26. 絶望と羨望の先
「あの。」
肩を叩かれる。
「なにか。」
力なく返事をする。
「あの、ペア組みませんか?というか組むしかなさそうです。」
「え?」
振り返る。そこには紐を持った北本が立っていた。
「もう私達以外はペアができているみたいですので。」
「あ、ああ。了解了解。よろしく。」
そう言えば3組は28人だった。女子も一人余るのね。
しかしその女子が北本というのは僥倖である。
知らない女子なら最悪泣かれていた。
ふう助かった。
ん?
視線を感じふと横に目をやる。
そこには嫉妬に狂う男どもが熱い眼差しを向けていた。
俺は勝ち誇った顔をお返ししてやった。
女子組のあと男子組がアンカーをするという流れということなので、俺らは男子の前に走ることになった。
申し訳程度の練習時間が10分与えられる。
「痛くありませんか。」
「大丈夫。」
北本が紐を結んでくれる。
「では試しに歩いてみましょうか。掛け声は私が言うので合わせてください。始めの足は外側からで行きましょう。」
さすが北本。決めるべきことを決めてくれるおかげでスムーズに事が進む。
「いきますよ、せーの。」
いちに、いちに、声に合わせて二人で歩く。
俺が気をつけることは歩幅を北本に合わせることだけだ。
・・・。
それ以外考えることがない。
・・・。
横を見ると北本が至近距離にいる。なんだかいい匂いがする。
・・・。
しかし、こいつほんと貧乳だな。見下ろすとよりそう思える。白川のそれに比べるとさすが歩兵と言う感じだ。佐々木は…あれと比べるのはさすがにかわいそうだ。
「なんですか。」
「い、いや。」
しまった。少し凝視してしまった。
「問題はなさそうだな。」
「そうですね。」
試走を終える。特に問題はなさそうだ。
「ただ、もう少しスピードを出したいですね。」
「いや、いいだろこんなもんで。」
「いえいえ。クラス対抗なら全力でやらないと。」
・・・そういやこいつ負けず嫌いだったな。
「位置について、よーい」
銃声とともに天国と地獄がけたたましく流れはじめる。
みんな全力で体育館を一周している。
・・・。
順番待ちで手持ち無沙汰なので走る女生徒を眺める。
ほほう。これは、なかなか目に優しい光景だ。
後ろの男たちも真剣に観戦しているようだ。
次々と走者が変わる。
今の2組の走者、すげーな。
スイカが食べたくなってきた。
おー3組の女子もなかなか。
あれは、中谷か?いつも思っていたが結構なお点前で。
・・・。
レクリエーションって楽しいな。
不意に耳を引っ張られる。
「な、なんだよ。」
今いいとこなのに。
「なーに真剣に見てるんですか。けがらわしい。」
「失礼な。速く走る技術を盗んでいたんだ。」
「一番大きい子は何組でした?」
「2組。」
「最低。」
はめられた。北本は両手で胸をかばう。
「い、いやあ、あ、ほら白川だ。」
ちょうど白川の出番なので話題の転換を図る。
「応援しましょう。」
よかった、なんとか話題が変わった。
しかし興奮した背後の男子共が話しかけてくる。
「おい、白川さん来たぞ。ほんとに完璧だよな。かわいいしおっぱいもちょうどいい。」
「間違いない。」
激しく同意。
「二度と光を見れなくしますよ。」
だが右では北本がご立腹だ。
「すまん。」
なんで俺だけ怒られるんだよ。
「あ、佐々木さんです。」
本当だ。まさかの直接対決。
佐々木は俺たちに気づくと手を振ってくる。
「なんか4組のロリに手振られたんだけど。」
「俺に振ったんだよ。」
「ばーか俺だって。」
後ろのバカどもが興奮している。
・・・。
もしかして俺も勘違いか?
