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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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36. おもしろきこともなき世をおもしろく


 窓から入ってくる爽やかな風で目を覚ます。

 予定のある休日というのはいつ以来だろうか。

 日曜日に私服に着替えるのも久々だ。しかも午前中から活動している。帰りに嵐にならなければいいが。

 今週のいつだったか、夜のグループチャットで買い物の場所は隣町にあるショッピングモールに決まった。

 この辺では一番大きいモールということは知っていたが、1ミリも興味がなかったので行ったことはなかった。

 ちょうどいい機会なので楽しみたいと思う。多分2度と行かないだろうから。

 戸締まりをして家を出る。珍しく我が家が空になった。


 もうすぐ梅雨入りだろうかという暦に反し、初夏のような日差しを感じながら駅に向かう。

 それにしてもまさか高校に入って週末女の子と遊ぶようなことに発展するとは夢にも思わなかった。

 あんなに誰ともかかわらず生きようとしていた人の人生とは思えない。

 人は人との出会いで変わる、なんてよく言われるがこれまで信じられなかった。

 人と出会ったことがないからである。

 しかし、今は多少信じてもいい気がする。

 俺は間違いなく変わった。というか変えられた。

 人生どう転ぶかわからないものである。

 そう考えると人生で自分の思い通りになることなんてほぼないんだなぁなんて思ってしまう。

 だが、人間万事塞翁が馬なんて言葉もある。

 この変化がいいことか悪いことか、それを判断する資格は今の俺にはないだろう。

 せっかくの高校生活だ、そしてまだ高校生だ。

 白川たちがくれた馬に乗って骨を折るのも悪くない気がしないでもない。

 まあ、今日はその白川たちに徴兵されたんだけどね。


 

 駅の前の噴水に着くとすでに白いワンピースを着た人が立っていた。

 思わず見とれ、思わず後ずさる。

 そういえば白川の私服を見るのは初めてだ。慣れなさと、白いワンピースという完璧な出で立ちにより思わず声をかけるのをためらってしまう。

 これからこんな可憐な人と買い物に行くという現実に、緊張と謎の後ろめたさを感じてしまう気の小さい男がそこにはいた。

 腹を決めて前に進む。北本と佐々木はまだ来ていないようだ。

 時計を確認する。まだ集合時間より10分も前だ。さすが白川と言ったところだ。

 「おはよう。早いな。」

 「おはようございます。斉藤くんこそ早いですね。」

 「まあ、たまたま早く準備が終わったからな。」

 嘘だ。

 これまで隠していたが昨日の夜から緊張が収まらなかった。そしていよいよ当日となるといても立ってもいられなくなっていた。

 そりゃそうだろ。

 俺がJK3人と休日買い物に行くなんて夢にも思わなかった。

 落ち着けるはずがない。

 平静を必死に装っているが謎の罪悪感と不安でかなり血圧が上がっている。

 「二人はまだか。」

 そういうわけでわかりきったことを話すくらいしか今の俺にはできなかった。

 「北本さんは現地で落ち合うことになっています。」

 「あ、そうなの。」

 そりゃそうか。わざわざ途中下車する必要もない。

 「佐々木のやつ遅いなあ。」

 「まだ集合時間になってませんからね。」

 白川は優しく笑う。

 しかしこちらは一切の余裕がない。

 ・・・。

 ・・。

 ・。

 (頼む、佐々木はやく来てくれ・・・)

 今だけは佐々木のあのうるささが欲しかった。

 

 「おまたせ~。」

 やっときたか。

 結局佐々木が来たのは集合時間ぴったりだった。

 何も悪いことをしていないのだが、俺は非難の目線を佐々木の後頭部に送ることを堪えきれなかった。


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