60. 新たなる世界の破壊者
ようやく始まる勉強会。
「あーそうじゃなくて・・・」
「え?」
「あーそうでもなくて・・・」
「・・・ああもう難しい。なんなのよ、モルって。」
「だからここはそうやって・・・」
「・・・なるほどー」
「「・・・・・・」」
「・・・おい、姉の方が頭いいじゃねぇかよ。」
「・・・うるさいわね。あんたに言われたくないわよ。」
「俺でもモルくらいわかるぞ。」
「あたしだって英語ならあんたの数倍できるわよ。」
「「・・・・・・」」
「・・・やめよう。虚しくなってきた。」
「・・・そうね。」
「これで今期の範囲は追いつけましたね。」
「うん!ありがとう北本さん。」
「いえ、順さんは飲み込みが早いし素直だし私も教え甲斐があって楽しいです。あれと違って。」
「・・・・・・」
「あっはっは。言われてるわよ。」
「あの2人と違って。」
「・・・・・・」
「誰が言われてるって?」
「あんただって言われてたでしょ。」
「ほらほらときちゃん手が止まってるよ。」
「ずいぶん余裕そうですね斉藤くん。これならもちろんテストは余裕なんでしょうね。」
「「ごめんなさい。」」
そんなこんなで勉強会は終わった。
北本の温かい教えにも耐え、下校時間になる。
「お二人はどこから通学しているんですか?」
「冬野町の奥。」
「そりゃ遠いな。」
冬野といえば電車でも数十分かかる。
「まあ近くははないわね。」
「ということは電車で来てるんだよね。」
「うん。」
3人は北本の方を振り返る。
「よかったねしずくちゃん。」
「やっと1人じゃなくなったな。」
「べ、別に私はひとりでも寂しくなかったですけどっ。」
「寂しいかなんて聞いてないぞ。」
「言外の意図を察したんです。国語のできない人にはわからないと思いますが。」
「そう・・・」
「ふふっ。ごめんなさい。」
「あはは。まさくんも勝てないんだからそういうこと言わなきゃいいのに。」
そこはかぁ~~と恥ずかしがっておけばかわいく済むのに。俺相手だと徹底的に反撃してくるからかわいくない。だいたい勝てないし。まあこれでこそ北本って感じがするからいいけど。
「みんな、仲いいね。楽しそう。」
後ろでしょぼくれながら1人歩いている俺に順がよくわからないことを言ってくる。
「どこを見てそう思ったんだよ。明らかに迫害されてる人がいるだろ。」
「わたしにはむしろまあくんが一番楽しそう見えるけどなあ。」
「は?」
何を言っているんだこの小娘は。
「体育の時間の虚ろな目をしてるまあくんとは全然違うよね。」
そう言われると確かに学校で一番話してるのは部活中かもしれない。
「・・・・・・仲がいいかはわからないが気が楽なのはたしかにこの時間かもな。」
「そう自然に思える間柄を仲がいいって言うんじゃないかな。」
「そう・・・なのかな。」
そう言い切れるほど誰かと仲良くなったことがないから断言はできなかった。
第一仲がいいとか友達とかって何か明確な基準があるのだろうか。
おそらくない。では何によって規定されるのだろうか。
自覚的にああ俺はこいつらと仲がいいと思ったら友達なのだろうか。
それとも他人から見て客観的に仲が良さそうに見えたら友達と言えるのだろうか。
友達とは誰が決めるものなのだろう。
たまに漫画やアニメで「友達になってくれませんか」「はい。よろしく」のようなやり取りを見ることがあるが、友達というのはああ言う契約または確認を以て決まるものなのだろうか。
わからない。
そもそも仲がいいとは何だろう。
一日の会話数のような定量的な指標で決まるのか。それともなんとなく気が楽なら仲がいいと言えるのだろうか。それとも単に「対立関係」の補集合というだけなのだろうか。
わからない。
まあこういう問いは得てして明確な答えはない。
考えるだけ無駄だ。
ただ、こいつらと仲がいいと言われても俺は嫌な気分にならなかったということは我ながら意外だった。
「ところでなんで体育のときの俺の目を知ってるんだ?」
「そういうのはスルーすればいいのに・・・」
前にもこんなこと言われたな。
日頃どちらかと言うと注意力散漫な俺だが、どうやら気づかなくていいところでは逆にそうではないらしい。
しかしこの発言をさらっと流せるほど俺は女子の視線に慣れていない。
なぜ俺が注目されているんだ。男子の中でも特に埋もれている俺が。
「前体育で見かけて。」
もしかしてバレーのときか。ならより気になる。あの日俺は柱の擬態に勤しんでいたはずだ。
「それ以来また体調が悪くなっちゃったんだけどね。」
「そう言えば今は大丈夫なのか。」
「大丈夫。激しい運動さえしなければね。」
「そうか。」
それならなにより。
「体育の単位が緩いのはこの学校のいいところだよね。」
「そのためにここまで通ってるのか?」
「そういう理由もあるね。いい学校に入りたかったってのが1番だけど。」
「そうだとしてもよく俺のことなんて覚えてたな。」
社会の縁に立っているような影の薄い俺をよく覚えていたもんだ。
話の感じだとおそらく3組の男子とは全員初対面だったと思われる。
よりにもよって俺に注目するとはやはり人を見る目がある。
「それはね・・・」
その時明るかった順の声のトーンが1段階下がった。
「まあくんがわたしと同じ目をしているからだよ。」
寝る前にスマホを開く。
アドレス帳には2つのよく似た名前が追加されていた。
妹はまだしも姉・・・もとい順は謎である。
別れ際の一言も謎だし、そもそもなんでこんなに俺に好意的なのか。
危うく勘違いしてしまいそうになる。
いや、騙されるな。
ああいう手合は誰にでもあんな態度なんだ。
俺に優しいのではなく、俺にも優しいのだ。
これを忘れてはいけない。
このことを忘れるとうっかり好きになってしまう。
俺は自分を戒めてから就寝し・・・
「・・・ん?」
ようとした瞬間携帯に通知が来る。それはチャットアプリからの通知だった。
あいつらは普段こんな時間に連絡が来たことはないが何か急ぎの連絡だろうか。
俺は画面を覗き込む。
「え?」
その画面にはこう書かれていた。
『junさんが新しい友達になりました。』
俺、今日順の前で携帯開いてないよな・・・・・・




