41. マッチポンプ。そして新たなマッチ
「雨かあ。」
雨音で目が覚める。
カバーが新しくなった携帯で確認するといつも起きる時間の5分前だった。
たまに目覚ましをセットした時間の直前にふと目が覚める日があるのは俺だけなのだろうか。
・・・。
そんなことより、昨日の買い物の疲れせいか低気圧のせいか、なんとなく全身がだるい。
時期を考えるともしかしたら梅雨の始まりなのかもしれない。
全身はだるいし、月曜日だし、雨だし、今日はなかなかに憂鬱度が高い。
着替えながら見ていた天気予報によると今日は1日中雨らしい。
はあ。昨日家から出たし、代わりに今日は休ませてほしいものだ。
休日というのにまるで休んだ気がしない。
・・・・・・とまあそんなこと考えていても仕方がない。傘を片手にいつもより少し早く玄関を出る。
思ったよりも雨が強い。
いくら学校が目の前だとしても雨は鬱陶しい。
荒れ模様の中、短い通学路を歩き出した。
「おはようございます。」
校門を通ってすぐ背後から声をかけられる。
雨の日でも聞き取りやすい澄んだ声だ。
「おう、おはよう。」
「今日はいつもより早いですね。」
「ああ、なんでかふと目が覚めてな。白川はいつもこの時間なのか?」
「だいたいこれくらいの時間ですね。」
まあこいつも家から学校近いしな。
・・・・・・。
なんだろう。目線を感じるような気がする。
「なあ、なんか俺達見られてないか?」
「そうですか?」
気のせいだろうか。
「まあいいか。」
別に気にしても仕方ないので体が覚えた動きで靴を履き替え教室に向かう。
この時間も結構人いるもんなんだなぁなんて思いながら階段を上がる。
しかし俺にはそんなことをのんきに考えている余裕はなかった。
俺から教室に入るなり、数人の男子に囲われる。
後ろをちらり見ると白川も女子に取り囲まれているようだ。
「おはよう、斉藤くんよお。」
怨嗟のこもった声で挨拶される。
「え、なに。」
「何じゃねえよ。お前昨日誰とどこにいた?」
この一言ですべてを察した。どうやら後で中谷を詰問する必要がありそうだ。
「ああ、買い物だよ買い物。部活で買い物に行っただけだ。」
「で、でも情報によると二人は付き合って・・・」
「そうだ嘘つくなー」
「本当だとしても羨ましいぞー」
ああうるせー。
複数人から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「とりあえず座らせてくれ。疲れてるんだ。」
「昨日遊びまくったからか?」
「寝てないのか?」
「え?おい、ふざけんな!」
うぜえええ。
「ああもうなんもねえよ。そんなに疑うなら白川に聞け。」
面倒になった俺はそう言い放つ。しかし男子たちは白川に話しかける勇気はないらしく、一瞬たじろぐ。
ちょうどいいので俺はその一瞬の隙をついて包囲網を脱した。
中谷は、中谷はどこだ。許さん。
しばらくして白川も席につく。
さすがにここで会話するなんて自殺行為はしない。
一瞬視線をかわして「まったく・・・」「ほんとですね・・・」というやりとりを目でした。
その割には白川の表情はそんなに嫌そうに見えなかった。心の広いやつだ。
その時扉の開く音がする。
全ての元凶、中谷の登場だ。
俺はあえて目線をそらし中谷が座るまで待った。
座った瞬間に俺は話しかける。
「よう。お前どこで誰に何を言った。」
おおよそ予想はできるが聞いてみる。
中谷は教室を見回し、雰囲気で俺の意図するところがわかったようだ。
「いやあ、ネットで、ついね。」
「ついね。ニコッ、じゃあねえよ。」
「だ、だってこんな面白いこと一人で知っててももったいないし。それにいいじゃん本当のことなんだから。」
「本当のことじゃねーんだよ。俺達がいつ付き合ってるなんて言った?」
「え?違うの?」
「ちげーよ。ただ部活のメンツで買い物に行っただけだ。」
「なーんだ。」
「なーんだで済ますな!どうすんだよこれ。」
クラスの雰囲気(主に男子)はまさに剣呑といった風だ。
「じゃあいっそ本当につきあっちゃえば?」
こいつ頭お花畑かよ。
そんな漫画みたいな・・・。
あ、そういやこいつ確か・・・。
「そりゃお前が読んでる漫画ではそういうこともあるかもしれないけどな・・・」
俺は深く考えずに言ったが・・・・・・。
「わああ。ちょっ、ちょっと。」
しかし中谷は面白いように狼狽する。
「・・・なんだよ。」
中谷は急に小声になる。
「なんであんた私がそういう漫画読んでるって知ってるのよ。」
先日アニメショップで見かけたから漫画が好きだと思って深く考えずに言ってみたが・・・。
この焦り方・・・どうやら相当香ばしい漫画をご愛読されているようだ。
これは使える。
「この間商店街のあの店いただろ。その時俺もあの時そこにいたんだよ。」
中谷はわかりやすくうなだれる。
もしかしたらこいつはオタクを周りの人に隠しているタイプなのか。
まあこいつは見るからに体育会系だし、関わってるメンツも漫画やアニメと無縁な生活をしていそうな人ばかりだ。
不必要にオタクを公表してもメリットはないのだろう。
「・・・誰にも言わないでくれる?」
中谷のさっきまでの勢いはすっかり影を潜めていた。
「急にそんな甘ったるい声だされてもなあ。俺もデマを流されたわけだし。」
「わかったわよ。私からみんなに説明するから。だから誰にも言わないで。」
「ああ。」
話が終わる。
面倒なことになったが中谷が収拾にあたってくれるなら多少はマシになるだろう。
それにしても中谷が隠れオタクだったとは。いやオタクなのは知ってたが。
図らずもクラスの女子と2人だけの秘密を共有することになった。
・・・。
だからって何かドキドキイベントが起こったりはしない。断言できる。
なぜなら俺からこいつに話しかける機会はもうないだろうからな。
・・・。
こういうのは期待しないに限る。
そんなやりとりをしていたら前の扉から先生が入ってきた。
なんか無駄にバタバタした月曜の朝だったなぁ。




