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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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44. やさしさに包まれたなら


 「あの・・・。」

 白川は申し訳無さそうな顔をしている。

 「まさくん・・・。」

 佐々木はかわいそうな人を見る目を向けている。

 「もしかしてバカなんですか?」

 そして北本はシンプルに俺を蔑んでいた。




 月曜以来なし崩し的に放課後の活動内容はテスト勉強になった。

 となると自然に教えたり教えられたりする流れになるわけだが、その流れが行き着いた先は俺の学力の低さの露呈だった。

 当然はじめは自分でどうにかしようと奮闘した。

 この静かで淀みない空間を自らぶっ壊す勇気もする気もなかった。

 しかし、そういう空気をものともしないある人を皮切りに、この空間はアニメでたまに見る勉強会なるものの様相を呈していた。

 つまり、わからないところを気軽に聞ける雰囲気になったのだ。

 まあ自然にそういう流れになったということは他の2人もそれを嫌に思っていなかったのだろう。

 もちろん俺も嫌ではなかった。というか非常に助かった。

 それを受けて俺も機を見るに敏と全教科のわからないところをちょいとばかり皆に聞いたわけだ。

 なぜならこっちはわからないところが山ほどある。

 むしろこれまでの時間はわからない部分の発掘調査の時間だったと言ってもいい。

 だがそれらの質問内容はどうやら初歩中の初歩だったらしい。

 白川は戸惑い、佐々木は憐れみ、北本は蔑んだ。


 「・・・・・・そんなに?」

 「えっと・・・・・・。」

 「まさくん・・・・・・。」

 「そんなに。」

 「へえ。」

 「よくその英語力でここ入れましたね。」

 「・・・・・・まあな。」

 「・・・。」

 「・・・。」

 まあ確かにこの高校に入れたのは数学のおかげであることは間違いないが、そんなに英語がひどいという自覚はなかった。

 なぜかというと自覚するために必要な比較対象がいなかったから。


 「そんなんじゃ英語の授業で何もわかっていないんじゃないですか?」

 「・・・・・・うん。」

 英語の先生が何かを言ってクラスのみんなが笑っている時、俺だけ内容が理解できず真顔でいたあの日がふと脳裏をよぎる。

 「よくその英語力で生きてこられましたね。」

 アニメならここで「日本人なんだから英語なんてできなくていいんだよ!」とか言うタイミングだろうが俺は静かに目を伏せることしかできなかった。

 「それに古文もひどいです。ちゃんと学校来てましたか?」

 「お前隣なんだから俺が皆勤で出席してるの知ってるだろ!」

 「来ててこれならなお悪いですね。」

 「ぐぅ・・・。」

 いとあわれではずかし。



 「とにかくこのままじゃテストで惨敗するのが目に見えてますよ。」

 「うぐぅ・・・。」

 事態はそんなに深刻だったか。

 これはまずい。せめて人並みにはできないと。担任のババアに呼び出されるなんて絶対に嫌だ。剰え三者面談なんて決まったら目も当てられない。

 こうなったら・・・。



 ・・・・・・。

 ・・・。

 頼っていいのだろうか。

 これは間違いなく俺個人の問題だ。

 俺が指南を頼める義理なんてあるはずがない。

 みんなが聞きあっている時にさらっとひとつふたつ聞くのとはわけが違う。

 間違いなく俺の勉強に付き合わせる形になってしまう。


 ・・・。

 「あの、どうしたんですか。」

 対面からはうつむく俺を心配する優しい声。

 「現実を目の当たりにして落ち込んでるんでしょう。」

 斜向かいからは冷めた声。

 「だ、大丈夫だよ、まだ週末もあるんだし。」

 隣からは励ます声が聞こえてくる。

 一人を除いて、俺が頼めばきっと二つ返事で俺に勉強を教えてくれるだろう。


 しかし・・・。

 「ま、大丈夫だろ。多分な。」

 これまで俺はひとりで勉強してきたんだ。てか勉強以外も1人だった。今回だって本気を出せばどうにかなるだろう。多分。

 俺は英単語帳のテスト範囲の部分を開いた。とにかく問題なのは英語と国語だ。

 これさえ、これさえどうにかなればどうにかなるだろう。多分・・・・・・。



 「・・・・・・もう、しょうがないですね。」

 単語帳を開いて10秒後くらいだろうか、さきほどよりあたたかさと優しさのある声が斜向かいから聞こえてきた。

 「週末にうちで勉強会やりませんか。みんなで。」

 「え?」

 そしてその声は俺に向けての言葉だとわかった。

 無論実際には他の2人も含めての呼びかけだった。だが国語が苦手な俺にもその真意はわかった。

 「特に誰とは言いませんが男は強制参加です。」

 だからこそここで「いやこの空間に男は俺しかいねぇよ」と言える余裕はなかった。

 真意は言うまでもなく俺への気遣いだ。

 だって一番勉強会を必要としていない人が言っているんだから。


 「・・・・・・いいのか?」

 「いいも何も私が言い出したことですし。」

 「二人もいいのか?」

 「ええもちろん。」

 「みんなでやったほうが捗るしね~」

 「・・・そうか。」


 もしかしたら、俺はこいつらのことを無意識に過小評価していたのかもしれない。こいつらは俺が思っていた何百倍も、優しい。



 「日時と場所はあとで連絡しますね。ちゃんと来てくださいね、特に早生まれの人は。」

 いやこの空間に早生まれは俺しか・・・ってなんで俺が早生まれって知ってるんだよ。

 

 

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