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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第4章 はじめて知る優しさ
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34. 打算的人生



 昨夜は自宅のベッドと感動の再会を果たしたおかげでぐっすり眠れた。

 そうはいっても疲れが完全になくなるほど俺の体は若々しくないようだ。


 「あーだりー」

 合宿の次の日と言えどもただの平日であることに変わりはない。

 今日も1限からしっかり授業がある。


 そもそも週の頭から合宿をやることが大間違いなのだ。

 確かにクラスの男子の顔を把握できたのはよかったし、思っていたよりもレクリエーションは楽しかった。


 だから合宿をやることが間違いとまでは言わないでやろう。


 しかし月曜日からやらなくてもいいだろう。

 月曜日は観光バスが安いのだろうか。それとも宿泊施設の空きがなかったのだろうか。

 どちらにせよ公立高校の無力さが現れているように思える。


 こんな事を言っていても仕方ないので登校の準備を始める。


 「昨日まで遊んでたんだからしっかり勉強してきなよ~。」

 いつもより憂鬱な俺の背中を見て母が声をかけてきた。


 別に遊んでいたわけじゃないが否定するほど間違っていなかったので甘受した。

 いつもより肩を落として通学路を歩く。

 少し前までたまに感じられた肌寒さもすっかりなくなった。

 今日からまたいつもの日常だ。




 授業が始まる。

 授業風景からもみなのやる気のなさが見て取れる。

 しかし理科の教師は我関せずと言った感じで淡々と授業を進めていく。

 気だるさに包まれながら午前の講義の終わりを告げるチャイムが鳴った。



 昼休み、俺はいつもと変わらず図書室に向かう。

 窓の外には風に揺れる木々が見えた。

 「今日はどうしてもだるさを感じますね。」

 だるそうに顔を伏せる。

 はにかむ北本と当たり障りない会話をしながら図書室に向かうのももはや日課だ。


 「クラスのみんなもダルそうにしていたなあ。」

 「合宿もあったのにまだ水曜日という事実には気が滅入りそうですよね。」

 「全くだ、合宿を週の頭にやるのは頭が悪いとしか言えない。」

 「ですね。しかし学校側にもいろいろあるんでしょう。」

 俺も朝同じようなことを考えていたので首肯した。

 そんな話をしているうちに図書室の前についていた。

 扉に手をかけたときふと頭をよぎるものがあった。


 「たった今気怠さとは無縁そうな奴が一人いることを思い出した。」

 「私もです。」

 扉を開ける。


 「おーおーーお二人さんひさしぶり~~!」

 案の定元気はつらつな声が聞こえてきて思わず二人でにやけてしまう。

 「え~なんか二人が仲良さそうにしてるー」

 すこし佐々木の機嫌が悪くなったように見えた。


 

 今日も佐々木のクッキーを食べながら特に何をするわけでもなく昼休みを過ごす。

 今となってはもう漫画も携帯も取り出すことはない。北本は相変わらず机に教科書を開いているが、俺の昼休みは佐々木と話す時間となっていた。


 「合宿楽しかったね~。」

 おう、そうだなと応えるのはなんだか恥ずかしい気がした。


 「また行きたいかと聞かれたら行きたくないと答えるくらいには楽しかった。」

 「それって楽しくなかったってことじゃん!」

 「いやいや、それなりには楽しめたぞ。」

 えーっと言う顔の佐々木をよそに話を続ける。

 


 「ただ、自宅1km圏内を脱出してまでするほどでもないのは間違いない。」

 「許容範囲せまっ!そんなのどこにもいけないじゃん。」

 「もっと狭くしても問題はない。俺が身軽に行動できる範囲は自宅の中だけだ。」

 「どんだけ外出にハードルを感じているの!?」

 「俺から言わせてもらえば俺以外が異常だ。なぜそんな毎日家から出たがる。」

 「普通の高校生ならもっと気軽な気分で遊びに行くと思うよ・・・。」

 そのへんの感覚がわからない。


 「外に出てもほんとに楽しいか?家から出る面倒のほうが大きいだろう。」

 「だって外の方が楽しいじゃん。昨日だっていつもの授業よりも合宿のほうが楽しかったわけだし。」

 「確かにそうだが。それ以外の要素が問題なんだよなあ。何時間もバスに揺られるのも、男たちのいびきの中寝るのも抱き合わせでついてくると思うとな。」

 佐々木は顔を伏せる。


 「・・・そうかもしれないけど。」

 「だろ?」

 しかし今度はしっかり俺の顔を見て言う。



 「でも、なんかそんな風に考えちゃうと人生が面白くなくなっちゃう気がするよ。」

 

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