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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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40. 独りの弱さを克服する最も簡単な方法

 


 「まさくん何買ってたの?」

 「スマホのカバー。」

 俺達は帰りのバスに乗るためにバス停に向かっていた。

 「ちょっと見せて~。」

 隠す必要はないので渡す。白川も変って言ってなかったし大丈夫だろう。

 「思ってたより可愛らしいね。」

 「やっぱそうだよな。」

 「へー斉藤くんって案外こういうの好きなんですね。そんな顔で。」

 北本が佐々木の手を覗き込む。

 「・・・おぅ。」

 倒置法で強調するな。悲しくなるだろ。

 「私はいいと思うよ!」

 今だけは佐々木の底抜けの明るさがありがたい。

 「そうですね。いまの汚いやつよりかは。」

 危うくスマホを投げ捨てそうになった。



 ・・・。

 ・・。

 ・。

 「今日は、みんなありがとね。」

 電車の中、どこか気恥ずかしそうに佐々木が言った。

 俺達は顔を見合わせる。


 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」

 「・・・。そうですね。佐々木さんが言い出さなければ今日はなかったでしょうし。」

 「かおりん・・・しずくちゃん・・・。」

 まあ、確かに、楽しかったかつまらなかったか、どちらかと言えば楽しかった。


 ・・・。

 3人に見られる。

 え?これ俺もなんか言わなきゃいけない流れ?

 こういうの俺の柄じゃないんだけど。

 ・・・・・・。

 「まあ、楽しかったよ。素直に楽しめた。」

 佐々木は「よかった。」と微笑んでいた。

 電車の窓から見える景色はいつの間にか暖かい色に輝いていた。



 

 最寄り駅で降りる。

 予想に反して今日は最後まで雨は降らなかった。

 北本は別の駅なので電車内で別れ、佐々木は家の方向の違いにより駅で別れた。


 「なんだかすげー疲れた。」

 「もっと休日も家から出たほうがいいですよ。」

 というわけで電灯が灯る道を白川と2人で歩いていた。


 「今日の買い物に俺いらなかっただろ。」

 結局スマホカバーという収穫があったが隣町まで、かつ女子と一緒に行く必要は感じない。

 「斉藤くんはそうかもしれませんけど。」

 「私達にとってはそうでもないんですよ。」


 

 「誰かにいいと言ってもらえる、似合っていると認められたい。それがほしい時があるんです、女の子には。」

 そんなもんなのか。


 「でも別に俺じゃなくてもそれこそお前らでもいいじゃないか。」

 「はあ・・・」

 白川はため息をつく。悪いな出不精で。

 「まあ今日は思っていたより楽しかったしいいけどな。」

 「それは良かったです。休日も家から出る気になりましたか?」

 「うーん。」

 「なんでそこで『うん』と言わないんですか。」

 「そう言われてもなあ。」

 気づけば俺の家の前の道まで来ていた。ここまで来たら長かったようで短かった今日ももうすぐ終わりだ。

 遠くに夕日が見える。

 夕日が沈むにはもう少し時間がかかりそうだ。


 「・・・それならまた私達が誘わなければいけませんね。」

 「いや、なんでだよ。」

 「もしかして今日、楽しくなかったんですか?」

 わざとやってるのか。わざとだよな。

 まず誘う理由を聞いているのに楽しかったかどうか聞いてくるのは文脈がおかしい。

 それに俺はさっき楽しかったと言った。


 ・・・。


 俺の休日の安寧のためにもここはびしっと言わなくては。



 「・・・わかったよ。どうせ休みの日は暇だからな。」

 「はいっ。」


 ・・・・・・これは決して白川の上目遣いに負けたわけではない。

 




 

 「ただいま。」

 「おかえり。珍しいねこんな時間まで。どこいってたの?買い物?」

 「まあな。」

 「おかえり。おにぃどこ行ってたの?」

 「買い物だよ買い物。」

 まったく、外出するだけで詰問される。まあ普段の俺を知っている人からすれば当然か。


 「随分長い間外にいたみたいだけど。」

 「隣町まで行ってたからな。」

 冷蔵庫を開けお茶を飲む。

 「へえ~珍しい。」

 これ以上質問されると面倒なので自室に向かった。

 


 早速スマホのカバーを変えることにした。まあ買ってきたわけだしな。

 ・・・。

 改めて見ると俺にしちゃあ可愛すぎる気がする。

 でも買ってきたものは仕方ない。

 それになんだかんだ言って部活の女子たちには好評だったし。


 ・・・。

 ・・。

 ・。

 カバーが新しくなったスマホを眺める。


 白川がいいと言わなければきっと、いや間違いなくこのスマホカバーは買わなかった。

 俺は今まで自分の決断に人の考えを取り入れたことはなかったと思う。

 自分のことは自分の中で解決すべきだと思っていたし、そもそも考えを聞ける他人がいなかった。

 でもそれは俺の視界が狭かっただけなのかもしれない。

 なぜなら他人の考えは、時に俺だけでは到達し得なかった結論に導いてくれる。

 ちょうどこのカバーのように。


 そして、案外他人に認められるというのは心地良い安心感が生まれる。

 これまで他人の意見なんて聞こうとも思わなかった。

 聞く方法も知らず、聞く相手もいなかった。

 だから俺は無意識に、自分にな対する他人の意見に対してマイナスイメージを持っていたのだろう。

 人間、わからないものをプラスに捉えるのは難しい。

 意識しない限り無知には拒否反応を示す。

 「わからない」という状態はとても嫌なことだ。

 俺は「他人の意見・感想」という未知を悪者にして、自分の意見を堅持する口実にしていたのかもしれない。



 だが、今日は図らずもその未知が既知となった。

 そして、「他人の意見」を再評価した。


 ・・・。

 身近な人の意見を聞くというのは存外悪い結末にはならない。

 柄にもなくそんなふうに思った。

 ・・・。

 ふっ。

 なんていうか・・・

 たまには家から出てみるのもいいのかもしれないな・・・






 できれば次はもう少し混んでいないところがいいけど。



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