32. 星は燦然と、しかし儚げに煌めき続ける
「俺もそうだった。学校生活を楽しんでいる奴らは刹那的な思考しかできない快楽主義の馬鹿な連中だと考え続けていた。」
あまりにも俺に似ている。だから俺にもその気持はよくわかる。
「だけど、あの部活に入ってからはその後の考え方が変わった。白川はいつでも楽しい時間を作ろうと頑張っている。佐々木は存在している娯楽空間、というか楽しさが共有されている空間を全力で楽しもうして、気づけば全体の楽しさを増大させている。多分本人たちは頑張っている自覚はないだろうけどな。」
「あいつらに振り回されている間に俺は思った。確かに現実の楽しさは虚構かもしれない。学校生活に関することは儚く脆いものかもしれない。しかしそれを認めながらも楽しむことは出来るんじゃないかってね。」
「やっと長い反抗期が終わったんだ。自分だけで精一杯だった俺が、やっと周りを見られる余裕ができたんだろう。それがお前の言う柔和なのかはわからんがな。」
無常の中にも楽しさはある。不確かなものを楽しむこともできる。そんな風に考えられるようになった。
「まあ、なんだ。どうせ人生自体儚いものだし楽しんでやってもいいかなって、そう思えたんじゃね。」
一通り話し終え、静寂が訪れる。
・・・。
なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がする。
なぜだか北本には誰にも言ったことのないような自分の気持ちを気楽に話してしまう。
・・・。
あー。
なんかいたたまれなくなってきた。
帰っていいかな。
「・・・確かに、そうなのかも知れませんね。」
聞こえるか聞こえないかの声量でつぶやく。
北本は少しうつむく。
「結局自分のこの考え方は自分の臆病さに起因しているものだと気づいていました。こだわるとは何かに踏み入ること、私にはその勇気がないんです。」
臆病、か。こいつは呆れるくらい俺に似ている。
「俺も臆病さ。」
俺は少しはにかみながら言う。
「ただ少し開き直っただけさ。」
「開き直る、ですか。」
・・・。
再び会話が途切れ、深夜の静寂が帰ってくる。
気づけば教師のことなど全く気にせず話し込んでしまったなあ。
話疲れた2人はソファに座り直す。
そしてなんとなく無意識に窓から見える宇宙に目を向けた。
そこにはもちろん変わらず星が広がっていた。
・・・。
「まあ、どうでもいいですね。」
「ああ。」
二人揃って星を見ながら笑いあった。
そう、俺たちが何で悩もうが、何を決心しようが、何に絶望しようが、そして何を諦めようが、この宇宙の中ではどうでもいいことに違いないのだ。
その後は今更手遅れな気もするが一応音を立てないようにしてお互い自室に帰った。
別れ際、
「ただ『こだわらないことにこだわる』っていうのはきらいじゃないけどな。」
と伝えた時少し恥ずかしそうに笑った北本の顔が異様に可愛く見えたのはきっと暗がりのせいだろう。




