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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第3章 虚無からの脱却
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30. 秘密裏の散歩者




 「・・・眠れん。」


 前日の準備虚しく、布団に入ってから一向に眠気が来ない。

 どうも俺は枕が変わると眠れなくなるタイプらしい。


 これまで、といってもある程度成長してからだが、自宅以外で寝た記憶がない。

 だから自分がそういう体質ということを知る機会がなかった。


 しかし今日それが判明した。


 そして腹も苦しい。

 向こう2年はカレーを見たくないというほど食わされた。

 とても寝られる気がしない。


 おもむろに周りを見回す。

 今までバカ話で盛り上がっていた同室メンバーも教師の襲来で電池が切れたようにぐーぐー寝ている。

 いつもなら得意の無駄な思考の旅に出かけるところだが、爆睡者たちのいびきでとてもそんな気分になれない。


 寝られない人にとって他人のいびきほど憎いものはない。爆音を立てている連中を今すぐにでも部屋の外に出してやりたい。



 ・・・。

 しかしそんなことができるわけもない。

 にっちもさっちも行かないので仕方なく自分が部屋から出ることにした。


 静かに扉を開ける。教師はもう寝床に就いたようだ。生徒が信用されている。このへんは進学校らしい。

 その信用をかなぐり捨てる気はないので、深夜の徘徊は控えめにしておこう。


 ・・・そうだな、少し遠回りをしてトイレに行ってそのまま部屋に帰ろう。


 そのまま目指せば最寄りのトイレには1分弱で着く。さすがにそれでは面白くないのでもう一つ先のトイレを目的地に設定した。

 というのも最寄りのトイレは廊下にあるただのトイレだが、もう一つ先のトイレは談話スペースと思われるソファーが置かれている空間の端にある。


 だからといって機能が優れているとかはないだろうが、秘密の徘徊の目的地にはちょうどいい。

 一応不必要に音を出さないよう注意をしながら歩く。


 全く、自分の体質には困ったもんだ。やはり外泊は良くない。自宅がある喜びをもっと享受すべきであると再確認した。

 少し寒い。4月とは言っても夜の山の中は寒いに決まっている。早くもあの眠れない布団が恋しくなってきた。これから外泊を強要された時は枕と耳栓を持参することにしよう。



 そんなことを考えながら歩いていると早くも例の談話スペースに到着した。

 そのままトイレに行っても良かったが、出来心で置かれているソファーに腰掛けた。


 ふうー。一息つく。眠れはしないが疲れているのは確かだ。

 月の光に導かれ、ぼうっと窓の外を見る。

 「おーー」

 思わず感嘆する。

 そこには空一面とは言わないにしてもかなりの量の星が空に瞬いていた。俺には星を見る趣味がないのでいつもは気にもしていなかった。だから空にこんなにも沢山の星があることには驚いた。


 カレー作りなんてどこでも出来るんだから星見でも企画しろよと少し思った。


 ・・・。

 まあなんでもいい。

 この星々を見ていると、俺がいつも考えること、人間が悩んでいることの矮小さに気付かされる。


 ・・・。

 ・・。

 ・。

 夜空って延々見てられる。

 窓から見る星空は絵画のようだった。

 ・・・。

 しかしずっといるわけにも行かない。それに少し寒い。

 名残惜しいがそろそろトイレに行こう、そう思ったときだった。


 廊下から足音が聞こえてきた。

 まずい、見回りの教師が来たようだ。生徒を信用してなどいなかった。さっきの言葉を返しせ。


 俺は仕方なくソファーに身を隠す。談話スペースを横切るだけならここはまず見つからない。

 足音が近づいてくる。

 そのまま通り過ぎることを祈る。



 突如足音が止まる。

 まさかバレたのか?いやそんなはずはない。ここは間違いなく死角のはずだ。




 しかし足音はこちらにどんどん近づいてくる。


 万事休すか。

 俺はこの年になって叱られることを覚悟した。



 「何してるんですか。」



 頭を上げるとそこに立っていたのは意外にも北本だった。


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