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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第3章 虚無からの脱却
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25. 帰巣本能



 昼休みになり多くの同級生は外に駆け出していった。

 俺はもちろんやることがないので部屋に向かう。

 

 道すがら担任にすれ違う。

 「斉藤くんどこに行くの?」

 「自分の部屋に。」

 「忘れ物?」

 「まあそんなとこです。」

 全然そんなところではないが。


 「鍵は私が持っているので一緒に行きましょうか。」

 え。まじか。


 「あ、いえ、大した忘れ物でないので夜でいいです。」

 慌てて退散する。


 しかしどうしたもんか。あと1時間弱やることがない。

 やることもないし散歩でもしていい感じの休憩スペースを探そう。


 すっかり閑散とした館内を歩いて玄関に向かった。




 とりあえず他の建物を目指すことにした。さっきいた建物は体育館と食堂と宿泊用の部屋しかない。一応談話スペースのようなものがあるが教師に声をかけられる可能性がある。

 なので仕方なく他の建物に望みを託すことにした。


 グラウンドを見ると多くの同級生が走り回ったりドッジボールをしたりして遊んでいた。

 一瞬女子を眺めて時間を潰す選択肢が頭に浮かんだが急いで却下した。


 ・・・。

 しかし通り道の横にグラウンドがあるのはしかたがない。揺れたり揺れなかったりするものを見たり見なかったりした。

 グラウンドを過ぎると東屋のようなものがいくつかある。きっとここでカレーを作るのだろう。あー憂鬱。


 しばらく歩いていくと建物が見えてきた。もしかしたら座れるスペースがあるかもしれない。

 鍵は開いていた。

 おもむろに入ってみると案内図が目に入った。


 多目的室1、多目的室2、多目的室3・・・ん?図書室?

 なんと図書室がある。これはいい。空いているかはわからないが行ってみよう。



 因果なものだなと思いながらいつものように図書室を目指す。

 ・・・。

 着いた。しかし施錠されていて扉は開かなかった。

 残念無念。


 さてどうしよう。あと40分ほどある。

 仕方なく先程登った階段とは違う階段で1階を目指す。

 ・・・。


 「おお。」


 思わず声が出る。2つの驚きが同時に訪れたからだ。

 一つは談話スペースと思われる場所がそこにはあったことに驚いた。

 そこそこの空間に無造作にソファーが置かれている。これはまさに求めていたスペースであった。



 そしてもう一つの驚きは先客がいたことだ。しかも顔見知りの。

 「斉藤くんもいらしたんですね。」

 「たまたまな。」

 そこにはなんと本を読む北本が座っていた。


 こんな辺境の地で会うとは思いもよらなかった。同じ穴の狢ということか。


 だがここから会話が弾むということはこの2人ではありえない。北本は読書に戻り俺はスマホを取り出す。


 久々に見えない人間と対戦したような気がする。

 入学した頃は休みになるとネット麻雀ばかりしていたが、思わぬ出会いで高校生活が思わぬ方向に舵を切られた。

 白川に放課後を変えられ、佐々木に昼休みを変えられて・・・

 その点北本は実に心地よい距離感だ。

 白川という飛車や佐々木という角行がいる中、北本という歩兵の存在は安心できる。

 北本に親愛の念を送りながら昼休みを過ごした。



 「次はなにやるか知ってる?」

 「全体でレクリエーションと書いてありました。」

 げええ。


 「嫌そうですね。」

 「まあ、大喜びはできないな。」

 「私も実はあんまり。」

 「だよな。」

 北本と帰りながら話す。なんとも気が楽でいい。



 「でもクイズ大会は少し期待しています。」

 「へー。」

 そういうのもあるのね。

 「しょうもない内輪ネタのクイズが出されなきゃ面白いかもな。」

 「ですね。」

 にこにこしている。北本はクラスでは笑っているところを見ないが案外表情豊かな面もある。


 「で、次はどこに向かえばいいの?」

 「先程の体育館です。もしかしてしおり読んでないんですか。」

 「悪い。読む気になれなくて。」

 「らしいですね。」

 談笑しながら体育館に向かった。




 体育館に着くと既に多くの同級生が集まっていた。

 クラスごとに分かれているようなので3組の集団の後ろに座った。


 「ようようようよう。随分北本ちゃんと仲がよろしいようですなぁ??」

 座るやいなや3組の野郎どもに絡まれる。


 「ここに来る途中たまたま会っただけだ。」

 何も考えずに嘘をつく。


 「運のいいやつめ。」

 「ところでお前昼休みなんでドッジボール来なかったんだよ。」


 お前らもドッジボールやってたんかい。グラウンドを見たはずなのに視界に入らなかったらしい。

 

 「今はじめて知った。」

 知ってても行かなかっただろうけどな。


 「ったく、てかグラウンドに来ないでどこに居たんだよ。」

 「図書室があったからそこにずっといた。」

 この施設の昼休みはもうないし本当のことを言ってもいいだろう。


 「せっかく合宿来たのに図書室行くなんてお前だけだな。」

 はっはっは。

 男どもは笑う。


 「まあ北本が先に居たけどな。」

 俺も笑う。


 

 しかしみんなの顔に笑顔はなくなっていた。


 「お前だけ甘い汁を吸いやがってー!」

 「てかたまたま帰りに会ったって言ってたの嘘じゃねーか!」

 「殺す。天誅だ。」


  あ、やべ。

  「は~い、みなさんおまたせしました~。これから学年レクリエーションの時間で~す。」

  絶妙なタイミングでレクリエーションが始まった。

 

 ふう。助かった。

 


 「覚えとけよ。」

 ・・・。

 さようなら俺の小指。




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