑なに外の景色を見つめてやり過ごした。

 


  「・・・白川さんってほんと大人びてるよね。」

  「そうですか?」

  スマホにも飽きて変わらない車窓の風景を見ている俺をよそに周囲ではガールズトークは続いていた。

  「落ち着き具合が違うっていうか、いつも余裕があるよね。」

  俺達に慣れたのか、順は出会った頃とは違い小声ながらもはきはき普通に喋るようになっていた。

  「そんなことないと思いますけど・・・」

  「いや、わたしもずっと思ってた!」

  「私も。」

  「え?いや、どうでしょう・・・・・・」

  BGMとしてぼーっと聞いていたが案外面白い方向に話が転がっているようだ。

  女子たちの褒め殺しに珍しく白川がたじたじとなっていた。

  「でも、皆さんのほうが年上だと思いますよ、多分。私11月12日生まれですし。」

  そういや白川って11月生まれだったな。いつだったか出会ってすぐくらいの時帰りに誕生日の話をしたような覚えがある。

  「・・・そう言えばわたしみんなの誕生日知らないかも。」

  順はまだ出会って日が浅いから仕方ないが、言われてみれば俺もこいつらの誕生日を知らない。まあ同じ部活の人の誕生日なんて知らないのが普通だろう。

 ・・・どうだろう、俺の普通は普通じゃない可能性はあるから断言は避けよう。

  「私は10月です。10月2日。」

  「わたしは9月29日。結構近いね。」

  「3日違いですか。」

  「じゅんちゃんは?」

  「・・・8月7日。」

 え?

  「7日って明日じゃん!」

  皆の視線が順に向く。そりゃそうだ。本人もまさか自分が降った話題がこんな到達点に至るとは思っていなかっただろう。

  「あはは。実ははそうなんだよね。」

  順は少し照れくさそうにうつむく。

  「これはすごい偶然。」

  北本も驚いているようだ。

  「これは今回の旅行にもう一つ意味が生まれましたね。」

  白川の一言に北本と佐々木は頷く。俺も心の中で首肯した。

  「で、まあくんは?」

  「え?何が?」

  「ずっと聞いてたんでしょ?」

  ・・・・・・バレてたか。

  「・・・1月だよ。1月17。」

  別に隠す必要もないが微妙に言いたくないんだよな・・・。

  「じゃあこの中では一番お子様なんだね。」

  ほら、こういうこと言われるでしょ。早生まれってのはほんと損ばかりする。

  順がそういうと他の女子どもはくすくす笑う。別にいいけどさ、事実だから。

  「ああそうだよ。だから丁重に扱ってくれお姉様方。」

  「こんな生意気な弟は要りません。」

  「ったく。」

  そう言い捨てて俺は再び窓の方に目をやる。北陸の代わり映えしない景色をあと何度見ればいいのだろう。


  「もう着きますよ。」

  「俺の心の中を読むな。」

 そういう俺をみなが笑っているなか、白川を見つめていた順の顔が何故か妙に印象に残った。

 「・・・。」


  白川が言う通り十分もしないうちに列車は減速し始めた。

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