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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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38. 様式美


 腹ごしらえも終えいよいよ買い物タイムとなった。

 俺はスマホで今日やっている映画を検索する。

 どうやらまずは服から見に行くことに決まったらしいが俺には関係ない。

 「じゃあ終わったら連絡してくれ。」

 前で談笑している隙をついて白川に後ろからそう告げる。

 「ちょ、ちょっとどこ行くんですか?」

 何故か引き止められる。

 「映画館だけど。」

 「そういうことじゃなくて。」

 「いや俺服買わないし。」

 なんなら何も買わない。

 「私達の服見てくださいよ!この買い物が決まった時もそう言いましたよね。」

 「そうだったっけ。でもなあ。」

 自分で言うのも何だが俺の美的センスはそのへんの男子の中でも最底辺だと自負している。今日だって悪名高いチェックシャツだし。

 それなりの身だしなみはしようと思うが、洋服に数万つぎ込む資金力はとてもない。

 「いいんですよ、いてくれるだけで。」

 「じゃあいなくてもいいだろ・・・」

 その時空気が凍る。

 「なにか言いました?」

 こういう時の白川は謎の凄みがある。

 「だいたい、ここで別々になったら一緒に来た意味ないじゃないですか。」

 ぐうの音も出ない。

 「わ、わかったよ。」

 にこにこしながら談笑に戻る白川。

 ・・・。

 俺は服屋で何をすればいいのだろうか。

 久しぶりにこいつをやる時が来たか。

 俺に剥落をともにしたあいつがいるじゃないか。

 そう思いながら静かに麻雀のアプリを起動した俺だった。

 



 「今年はこういうのが流行ってるらしいですよ。」

 「へえ~いいじゃんかおりん似合いそう~」

 「試しに着てみてはどうです?」

 「そうですか?じゃあ早速試着してみようかな。」

 麻雀は即飽きた。休日のおっさんたちにネット対戦でボコボコにされて一瞬でやる気がなくなった。

 しかたなく俺はJKのやりとりを店の隅からぼーっと見ていた。

 なにせ自分の服すら自分で買ったことがない俺だ。女物の服屋でどういう顔でいればいいのかなど検討もつかない。

 だからさながら不審者のように隅でJKを眺めていることしかできなかった。


 しかしこの観察でひとつ意外なことに気づいた。

 北本が案外買い物を満喫しているということだ。

 佐々木は言わずもがな、白川もなんとなくこういうのが好きそうな感じがする。

 だが北本は全くそんな印象がなかった。

 それが意外や意外、三人の中で一番流行を追っていたり他人に服を勧めたりと買い物を楽しんでいた。

 いつもは冷めたように見える北本も、なんだかんだ言って女子高生なんだなとふと思った。



 「あの。」

 不意に声をかけられる。

 「どうですか?」

 そこには涼し気な格好の白川が立っていた。

 「まあ、似合ってるんじゃね?多分。」

 「ありがとうございます。」

 正直言って白川が着て似合わない服なんてないと思う。

 「あ、あの。・・・私はどうですか。」

 声のする方を見ると同じ服を着た北本が立っている。

 「涼しそうだな。」

 「なんで私の時は言うことが違うんですか?」

 「まあ着てる人が違うからな。」

 「どういう意味です?」

 「冗談冗談。いいと思うぞ。なんか真面目に見える。」

 「それ服関係ないでしょ!」

 ふう、北本と話すのは気を使わなくていいから楽だ。

 「ねえねえわたしの服も選んでよ~~」

 奥から佐々木の嘆きが聞こえる。

 「ほら、お前が選んでやれよ。」

 「言われなくてもそうします。」

 二人は佐々木のところへ戻っていった。


 確かに佐々木には今の二人の服はイメージがなんか違う感じがする。

 もっと弾けた風といえばいいのか、はつらつとした服のほうが似合うと思う。

 しかしそのへんは俺が言うまでもなく、二人の手でいい感じの服が見繕われる。

 なるほど、実は物静かな人のほうがファッションに気を使っているのかもしれない。

 それかもしかしたらそういう人のほうがよく他人を観察しているのかも。

 着替え終わった佐々木がこっちに来る。やっぱり俺のコメントが求めれる流れかい。


 「ど、どうかな?」

 「お、うん、いい、と思うぞ・・・」

 「えへへ、そうかな。」

 予想通りの展開でスムーズに感想をいう予定だったが一つ想定外のことが起こった。

 だから視線をずらしたがそれが良くなかった。

 「・・・ねえ、ちゃんと見た?」

 や、やめろ。そんなに近づかれるとどうしても目線がある一点に向いてしまうではないか。

 「見えてる。いや、見てるから。」

 たじろぐ俺を見て北本に感づかれる。


 「ちょっとどこ見てるんですか?」

 はっ、と佐々木は胸をかばう。

 「まさくん?」

 「い、いや、これは不可抗力なんだ。」

 そう、これは仕方のないことなんだ。

 というかそんな見える服を着るから悪いんだ。

 俺は悪くない。

 「斉藤くん?」

 「悪かった。」

 「もうっ。」

 佐々木は白川たちの方へ戻っていった。

 


 「ま、まさか私の時も?」

 「それはない。」


 声にならない怒りをあらわにする北本だった。

 

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