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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第5章 それは個性か、枷か、それともそれ以外の何かか
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58. まともな感覚の持ち主



 「・・・ねえ。なに、これ?」

 「・・・・・・」

 「何って言われても、見たまんまだけど。」

 「そうじゃなくて!なんで当たり前のようにみんなでお菓子食べているのよっ!」

 机と席の準備が終わった俺たちはいつもどおり佐々木のお菓子に舌鼓をうっていた。

 だが確かにこの光景は他の人から見たら奇異に映るかもしれない。

 なぜならここは図書室である。

 どれだけ閑散としていても図書室だ。

 もう俺達はそんな感覚を失い、ただのパーソナルスペースとして使っていたが三田姉妹はまだ良心が残っているらしい。


 「あんまり多くないけど、よかったらふたりも食べて~」

 そういって佐々木は自家製のマドレーヌを2人にすすめる。

 「・・・・・・」

 じゅんちゃんは先程の怯えている感じはもうないとはいえ妹があれなせいか口数は多くない。

 しかし目が語っている。マドレーヌを食べたいと。

 「我慢しなくていいぞ三田。俺のぶんも食っていいから。」

 俺はじゅんちゃんにマドレーヌを差し出そうとした。

 「・・・いいの?」「私は別に欲しくていったわけじゃないわよ!」

 「「・・・・・・」」

 しかしその声は図らずも居心地の悪い雰囲気を作り出してしまうきっかけとなってしまった。

 「あの、俺は・・・・・・いや、なんでもない。」

 「・・・・・・」

 「とりあえず、マドレーヌ食べる?」

 「・・・・・・うん。」

 三田姉妹は譲り合うようにして静かにマドレーヌを受け取っていた。


 

 「あんたたち毎日ここでこんなことしてるの?」

 「ええまあ。大体は。」

 お茶を飲み一段落してもなお、三田妹はこの現状に違和感があるようだ。いやまあ実際違和はあるんだけど。

 「よく許されてるわね・・・」

 「まぁ誰も来ませんし・・・」

 「そうね。私達もたまたまこの教室を知ったから来たわけだし。」

 やっぱり多くの生徒はこの部屋の存在すら忘れ去っているようだ。しかしこの現状は実に好都合である。これからもこの部屋を愛用していきたい。

 「部活って言ってたわよね。何の部活なの?文芸部とか?」

 「・・・・・・」

 「え、なによ。言えないような部活なの?」

 「いえ・・・・そういうわけでは・・・」

 白川は俺に援護の目線を送ってくる。

 しかし白川が返答に困るのも無理はない。実際何をやっている部活なのか俺もよくわからない。


 「うーん、なんだろうな。時間つぶしに各々色々やってるだけだし。」

 「それって部活なの?というかあんたはまだしも他のみんなはそんな気味の悪い部活に入るような子には見えないんだけど。」

 「うーーん、まあいろいろあってだな。」

 そう、色々あったのだ。各人この図書室に流れ着いたわけが。

 「何か変じゃない?大体あんたみたいな地味で馬鹿そうなつまらなそうな男がこんなにかわいい子たちと部活ってのがおかしいわよ。あっ・・・、さては、弱みを握ってそれで脅して・・・・・・」

 「待て待て待て。確かに一部共感できるところもあったが俺は弱みなんて握ってねえよ!」

 むしろ握られているという方が正しい。

 「じゃあなんで部活のこと答えないのよ。」

 「それは俺達も何してるかわからないんだ。遊んだり勉強したり食べたり本読んだり、これと言った活動がない部なんだよ。」

 「なにそれ。」

 「色々あったんだよ、俺達には。まあ部活ってのは半分隠れ蓑だ。」

 色々つっても俺のはただ怠けたいという欲望だけだけどな。


 「・・・なんとなくあんたたちから闇と言うか訳あり感がある気がしてたけどそういうことだったの。」

 え、俺達ってそんな訳あり感出てたの?

 「それはわからないが、まあそういうわけだ。ところでお前は何の部活なんだよ。」

 「陸上だけど。」

 確かにどことなくそうっぽい。具体的にどこがそう見えるかについては言及しないことにする。

 「三田姉は?」

 「手芸部・・・一応。数回しか行ってない幽霊だけどね。」

 「あっ、おい。」

 俺は思わず白川を見る。

 「私も手芸好きなんです!」

 「え?そうなの?」

 「ええ、今だって。」

 そういって白川は毛糸玉を取り出す。

 「いつも持ち歩いてるの?」

 「この部活では自由時間が多いので。」

 「へぇ、そうなんだ。」

 これまでになく三田姉が話している。共通の趣味の人を見つけられて嬉しいのだろう。

 聞くところによるとこの学校の手芸部は手芸に興味ないらしいからな。

 「なににやにやしてんのよ。」

 「え、俺笑ってた?」

 「自覚なかったの?じゅんの方をにやにやしながら見てたわよ。」

 「嘘つけ。そんな豊かな表情を作れるような筋肉は俺の口角に残っていない。」

 「なにそれきもちわるい。」

 「・・・」

 「言っとくけどあんたのことはまだ信用してないから。」

 「なんでだよ。こんな人畜無害で無味無臭の男、世の中になかなかいないぞ。」

 「うちのじゅんに手出したら絶対に許さないから!」

 「俺を理性のないモンスターかなにかと勘違いしてない?俺一応人間だぞ?」

 「その答え方も気色悪い。」

 「・・・・・・」

 こんなこといわれたら普通の男子高校生なら一撃で不登校になりかねないだろう。

 しかし俺なら耐えられます、強いから。

 「どういう人生歩んだらこんな風になるのかしら。」

 「・・・・・・・・・・・・」

 そういってどこかに立ち去ろうとする。

 「お、おいどこ行くんだよ。」

 「トイレよ!察しろ!死ね!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 談笑しながらお菓子を食べている佐々木と北本。手芸の話に花を咲かせている白川と三田姉。そして佇む俺。

 ・・・・・・もうなんなんだよ。


 俺は初めて早く勉強がしたいと心の底から思った。

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