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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第3章 虚無からの脱却
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33. 地獄の先に得たもの



 結局昨日はその後北本と別れたあとなんとか眠りについた。

 絶望的に体調が悪い中合宿2日目が始まった。

 といっても今日は実質食事と学校への移動で終わるので問題はないだろう。

 この合宿5割くらい移動に時間使ってねーか?



 胃に優しそうな朝食を摂り終え、帰宅準備という名の最後の自由時間が訪れる。

 「なあ、お前昨日の夜中部屋の外に出たか?」

 準備を終えた鈴木が話しかけてきた。

 「なんでそんな事聞くんだ?」

 「さっきクラスの女子に、昨日の夜、どこかのクラスの男女が夜に逢引していたって噂を聞いてな。」

 逢引って単語を高校に入ってから高頻度で聞くようになったのは気のせいか?


 「さあ、トイレには行ったが何も見てないな。」

 そうか、といって鈴木は他の奴らと話し始めた。

 それにしても一般ピープルって他人の色恋沙汰になんでそんなに興味があるんだろうか。

 だらだらとニュースを見ていても、知らない芸能人が知らない一般男性と交際しているだの、有名人同士で婚約しただの、芸能のゴシップニュースのコーナーが必ずと言ってもいいほど挟まれる。

 ああいったたぐいのニュースが始まるとチャンネルを変えてしまう俺には、同級生が誰と付き合うとかそういう噂の楽しみ方がわからなかった。



 長いようで短かった合宿が終わった。

 学年主任のテンプレまとめを聞いたあと1組からバスに乗り込む。

 3組の順番が回ってきた。来たときと同じ席に座り高校に戻る。

 一般に帰りのバスではレクリエーションはない。ここでもそれは例外ではない。バスが走り出して数十分もすると周りは全員寝息を立てていた。

 俺も寝たいところだが、枕が変わるだけで寝られない人がバスで寝られるはずもない。スマホで音楽を聞きながらぼーっと車窓の景色を眺めていた。




 なんとなく昨日の会話を思い出す。

 あいつにとっては不本意かもしれないが俺と北本は似ている。

 北本の言っていた『こだわらないことにこだわる』というのは俺にとても似ている。

 俺はこだわる体力も愛もなかったから何にもこだわれなかったが、そこからの思考回路は完全に一致している。


 つまり、こだわることでしか得られないものを諦めるということである。


 諦めるという言い方が穏当でないなら期待しないと言ってもいい。

 全てのものにはリスクとリターンが存在している。

 『こだわる』ということはリスクなのだ。少なくとも俺達にとっては。


 こだわりからは期待と希望が生まれる。

 そしてそれらはしばしば裏切る。

 故に俺たちはこだわらなかった。

 期待しなければ裏切られることもないからだ。



 しかしこの考え方には問題がある。

 『こだわらないことにこだわる』ということが既に自己矛盾している点である。

 このこだわりが自分たちを縛る。

 全ての他者との接し方が屈折したものになる。




 俺はこれまでこの問題に気づかないふりをしてきた。

 特に困ったことはなかったからだ。


 しかし最近俺の周りに人が増えた。

 その人達を見ていると問題を見て見ぬふりができなくなっていった。

 北本がこの問題の存在を再認識させてきた。白川はそれを解決しようと色々してくる。佐々木は楽しむことを見せつけてくる。

 こいつらと関わっていることがこの矛盾と対峙することにつながった。


 そして昨日の体育館でのレクリエーションで俺はそれの答えらしきものを見つけた。

 それは『こだわらないことにもこだわらない』ということだ。

 現状の楽しさに根拠を求めようとしない。なぜか人と関わることになりなぜか楽しかった、それならばもうそれ以上理由を追求しないようにした。

 現状を刹那的に現状のまま受け入れることを許した。


 どうせ大したものでないから期待するな。他人が作ったものなんだから楽しめるわけがない。

 こういった『こだわらないための理由』を探すことをやめたのだ。

 


 そうすると自分にも他者にも素直に接することが出来ることがあのレクリエーションでわかったのだ。

 これが『こだわらないことにもこだわらない』という考え方である。

 これも矛盾をはらんでいるように思えるが、俺はそれを受け入れた。

 第一この世界には矛盾がありふれている。1つの矛盾にこだわってもしかたない。

 それに感情には矛盾がつきものである。なぜなら『感情』はそれ自体が理由なのだから。



 この考え方を知ってから、俺は矛盾や不明確を受け入れる勇気を得た。

 これまでの生き方には後悔はない。

 当時の俺はその時満足していたのだから。



 ただ、今になって思う。



 俺は臆病だったと。






 2時過ぎ、高校に到着し解散となった。

 「ただいま。」

 待望の帰宅を果たす。


「意外と早かったね。」

 母が出迎えてくれる。

「まあ、お遊びみたいな合宿だったし、明日も学校あるしな。」

「そうね、で、合宿はどうだった?」

 2日ぶりなのでそれなりに会話が続く。


 「特に何も。寝れなくて大変だったけど。」

 「そうなの。でも楽しかったんでしょ?」

 過去の俺なら間違いなく楽しくなかったと返していただろうなと思いながら小声で答える。


「・・・まあそれなりに楽しめるようになったかもな。」


 なんだそれと言う母を尻目に自室に向かった。


 今日はよく寝られそうだ。

 3章が一段落したところで少し休憩に入りたいと思います。(リアルが多忙のため)

 また時間ができたら続きを書きたいと思いますので、その時はまたよろしくお願いいたします。

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