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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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48. ひねくれ者たちの帰り道




 「どうでしたか、テストの出来は。」

 「おお。」

 最終日のテストが終わり、まさに花金といった気分だった。

 そんな明るい気持ちで帰路につくため靴箱から靴を取り出しているといつの間にか隣に北本がいた。


 「大丈夫、だと思う。多分。」

 「曖昧ですね。」

 仕方ないだろと思ったが、恩人に何かを言い返す気にはならなかった。

 だからかわりにお礼を言う。

 「ありがとな。ほんと。」

 「どうしたんです気持ち悪い。」

 その言い方には照れは一切感じられなかった。

 「お前が言ってくれなかったら俺のテストはどうなっていたか。」

 初めて高校の定期考査というものを受けたわけだが、正直想像の倍は難しかった。

 腐っても自称進学校なだけはある。

 「そ、それは良かったです。」

 激レアな俺のストレートな感謝に引いているのか驚いているのか、なんとも言えない表情をしていた。

 でも俺は本当に感謝していたのだから仕方ない。

 怠惰と無気力の迷路にいた俺に努力するための地図と羅針盤を授けてくれた。

 言葉以上に感謝の念に堪えなかった。

 


 晴れやかな気分と対照的な鉛色の空の下、短い通学路を歩く。

 「それにしても文系の教科は面白くねえな。」

 「そうですか?」

 そんな天気の中のせいか、テスト終わりの開放感からか、相手が北本だからか、似合わず愚痴がこぼれる。

 「現国はまだしも古文は高校生はやらんでいいだろ。」

 「まあ確かに大多数の人にとっては大学受験のための知識以外の価値はないかもしれません。」

 「そもそも大学受験に古文要る?」

 「文系寄りの高校に通っている人とは思えない口ぶりですね。」

 それを言われるときつい。

 い、いやあ、現国はまあまあ好きよ。読んでて意味わかるし、割と勉強になるし。英語は知らん。漢文?なにそれ。

 「古文に限らずけっこう必要性を感じない単元多くね?いうほど原子の構造とか必要な知識かね。」

 「必要かどうかの問題なんですかね。」

 努力というものの使い方を知った俺は1週間けっこう頑張って勉強した。

 まあ頑張らなきゃまずい立場だったのもあるが。

 だからどうしても勉強自体の意義を考えてしまうことがあった。

 北本には考えるなと言われたような気もするが、考えるなと言われるともっと考えてしまうのが人間の性というものであろう。




 「そういえば、あの勉強会から1週間か。」

 「それがどうしたんです?」

 「もう勉強の意味というか意義というものを考えてもいいのか。」

 「ああ、そんな話もしましたね。」

 それとなく北本の表情を伺う。

 別に嫌そうな表情ではなかった。

 「実はこの1週間、ずっとお前のことが気になっててな・・・」

 「な、なんです急に。」

 「お前にとって勉強とはなんだろうって。」

 「え、ええ、どういうことです?」

 なにかに慌てている北本に、俺はあの日の北本の目から思ったことを言った。

 あの時の目は勉強というものの本質を覗いたことがあるように見えたのだ。



 「まあ、そうですね。昔はよく考えました。」

 少しの間をおいて北本が話しだす。その目はやはりあの日に見た何かを知っているような、何かを諦めているような、そんな目だった。

 「そうか。」

 「そして最近もまた考えるようになったかもしれません。」

 「そうなのか。」

 その言葉の真意はわからなかった。もしかしたら俺が勉強し始めたことに関係があるのかもしれないが、それを確認する気にはならなかった。

 「客観的に、かつ多角的に、勉強というものの意義を、本質を考えたことは多いです。」

 意味のあることかどうかはわかりませんが、と北本は言葉を続けた。

 俺にも意味があるかどうかはわからない。

 わからないが、しかし気になることなのは確かだ。

 「学び」とはどこか似て非なるものという感じのする「勉強」という行為を。

 我々の生活の半分以上を割いているこの行為の意義を。

 「少しだけでも教えてくれないか。」

 俺は「勉強」の先輩に聞いてみたくなった。


 「私はひねくれてますよ。」

 「奇遇だな。俺もよくそう言われるよ。」

 「まあ斉藤くんならいいかもしれませんね。」

 北本は深く息を吐いた。

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