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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第5章 それは個性か、枷か、それともそれ以外の何かか
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59. ぼっちの生態その2: 女子の押しに全く対抗できない



 「じゃあそろそろ勉強しますか。」

 三田妹が帰還し、いよいよ勉強会が始まる。

 「急に始めるのね・・・・・・」

 さっきまでの弛緩した雰囲気はなくなり、皆慌ただしく勉強道具を広げ始めた。

 それを見て三田妹は目を丸くする。驚くよなこれ。やっぱり北本家での俺の感覚は普通だった。

 「さて、準備はできましたか?」

 「え?あ、ああ・・・」

 ちなみに北本はいつもと違って俺の隣に座っている。理由は言うまい。

 俺は早速英単語帳を開く。ちょっと前まで新品同然だったこいつも結構使い込まれた外観になってきた。

 「まずはここまで。10分で。」

 「おけ。」

 勝手知ったる俺の扱いというところか。即座に言われる北本の指示に従う。

 「・・・・・・やっぱりあんたたちの関係がいまいちわからないわ。もしかして、奴隷的な何か?」

 「うるせえ。お前らも自分たちの勉強やれよ。」

 俺は英単語帳を見ながら反論する。

 「・・・・・・えーと。その・・・」

 しかし、三田妹は教科書を開いたはいいが何をすればいいのかわからない様子であった。

 ・・・まあでもここで俺が妹になにか言ってもいい未来はないだろう。


 「・・・えーじゃあ最初は数学やろう!」

 「うん。」

 「・・・えーと、まぁ余弦定理の公式をまず丸覚えしよう。」

 「わかった。」

 ・・・・・・。俺は北本と顔を見合わせる。

 なんとなく、それとなーく聞いているだけだが、正直言って三田妹の教え方はまずい感じがする。

 「それをいい感じに使えば多分図形は大丈夫!うん、多分大丈夫!」

 「でも他にも色々あるみたいだよ・・・?チェバとかメネラウスとか書いてあるけど・・・」

 「・・・・・・えーと。」

 なんだかだめそうなにおいがぷんぷんする。

 このままだと三田姉妹のテスト大爆死が目に見えている。

 しかし・・・。

 俺が言うと噛みつかれそうだし、北本が言うと角が立ちそうだ。

 となれば・・・

 俺は白川をちらりと見る。

 「あのっ。」

 白川も同じようなことを考えていたようだ。

 俺の視線にうなずき三田姉妹に話しかける。

 「せっかくですし、私達と一緒に勉強しましょう?」

 「で、でも・・・」

 白川が絶妙な助け舟を送る。俺達にはできない芸当だ。

 だが三田姉妹は遠慮しているようだ。

 「安心しろ三田姉。ここにいるやつらはみんなここで勉強しなくても余裕なくらい頭がいい。俺以外は。」

 「余裕かどうかはわかりませんが、ぜひ私達も一緒させてください。教えることも勉強になりますし。」

 「私も教えますよ。これを教えるのは片手あれば十分ですし。」

 どうも「これ」です。最近どんどん俺の扱いが雑になってきていませんか北本さん。いや、はじめからか。

 「わたしもじゅんちゃんときちゃんと一緒に勉強したいな~」

 気づけば俺以外の女子3人総出で姉妹を見つめていた。

 「・・・いいの?」

 「ぜひ!」

 「・・・じゃあお言葉に甘えよっか。」

 「うんっ。」

 白川が席を立ち、姉妹が真ん中になるよう移動を促した。自然に2人を2人が教えられるように誘導したのだろう。

 ほんとうにこいつらは優しい。なんで俺なんかと一緒にいるのだろう。実に不思議だ。

 もしかして普通の人ってこんな美しい心を持っているのだろうか。人と関わった経験が乏しいので普通がわからないけど。

 まぁいい。とにかく勉強会は無事始められそうだ。

 「助かったな三田姉。」

 俺の向かいに座った姉に話しかける。

 「ちょっとどうゆう意味よ。」

 妹に噛みつかれるがスルーした。

 これでようやく本当に勉強会が始まる・・・


 「ありがとう、まあくん・・・」

 「礼は俺以外に言ってく・・・・・・・・今なんて言った?」

 「ありがとうって・・・」

 「いや、そうじゃなくて。」

 「まあくんって呼んじゃ、だめ?」

 「い、いや・・・」

 え、なになにこの距離の詰め方。これが俺の知らない普通なのか?てかその目やめろ。そんな上目づかいでそんなこと言われたらうっかり好きになっちゃうだろ。

 「じゃあいいよね?」

 「う、うん」

 俺に言い返す余裕はなかった。

 いいけど。いいけどさ・・・。これが一般の女子の間合いのとり方なの?こわいね。

 「ねぇ、だからわたしのことも名前で読んで?」

 「・・・は?」

 さらにとんでもないことを言い出す。

 「名字で呼ばれるとときちゃんとどっちが呼ばれてるかわかんないし・・・」

 「だから三田姉って言ってるだろ。」

 「むーっ、その呼び方、きらい。」

 やめろその声。うっかり大好きになっちゃうだろ。

 「ええぇ。」

 「だから、名前で呼んで?」

 そんな簡単に言ってくれるな。

 「え、えぇ・・・」

 「ねーえーー」

 やっぱりこいつのは普通じゃねえ。

 女子にはわからないのかもしれないが、高校男子(一部)にとっては名前呼びは結構ハードル高いんだぞ・・・。

 「ねーーえーーーー。」

 今日知り合ったばかりの目の前の女の子はそう言いながら詰め寄ってくる。

 まじで言ってるのこれ。

 あーもうなにこの展開。今までにそんなフラグが立つイベントあった?個別ルートぶりすぎだろ。

 「・・・じゅん。これでいいか!」

 「はい、よくできました。」

 あー恥ずかしい。なんなんだもう。今時の女子というのは出会ったその日にこんなに距離を詰めるものなのかね。てか本当に今日初対面か?

 とにかくさっきまでは天使だと思っていたがどうやらこの子の正体はそうではないらしい。




 「・・・・・・ずいぶん楽しそうですね、斉藤くん。」

 白川のドスの聞いた声であたりを見回すとジト目の女子が3人ほどいた。

 そういや今は勉強会の最中だった。しかも部屋の真ん中だった。

 「鼻の下伸ばして、汚らわしい。」

 「にやにやしちゃってさぁ~」

 みんなからの絶対零度に冷えた視線と言葉が突き刺さる。

 「いや、え、なにこれ俺が悪いの?」

 「別に何も悪くありませんよ?」

 「さぁさぁ勉強しよ勉強。」

 「ほらテストしますよ。間違えた問題の数だけ殴りますから。」

 「いつから体罰導入したの!?」

 俺は急いで英単語帳を手にとって単語を頭に詰め込む。


 まったく、なんでこんな針のむしろで勉強しなきゃならんのだ。

 俺は非難を目に込めながらちらりと順の方を見る。

 しかしそこにあった順の笑顔で俺は順の正体を確信する。


 順のその笑顔はまさに小悪魔の笑顔だった。


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