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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第1章 変わらない世界の改変
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5. 席を替える。そして春は眠い。

 新しいあさが来た。絶望の朝だ。


 月曜の朝ほど憂鬱なものはない。これから5日連続で朝早く起きなければならないと考えるだけで嫌になる。


 だから無理やり他のことを考える。月曜の朝に見るアニメはいつもより真剣に視聴していると思う。

 しかし玄関に立つとどうしても現実が帰ってくる。


 ぐじぐじ言っていても仕方ない。諦めて登校する。

 



 月曜にはロングHRというものがある。授業1コマ分の時間を使ってクラスに関係することをする時間だ。

 担任の話が始まる。高校には慣れましたかだの部活はもう決まりましたかだのそんな話をしている。1ミリも興味が無い。堂々と寝るのも注意されたら面倒なのでぼーっとしていた。


 眠気で遠のいていく意識の中、唐突にクラスメイトの歓声が耳に入りはっと目を覚ます。なんだなんだと黒板に目をやると担任が大きくマス目のような表を作っていた。


 なるほど席替えか。みんな大好き席替え。いつもはさほど嬉しくもないがこの席替えは俺にとっても僥倖であった。やっと白川と離れられる。

 昼休みなど、休みごとに背後で盛り上がられるのは正直居心地が悪かった。もちろん休みに騒ぐの結構だ。しかし大勢の盛り上がりは、大勢に入っていないものからするとただの雑音である。


 白川が嫌いなわけではないが、この席を変われるのは素直に嬉しい。

 それに現状の席は四方に人がいるのも嬉しくない。シンプルになんとなく気が落ち着かないからだ。

 当然だが教室では多くの場合四方に人がいる。狙うは窓側か廊下側が最後列。一番前は言うまでもなく除外。


 担任が順にマス目に番号を入れていく。

 当たりは2~6、12、18、24、26~28。大当たりはもちろん6番。窓際最後尾は非の打ち所がない。

 出席番号一番の人からくじを引いていく。俺は斉藤なので折返しよりは少し早めにくじをひくことになる。

 いよいよ順番が回ってきた。3番と24番と27番はもう取られてしまった。

 いざ勝負。

 

 ・・・。

 ・・。

 ・。



 勝った。


 手元の紙には12と大きく書かれていた。

 担任へ俺が12番であることを伝え黒板の下の方に斉藤と記される。


 これだけで今日学校に来たかいがあったと言える。明日からはもう少し晴れやかな気分で登校できることだろう。

 決めるべきところでしっかり決めるのが俺である。自分の実力に酔いしれながら勝利の余韻に浸っていた。


 「11番です。」

 後ろから声が聞こえてくる。

 まだまだ席替えはこれからである。




 ・・・。

 ん?



 今なんと言った?11番とか聞こえた気がしたけど?


 思わず音速で振り返る。そこにはにっこりと笑う白川がいた。


 「またご近所さんですね。」

 「そ、そうみたいだな。」

 嘘だろ・・・。

 他のクラスメイトからの嫉妬の目線の中で俺は引きつった笑いしかできなかった。



 呆然としているとくじ引きは最後まで終わっていた。

 移動の号令がかかると皆一斉に机を持ち上げて移動を始めた。

 比較的近い距離であったので早々と移動を完了させる。

 

 前にはきれいは黒髪があった。嬉しいような嬉しくないような。できるだけ窓の外を見ていることにしよう。


 …そういえばお隣さんは誰だろうか。


 右側には眼鏡の真面目そうな女子が机を持って登場した。申し訳ないが名前はわからない。まあ今後関わりを持つことはないだろうし特に持ちたいとも思わない。消しゴムを落とすなら逆サイドに落としていただきたい。


 左側は誰だろうか。教室の中で最もいい立地手にした者だ。そんな豪運の持ち主の凱旋を見守っていた。


 しかしそれは意外にも知った顔だった。

 重そうに机を運び終えたそいつは中谷だった。






 「改めてよろしくおねがいしますね。」

 「おう。こちらこそよろしく。」


 いまいち何をよろしくするのかはわかっていないが、とりあえず返事はしておいた。

 なんか教室で白川と話すのって新鮮だな。まあ俺は振り返って話したりしなかったからなぁ。


 「あんたたち、本当に仲いいのね。もしかして付き合ってるの?」

 左から中谷が話しかけてくる。


 「い、いえ、そんなことはけっしてないですっ。」

 白川は慌てて否定する。


 「そりゃそうよね。白川さんならその気になればどんな男とでも付き合えるだろうしね。」

 「い、いえ・・・。」

 照れる白川。かわいい。なにか失礼なことを言われた気がしないでもないが、かわいらしい白川が見られたので水に流す。


 「斉藤だっけ。あんたもやるわね。聞くところによると白川さんをうまく部活に引き込んだらしいじゃない。」

 中谷の矛がこちらを向く。

 さらにとんでもない誤解をしている。俺がどう思われようがさして気にしないが、この誤解が広まるのは後々面倒が起こりそうなのでしっかり否定しておく。


 「俺は誘ったじゃない。誘われたんだ。」

 「ええーほんとにぃ~?」

 めんどくさ。こういう手合は何を言っても意味がない。だから何も言わないことにした。


 「本当です。私が斉藤くんを誘いました。」

 「ほんとなの?でもなんでこいつなの?」

 無視しようと決めた俺を察したのか、白川が代わりに答える。

 しかし新たな質問に困窮しているようだ。

こいつ呼ばわりされているが、これは俺も気になっていた。聞くほど気になっていたわけではなかったが、せっかく知れる機会だ、白川の答えを待ってみることにする。


 「それは、秘密です。」

 白川はこちらをちらりと見たあとそう答えた。


 残念。人には言えない理由らしい。まあおそらくは当時予想したとおり、たまたま俺が白川の需要にあった素材だったから、というのが理由だろう。優しい白川はそう思っていても他人には言わないだろうし。


 白川が前を向いたところでこの会話は終了した。

 中谷は追求したそうだったがまだHR中ということもあり諦めたようだ。

 この席でも静かな生活は遅れなさそうだなと落胆しながら前で話す担任に意識を向けた。

 改めて後ろから白川と眺める。作り物のようにさらりしたきれいな黒髪が揺れている。

 しかし俺は案外庶民的である白川を知っている。つまらない担任の話に合わせて船をこぐように、白川も普通の女子高生なのである。


 あーあ、揺れる髪を見ているとなんだか眠たくなってきた。

 春の陽気の中では人間は全くの無力である。


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