「そういやお前少し前にあのロリ巨乳に絡まれてたよな?」
背後の殺気が増す。
「あれはあいつが部活に入りたいって言ってきただけだ。」
「そうには見えなかったが。」
「まあそのことはもういいだろ、ほらよく見とけよ。永久保存版だぞ。」
そうだったと男たちは観戦に戻る。扱いが楽でいい。
俺も二人の方を見る。
佐々木は白川に話しかける。
すると白川もこちらに微笑みかけてきた。
「なあ、今俺白川さんに微笑みかけられたんだが。」
「俺も」
「俺も」
「僕も」
バカどもが昇天しそうになっていた
いよいよ二人の順番になった。
白川と佐々木はほぼ同時にバトンが渡される。
「おお~~~~」
今日一番の歓声が上がる。学年単位でもこの二人は花形のようだ。
このビジュアルではそれもうなずける。
美人とロリ巨乳の共演となったら男たちは黙っていられるはずもない。
全クラスの少ない男子は立ち上がって応援している。
おそらく必死に脳に動画として保存しているのだろう。
対して女子はそんな男たちを冷めた目で見ていた。
男ってバカね~と言わんばかりの冷たい視線が全クラスの女子から発せられていた。
俺はさすがに学んだので座って静かに観戦していた。いつも見ている二人だしな。
「斉藤くんは立たなくていいんですか?」
「お、おうもちろん。」
北本からの誘導尋問に細心の注意を払って返答する。
「佐々木さん痛くないんでしょうか。」
独り言のようにつぶやく。
「さ、さあね。お前の方が詳しいだろ。」
「おい。」
「いやっ、他意はなかった。本当に。」
返答に注意を払うあまり返答しなくていいものにも返答してしまった。というか自ら地雷原に誘導する会話やめようぜ。
一際歓声が大きくなる。二人がゴールに近づく。差はほぼないと言って良い。
・・・。
結果白川が鼻差で勝った。
まるでアンカーのような盛り上がりだったがリレーはまだ続く。
いよいよ俺たちの出番が近づいてきた。
所定の位置に着く。次々と他のクラスのランナーも位置に着く。
・・・。
なんだよ、男女混合はうちのクラスだけかよ。他のクラスは男子が8人いるらしい。
「私達も1着でバトンを渡しましょうね。」
北本がやる気満々である。
しかし他のクラスが男子同士だと厳しいかもしれないなあ。
おまけに俺が男子の中でも足が遅いほうだ。
やるだけやってみよう。
・・・。
佐々木がすごい勢いで手を振っているのに気づいた。横では白川も手を振っていた。
「佐々木と白川が見てるぞ。」
そう伝えると北本は手を振りかえした。
ちらりと手前を見ると鬼の形相で学年中の男子が睨んでいた。
ひええええ、見なかったことにしよう。
「そろそろですよ。」
「おう。走り出しはさっきと一緒でいいな。」
「はい。」
バトンが渡される。
「せーのっ。」
・・・。
結果、余裕の1位でバトンを渡せた。
先程の練習が奏功して完璧に走れた。
さらに他のクラスの男子はちゃんと練習していなかったのか走り出しからぐだぐだで勝負にならなかった。
「おつかれ。」
「お疲れ様でした。他のクラスは見掛け倒しでしたね。」
「な。まあ俺たちの敵ではなかったな。」
「そうですね。」
断トツでバトンを渡せて嬉しいのか、北本は満面の笑みを浮かべていた。
「おつかれ!完璧だったね。」
「お疲れ様です。お二人とも素晴らしい走りでした!」
佐々木と白川を合流する。
「俺らにかかればこんなもんよ。な?」
「はい!」
そのあとは4人でわいわいやりながらリレーを観戦した。
俺たちのリードが効いたのか3組が優勝となった。
「3組のみなさんおめでとうございます。他のクラスのみなさんもお疲れ様でした~。さてさて早速次のレクリエーションに移りたいと思います。」
司会の子がスクリーンを指す。
レクリエーションはまだ始まったばかりだ。




