52. 彼女の立ち位置
バレーが始まる。初めは男子vs女子のようだ。
やる気のある人同士の試合をそれ以外の人がコートを囲って観戦している。
俺も一応その囲いの一部という感じになっている。
しかしその囲いも観戦の真剣度はかなりムラがあり、俺の周りの男子の多く(主に俺以外)は結構真剣に見ており、遠くにいる女子の多くは談笑のついでという感じに見える。
なぜ男子が授業中も俺の周りにいるかと言うと、別に仲良くなったわけでも何でもなくただここからコートがよく見えるからだ。あと一応断っておくが俺がここの場所を気に入っているのは柱の陰になっているから、ただそれだけの理由である。決して女子のダイナミックだったり慎ましかったりする何かの見晴らしが良いからではない。
「ナイスサーブ!」
付近の男子と同じに思われたくはないし、いい加減ここにいるのも飽きたのでそれとなくコート周辺を歩く。
不自然にならないよう気にしながら散歩しているとあることに気づく。
女子のやる気の格差だ。
囲い同様、実際コートに立っている人の間でも体育に対するやる気は全体でかなり温度差があるように見えた。
ネトゲのガチ勢とエンジョイ勢の熱量差のような、全力でしている層とお遊び感覚でしている層に分かれていた。
まあきっと進学校の体育なんてどこもこんなものだろう。
日頃必死こいて勉強しているんだ、楽して終えることができるなら楽な方に逃げるのが人間というものだろう。
実際学校もそれを黙認しているような空気がある。
「こっちこっちー!」
だからむしろやる気満々の層の方がレアケースに思える。
「よーーしっ!」
そう、佐々木みたいなケースは・・・・・・
ちなみに試合後の男子チームはとても満足した表情で凱旋したという。
「来たぞ来たぞ・・・」
しばらくしてコート散策から戻り定位置に着くと再び男子が色めき始める。
ということはつまりそういうことなんだろう。
俺は手元のスマホから女子の方に視線を移す。
「白川さん、なんと美しい・・・」
やはりコートには白川の姿があった。
それにしても白川の人気はすごいんだな。
かわいいのはわかるが、なんとなく頭の良い男子ってその手のことに熱くならないイメージがあった。
俺の認識が誤っていたのか、そんな人でも熱くなってしまう白川の魅力がすごいのか。
わからないが俺も気付いたらスマホをポケットに入れていたので多分そういうことなんだろう・・・
コート上では3組女子vs4組女子の試合が始まろうとしていた。
先程は佐々木しか顔見知りがいなかったが、今回は白川と北本が3組チームのコートに立っていた。
白川は友達とともにコートで話している。
北本は静かにコートの奥に立っているが、目には闘志がみなぎっていた。相変わらずの負けず嫌いが発動しているようだ。
だがバレーはチーム戦だ。1人がやる気に溢れていても仕方がない。他の人はよく知らないが、おそらく緩い試合になりそうだ。他の数人はお遊び気分という顔つきでコートに立っている。
先程と同じような温度差がコート上に広がっていた。北本のやる気虚しく緩い試合になるだろう、心のどこかで思っていた。
しかしそう察して再び手慰めにスマホを取り出そうとした時、その予想は間違っていたことがわかる出来事が起こる。
「さあ、みなさん打倒4組ですよ!」
各々が位置について試合が始まろうとしていた刹那、予想外の声が響いた。
俺は思わずコートを見る。
「え・・・」
白川のチームを奮起させる言葉が聞こえてきたのだ。
「白川さんやる気でいいねえ~」
「たくさん動いてくれ~」
男子たちはおおいに喜んでいた。
が、俺はただひとり静かに驚いていた。
俺の白川のイメージにはない今の状態に。
なんとなく白川は周りの温度差を肌で感じて穏やかな試合をすると思っていた。
一番の注目を浴びていることをわかりながらも、チームの3番目くらいの主張しかしない、そんなイメージだった。
まさかチーム競技で自分から目立つことをするとは思わなかった。
そういうのは佐々木のお株だと思っていたし、佐々木だから許される部分もあると思っていた。
やる気のないものを奮起させると言った「危ない」行為はしないだろうと心のどこかで認めていた。
「・・・そうこなくっちゃ!」
「・・・・・・そうだよね、やる以上はね!」
しかし出処の知れぬ心配は杞憂だった。
白川の言葉は温度差を埋める方向に働いていた。
チームの女子はニコニコしながらも目からはさっきよりやる気が見られる。北本もどこか嬉しそうだ。
それに気付いたらクラスの応援も先程より大きくなっているように感じられる。
こういうノリをうっとうしいと感じる人がいてもおかしくないのに、白川は顰蹙を買ったりしていなかった。さも当然のように受け入れられていた。
これが白川の人徳なのだろうか。
俺の心配が的はずれで実はクラスでの白川のキャラはこんなものなのだろうか。俺が知らないだけでクラスではそういう立ち位置ということもあり得る。
どれにせよ白川は人を不快にさせることは決してしない。
相手の本質を見抜く力があるのだろう。
自然に振る舞っているがそれは生まれついての天賦の才なのか、それとも努力の結晶なのか。
俺にはわかるわけがない。だが、それが誰でもたやすくできるものではないということだけはよく知っていた。
「じゃんじゃん点取っちゃいますよ~」
白川の絶妙なサーブで試合が始まった。
ただ俺はサーブを打つ前の白川の表情がなぜだか頭から離れなかった。




