43. 個は脆い、本人が知っている以上に。
「え、中間テスト?」
勉強する白川に恐る恐る尋ねて返ってきた言葉は受け入れがたいものだった。
「今日日程が発表されたんですが・・・・・・HR起きてました?」
なるほど、なるほどなるほど。
その答えを知っている北本は冷めた目線を俺に向けていた。
てか気付いたらさっきまで響いていたシャーペンの音がなくなっていた。いつの間に佐々木もこっちをガン見してるし。
おいお前らは勉強続けてろよ。恥ずかしいだろ。
「で、いつから始まるんだ?」
「来週からです。」
・・・。
なーんだ。来週かよ。驚かすなよな。
「来週のテストもう勉強してるのか。」
確かに北本はいつも勉強してるしわかる。
「初めての定期テストですしね。」
まあ白川も真面目だし勉強してもおかしくはないかもしれない。
「そうそう、まさくんも勉強したほうがいいよ~。」
だが問題はこいつだ。
「お前はそんなキャラじゃないだろぉ!?」
なーに当たり前のように勉強してるんだ。
いくらなんでも不自然だ。
どこかに頭をぶつけたのか、はたまた別人がなりすましているのか・・・・・・
「いや、わたし真面目だし。」
「嘘つけ。お前はどちらかというと俺側だろ。」
「それって、告白?」
「どんな思考回路してるんだよ!」
ほらそういうこと言うじゃん。絶対一夜漬けキャラじゃん。それかそもそも勉強しないキャラじゃん。
「斉藤くんも勉強したほうがいいんじゃないですか。」
あっけにとられている俺に北本は冷たく言い放つ。
まあ私には関係ないですけど、という下の句が聞こえてきそうなテンションでの忠告だった。
「・・・やっぱしたほうがいいかな。」
こんだけ言われりゃ勉強のことしか考えられなくなる。
目立たぬようさっとラノベをカバンにしまう。
「不安ならしたほうがいいと思いますよ。」
不安のなさそうな人からの一言だったが、確かにそのとおりだ。
仕方ない。クッキーもなくなったことだし、ここは自称進学校ぶって放課後の図書室で勉強でもするか。
そうなればまずは・・・。
俺は静かに立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「教室に教科書取りに行ってくる。」
今の俺のかばんにはラノベしか入っていなかった。
教科書を取りに行ったついでにクラスの掲示板に貼りだされていたテスト範囲を確認した。
ばっさり言うとここ2ヶ月の範囲全部だ。わざわざ貼りだす意義は全く感じられない残酷なものだった。
でもまぁまだ1週間もある。
さすがにまだ慌てるような時間じゃない。
1日1教科としても2日余る。
たぶん大丈夫。そう、おそらくまだまだ余裕だ。
だから今日は・・・。
・・。
・。
図書室に返ってきた俺は再びラノベを取り出すことはできなかった。
やっぱり他の人が勉強している中にいるとそれに反抗してまで自分のやりたいこと(主に怠ける)をする気になれない。
これまで散々他人は関係ないものと思い続けてきた。
いや、影響を受けることは負けとまで思っていたかもしれない。
もちろん今もそう思っている。
しかしなぜだろう、今の図書室ではこの輪から抜けだしてまで自分のやりたいことをする気になれない。
したくもない、しなくてもいい勉強をしてもいいかもしれないというくらいの気分にはなっている。
こんなことはこれまでの人生にあっただろうか。
きっとなかった。
他人の存在が自分の行動を左右するなんてことはなかった。
これは誰のせいだろうか。誰のおかげだろうか。
俺は無意識に図書室を見回す。
その姿を見て教科書を取り出した。
・・・。
再び心地よい沈黙と紙にものを書く音が戻ってきた。
まぁ高校生のすなる勉強といふものをしてみよう。
俺は比較的きれいなままの教科書を開いたのだった。
・・・あの、ところで学力も輪に入れてもらえませんかね?




