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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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35. 人生を楽しめない弱さ



 結局今日の昼休みはこのあとすぐチャイムが鳴って解散となった。

 しかし授業が始まってもなお佐々木のあの言葉が俺の頭の中では渦巻いていた。

 俺はこの合宿で素直になることを学んだ。

 しかしそれだけでは人生を明るくするには足りないようだ。

  

 「そんな風に」

 

 そんな風にとは、端的に言えばなんだろう。

 今日の昼休みの会話を思い出す。

 佐々木は合宿の楽しかった話をしていた。

 俺は合宿の個人的マイナス面を話した。

 これは話の流れでした話だが、俺の思考回路と大きく乖離しているわけではない。


 そんな風とは恐らく全物事を損得勘定、メリット・デメリットで考えることを言っているのだろう。



 俺はこれまでの人生ずっとそうしてきた。

 楽しそうなものに夢中で飛びつくことはしなかった。

 それはもちろん俺の臆病さに起因しているものだがこれが間違っていると考えたことはなかった。


 冷静に考えて行動する、このプロセスの正しさを疑うことをしなかった。

 しかし、それは全ての物事に冷めた状態で対峙することになる。

 合宿などという娯楽にこの冷静さは必要なのか?




 確実性・安全性と楽しさは一種トレードオフの関係にあるのかもしれない。

 ある程度の意外性や感情の勢いがあったほうが色々なことを楽しく感じることはギャンブルの歴史の長さが明らかにしている。


 佐々木はこのことを言っていたのだろうか。

 あいつは、少なくとも俺よりは勢いで生きている感じがする。


 どんなものにも裏表がある。

 ただ、それを気にしなくてもいいという場面は存在しているのかもしれない。

 俺は長年のぼっち生活で無駄に考える癖がついたようだ。

 楽しさを全力で楽しむためには楽しさだけに注意を向けることが肝心らしい。

 そこに楽しくないものに注意を向けている時間などない。



 

 そんなことを考えていると気づいたら放課後になっていた。

 白川いわく

 「今日は遊びましょう。」

 ということで人生ゲームなるものをやることになった。

 これまでもずっと遊んでなかったか?という言葉を飲み込みながら目の前のゲームについて尋ねる。


 「みんなやったことあるのか?」

 「それはまあ何度か。」

 「もしかしてまさくんやったことないの?」

 「ああ・・・」

 え、このゲームって有名なの?


 「それほど難しいゲームではないですしやっているうちに勝手はわかると思います。」

 そういって白川はおもちゃの札束を用意している。

 「ポケット版があるというのは初めて知りました。」

 「ね!結構大きい箱に入ってるイメージだった。進化してるんだねー」

 へえ、これはポケット版なのか。

 「では、みなさん好きな色の車を選んでください。」

 


 各々適当に車を選んでゲームが始まった。

 「まずは斉藤くんからでいいですよ。」

 「お、いいのか。」

 初心者ということで俺からスタートとなった。はじめが肝心、勢い良くルーレットを回した。

 「お。」

 願いが通じたのか最大の出目である10が出た。

 ・・・。

 しかしみんなは苦笑いを浮かべていた。


 ・・・。

 ははーん、ここでは職業を決める区間だったのか。

 そして俺はその職安ゾーンを華麗にスルーした。



 「これ、どうなるんだ?」

 「ええと、フリーターということになりますね。給料日ごとに1000円もらえます。」


 俺はゲームの中でもニートまっしぐららしい。


 他の奴らは順当に職に就いていた。白川は先生、北本は医者、佐々木はアイドルとなった。

 優しいおじいさんがお金をくれたり、宝石を拾ったりしているうちに結婚のマスに到着した。


 「結婚する気ないんだけど。」

 つい本音が溢れる。

 「えーなんで!」

 「いや、他人と同じ家に住むなんて嫌だし。」

 「まあ、ゲームですから。」

 マスの説明を読むと出た目が偶数なら結婚できるらしい。

 ・・・。

 ルーレットが示していたのは8だった。


 「職もないのに結婚なんかして大丈夫かよ。」

 「ま。まあ、ゲームですから。」

 白川は苦笑しながらそういう。

 「それに結婚したほうがいいマスが多いコースにいけますし。ニートでもお金が増えるますよ。」

 さすが北本、人生ゲームもよく知っているようだ。


 「生活保護かな。」

 ぼそっと言うとみんなが笑っていた。



 その後北本以外は結婚した。北本がルーレットに怒りをぶつけている様は見ていて面白かった。

 結果、俺は無職なのに4人家族一軒家持ちという奇跡的状態でゴールした。


 「結構面白かったけど、あんまリアリティないな。」

 「これくらいのリアリティさがちょうどいいんですよ、きっと。」

 「さすがお金持ちは心の余裕が違うな。」

 「そうざますか?」

 白川に意外なギャグセンスがあることが判明した所で今日はお開きとなった。

 

 



 「今日はお前のことずっと考えてた。」

 「え、な、なに急にっ」

 佐々木と話しながら家に向かう。


 「昼に話したことをずっと考えてた。俺は楽しいことの背景を考えすぎてたのかもしれない。」

 「あ、あーそれね。」

 「楽しいことだけに目を向けられるように矯正したほうが幸せに生きられる気がする。」

 「んーよくわかんないけど、人生結構どうにでもなるから、なるようになったほうが楽しいよ?」

 「お前は勇気があるな。俺にはなかなかできない。」

 「わたしはバカなだけだよ。」

 「いや、楽しく生きるすべを知っているだけ俺よりずっと頭がいい。」

 ほんと、バカの考え休むに似たりとはよく言ったものだ。


 「きっと、人生には楽しいことも辛いこともたくさん落ちていると思う。でもどれを拾うかはわたしたちの自由なんだよ。」

 「佐々木は生きるのが上手いな。」

 「わたしバカだから楽しいものしか目に入らないだけだよ。きっと。」

 そう言ってにこにこ笑っていた。


 その笑顔から楽しいことを夢中で楽しむ勇気をもらえた気がした。

 

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