45. 嬉しさとありがたさと不甲斐なさと
けたたましいアラーム音で目を覚ます。
土曜朝9時、いつもなら間違いなく爆睡している時間だが今日の俺は違った。
窓から見える空は晴れと曇りが同居したような天気。
それはまるで今の俺の心模様を反映しているようだった。
今日は勉強会当日。
部活の方々のご厚意により開催されることとなった俺救済用イベント。
それは意外にも北本から差し伸べられた救いの手だった。
おそらくトップクラスの成績を誇る北本のことだ、勉強ができない人(主に俺)に憐憫の情を覚えたのかもしれない。
なんにせよありがたい。
今日はなんとしてもその厚意に報いたい。
今日のイベント内容と目的はただそれだけに尽きる。
だからそれがどこで行われるとかどういうシチュエーションで行われるとかは一切関係ない。
「さて・・・・・・。」
俺は登校するときよりも学生らしい荷物を持って家を出る。
目的地は隣町・・・・・・北本の家だ。
電車のつり革を持ちながら昂ぶる気持ちを抑える。
冷静に考えて・・・いや冷静にならなくてもこれは女子の家におじゃまするという重要イベントだ。
普段なんのイベントも起きず粛々と一日が終わるという生活をしている俺は、どうしても一抹の高揚とそれを覆い隠すほどの大きな緊張を禁じ得なかった。
まさかこんな日が来ようとは。ショッピングモールの件といい、俺の空白だらけだったはずのスケジュールが勝手に埋まっていく。
だが俺は「みんなは俺の勉強のために集まってくれているんだ」と事実を軽んじることは決してできなかった。
そうだ、俺は浮かれていい立場ではないのだ。
俺はどうしても彼女らに頼っていることに対して申し訳無さを感じていた。
できないなら頼ればいいと、言うのは簡単だ。
実際学習合宿の時も北本にそのようなことを言った。
しかし、俺は浅はかだった。所詮は口だけだった。
自分が頼る側になったらとても気軽に頼る気にはなれない。
申し訳無さと不甲斐なさと勇気のなさが、どうしても無条件で頼ることを受け入れない。
本当に寄りかかっていいのか。
きっと優しいあいつらなら俺が寄りかかっても支えてくれる。
だが俺は?
俺は凭れられた時、支えることができるのだろうか。
いや、そもそもあいつらが俺に寄りかかることなんてあるのだろうか。
荷物が重いせいか電車の揺れでバランスを崩して倒れそうになる。
俺はつり革をしっかり握り直した。
間もなく隣町に着くというアナウンスが車内に流れた。
「ここか・・・」
コンビニで買った飲み物を両手に持ってたどり着いたのは隣町の閑静な住宅街。
周囲の家と比べても立派な佇まいの一軒家の前で俺は息を呑む。
その家は飾り気がない厳格な雰囲気に包まれていた。
そのせいか、クラスメイトの家に行くという経験の乏しさからか、インターホンのボタンを前に二の足を踏む。
しかしただ立ち尽くしているわけにもいかない。
俺は覚悟を決めてインターホンを鳴らした。
「どうぞ。もうみんな揃ってますよ。」
「え、まじか。それは申し訳ない。」
駅の時計で確認した限り約束の時間に遅れているとは思えないが、今日の元凶の俺が最後というのはさすがに申し訳なく感じた。
「まあとにかく上がってください。」
「お、おう。」
慌てて上がった一歩が俺の記念すべき女子の家に踏み入れた第一歩だった。
「今日も家族は誰もいないので安心してください。」
「え、あ、そ、そう。いや、いいのそれ?」
「ええ大丈夫です。ちゃんと親には今日学校の女友達と勉強会することは伝えたので。」
北本はいたずらっぽく笑う。
「それ全然大丈夫じゃないよね!?」
心臓の鼓動の速さが今月最高記録を更新した。
今日一日のドキドキ要素に新たな劇物が追加された瞬間だった。




