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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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49. みなさん、勉強とは何ですか?



 「3つ。私は3つの結論に至りました。」

 「3つもあるのか」

 「所詮高校生の浅い考えですけどね。」

 北本は自嘲する。

 だがきっとそれは浅い考えなんかではないだろう。

 北本はいつでも考えている。俺を小馬鹿にするときも、女子同士で話しているときも、絶対に不快なことは言わない。おそらくこの高校で「軽率」というものから最も遠い位置にいる人物だ。

 そんな北本が俺に話す気になったという時点で「勉強」ということへの思考の深さの証明になっている。

 「あくまで”高校程度の勉強”についてですからね。”学問”のことだとは決して思わないでください。」

 案の定次の言葉は浅い考えの人から出てくるものではなかった。

 まさに俺が感じていた「勉強」という言葉の縺れをついた一言だった。

 「ああわかった。」

 余計な口出しは無用だろう。俺は黙って聞いていることにしよう。



 「いい風な理由と、いい風じゃない理由と、陰謀風な理由、どれにします?」

 ・・・。陰謀風って何だろう。

 「・・・その順番でいいよ。」

 さっきの決意が揺らぎかけたがなんとか踏みとどまった。

 「ではまずいい風な理由から。」


 「私達は世界のすべてを知ることはできません。だからどうしても『知りたいこと』と『知らなくていいこと』に世界を分ける必要があります。

 しかし私達は子供です。なにが『知りたいこと』でなにか『知らなくていいこと』かをわける方法を知りません。そのために大人が『知っておくべきこと』を決めて私達に教え込みます。嫌でもその中から『知りたいこと』を分けられるように。」


 「それが義務教育の役割というわけか。」

 「そうですね、もっとも今の日本では高校もその期間の範疇と言えそうですか。」

 確かに説得力がある。子供の頃の勉強の幅は大人、特に親の意向によって大きく違う。

 親が高校進学を許さなかったらその時点で子供の勉強の幅は大きく制限される。

 いや、制限されるという言い方は正しくない。高校では学べない分野へ勉強の種類が変わるという方が正確だ。

 「腑に落ちた。」

 しかし覚悟していたとはいえさすが北本だ。勉強への接し方というか勉強哲学がとても真摯だ。俺より明らかに俯瞰的な視点を持っている。なんでも納得しそうになる。

 「どうします、あと2つ残ってますが。」

 気づけばもう俺の家の前に着いていた。こんだけ喋っていれば当然か。

 しかし・・・。

 「いや、聞かせてくれ。」

 ここで帰ったらあと2つが気になってそれこそ勉強に身が入らない。

 北本は頷いて話を続ける。


 「そうですね。いい風じゃない理由。それは『社会の仕組みを理解し、利用し、生み出しているのは勉強のできる人だから』というわけです。

 あくまで今習っている単元は、多少は社会の役に立つから習っているのです。それに関しては大人も子供も利害が一致しているので悪いことだとは思いませんが。とにかく単元の内容より『決まった単元を要領よく理解できる人材』が今の社会のルールを作っているんです。そしてルールを作る人は自分に都合のいいルールを作りますよね。さて今の社会、勉強ができる人とできない人、どちらが幸せでしょう。」

 「・・・穏やかじゃねーな。」

 「そうですね。でもよく考えてみてください。英語や国語は文法というルールを、数学や物理は世界のルールを、歴史は人間の行動のルールを学んでいると言えませんか?」

 俺は何も言い返せなかった。

 そうだ、確かに全て世界にある秩序を学んでいる。

 「ルールを作るために既存のルールを学んでいるってか。」

 「ええ。儲かるのはいつの時代もシステムを作る人です。システムとはつまり自分のルールに他人を利用することですね。ルールを作る側とルールに縛られる側、その分水嶺は頭です。これは義務教育以上の部分にも共通するかもしれませんね。」



 しばらく呆気にとられていた。

 その話はあまりにも残酷であまりにリアリティのある話だったから。

 「もちろん人生勉強が全てとは思いませんけどね。そもそもルールに縛られることが全て悪ではありませんし。ルールに縛られるというのは、言い換えれば何かに所属し、守られている状態ですから。」

 「ああ・・・」

 そんな返事をするのが精一杯だった。

 自分の視界の狭さ、日々への接し方の幼さを突きつけられたような気がした。



 「最後の1つはどうします?まあこれはいつだったかに読んだ本の受け売りなんですけどね。」

 俺はすでに名状しがたい恐怖を感じていた。

 なにか大きなものに取り囲まれているような感覚に襲われていたからだ。

 でもここで残り1つを聞かず帰るという勇気も持ち合わせていなかった。

 「・・・教えてくれ。」

 「学校は人の工場である。」

 「え?」


 「確かに学校という仕組みは、授業という環境は『一人の指導者に皆が従い、長い間座り続ける忍耐力を幼少から鍛えている施設』と言えなくは無いですよね。」

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