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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第5章 それは個性か、枷か、それともそれ以外の何かか
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61. 間違った世界の歩き方1 腐った目から見える景色



 ときは7月30日。俺の人生はようやくかつての輝きを取り戻した。

 平日なのに昼間に起きる快感。俺はすっかりこの快感を忘れていたようだ。

 俺はクーラーの効いた部屋でぼーっとテレビを見ながらだらだらと無為な時間を過ごしていた。


 そう、待ちに待った夏休みが始まったのである。

 連日6人での放課後スタディータイム。毎日北本に叱られながら、なんとかテストでテストで平均点が取れる程度(通称北本基準)の学力を手に入れた。

 おかげで補習も呼び出しもなく夏休みを始められた。まったく北本には頭が上がらない。

 北本に感謝しながら窓の外を見る。

 窓から見える空には大きな入道雲。外ではセミの大合唱。天気予報では連日の猛暑のニュース。

 どれも今の俺には心地よく思えた。なぜなら今俺はクーラーの恩恵にあやかりまくっているからである。

 「はやくご飯食べちゃいなさい。」

 「ほーい。」

 そうめんをすすりながら「この夏行きたい隠れたスポット5選」なるニュースのコーナーをぼーっと眺めていた。どうやら北陸がこの夏注目らしいがもちろん俺には関係ない。なんてったって隠れていないスポットにすら行く気がないからな。

 「変なアニメ早く見ちゃって。もう容量ないんだから。」

 「ほいほい。」

 「あんたもう少しちゃんと勉強しなさいよ。」

 「ほーん。」

 「大学さえ入ればもう何も言わないから。」

 「ほーい。」

 操作していたリモコンを置く。

 成績表を見ながら親がなにか言っているが、今の俺の脳のリソースの99.8%は画面のアニメに割かれているので何を言われても一切頭に入ってこなかった。

 「そうそう、今度麻美子ちゃんうち来るって。」

 「ほーん。」

 「じゃあ食べ終わったらお皿洗っといて。」

 「ほいほい。」

 気づけば家には俺だけになっていた。

 そうとなればさらに自由になる。

 棚を物色してポテチを手にソファへダイブ。

 ああこれが天国か。

 テストを終え、オール3の成績表を受け取り、俺は高校から自由が与えられた。

 1ヶ月は自由が約束されている。誰にも侵されない自由があるのだ。

 ならば存分に満喫しよう。

 そして俺は2時間ぶりの睡眠を開始したのだった。

 

 ちなみに皿洗いはすっかり忘れていた。





 目が覚めるとすでに午後4時をまわっていた。リビングには俺以外誰もいない。というか家には俺しかいないようだ。

 やることもないので麻雀でもやろう。スマホを取り出しネット対戦を始めた。

 ・・・。

 寝起きで頭も働かないので3麻でいいかという気持ちで始めたはいいものの一向に勝てない。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 気づけば5半荘連続で1着が取れない。

 こんな平日の昼間は麻雀しかやることのないニートしかいないのか、それとも生まれながらにして神に愛されていないのか全く勝てそうな展開が訪れない。

 これではイライラするために麻雀をやっているようなものだ。

 今日はダメな日だと俺はスマホを机の上に置いた。


 さて現在5時少し前。

 テレビは報道番組ぶったくだらない番組しかやっていないし、アニメも今日はもういいかという気分である。スマホで将棋は・・・ますます自分の頭の悪さにイライラしそうだからやめておこう。

 ・・・うーん、夕食まで微妙に時間がある。

 というかもう少しで夕食なのに全く腹が減っていない。

 ってそりゃそうか、お菓子食って寝てただけだもんな今日。

 暇だし散歩でもしてくるか。外の気温も昼間よりはマシだろう。

 まぁそれでも暑いだろうし、近くの川でも歩くか。

 今は買いたいものとかもないしな。

 俺は珍しく用事がない外出の準備をすることにした。俺のポリシーには反するが、まぁでもなんかこれも夏休みっぽくていいよななんて思いながら玄関の扉を開けた。



 案の定外は暑く家を出たことを即後悔しかけたが、準備してしまったものはしょうがない。川辺につくまでの辛抱だ。川に出ればいくらか涼しい風を浴びることができるだろう。

 街を歩く。川に出るためには街中を通らなければいけない。

 俺の正反対の人種と言ってもいい人々が俺の正反対のおしゃれな格好で闊歩している中を縫って1人歩く。

 明らかに浮いているが日頃から浮いている状態には慣れているので問題ない。

 何なら周りの人を観察する余裕まである。

 ふーん、これが今流行りのタピオカかぁ。

 既にブームは去っているらしいが飲み物屋に似合わない行列を見るにまだ完全に熱は冷めていないように見える。

 ・・・。

 俺の知り合いの女子はこういうものを飲んだことはあるのだろうか。

 行列に知り合いの女子が並んでいる姿を想像してみる。

 白川は違和感はなさそうだ。といってもあいつのなりならどこにいても様になりそうだが。

 佐々木は・・・いる。今、刻と一緒に並んでいてもおかしくない。最近あいつら妙に仲いいし。まあ気が合いそうなのはなんとなくわかるが。

 北本は・・・想像できない。小難しそうな参考書を読んで時間を潰すタイプの女子は間違いなくこの行列には並ばないだろう。この店付近で手に持っていものはタピオカとスマホだけだ。

 現に今の行列を見ると皆スマホしか見ていない。友達と来ているであろう人もそうである。

 問題は順だ。全くわからない。初めはあたふたしていた彼女だが最近は普通に俺達と接している。

 しかしどこか得体が知れない感じがするのは俺だけなのかな。みんなは普通に接してるし。

 まあいいや。今はそれより気になることがある。

 買い終わった人ですら飲まずに写真を撮っていることだ。

 しかもなにか義務感に駆られたような顔で。

 彼女らは何をしているのだろうか。

 彼女らは本当に楽しいのだろうか。

 何のために並び誰のために写真を撮っているのだろうか。

 楽しそうな雰囲気がどこか作り物のように見えるのは気のせいだろうか。



 なんて考えているうちに散歩のスタート兼ゴールである川辺の公園が見えてきた。

 公園に着き散歩コースを考えるためにベンチに座るが、まあいつもの橋まででいいかと思ってすぐベンチを離れる。

 川端の道に出ると周囲にいる人が減ったせいか水が近いせいか街中とは違う落ち着いた雰囲気に包まれていた。

 俺はその中を歩き出す。

 そしてその非日常的な雰囲気が無力な俺に思考の旅を促してくるのだった。

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