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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第3章 虚無からの脱却
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24. 試練マシマシ





 永遠にも思えたバス移動を終えようやく目的地の宿泊施設に到着した。山間部にあることもあり敷地は広そうだ。

 

 遠足のしおりを取り出す。えーとまずは、自由時間?

 なんだそれは。じゃあこんな朝早く来る必要なかったじゃねーか。荷物を部屋に置くのに1時間もかかるわけねえだろ。

 

 やはりこの催しの目的はクラスの親睦を深めることらしい。部屋でわいわいやってくれとお膳立てされている。

 部屋のメンツは3組の男子全員である。7人しかいないので必然的にそうなる。会話したことのあるやつは鈴木だけだ。あとは顔を知っているような知らないような感じである。

 いじめられなきゃいいけどと思いながらしおりに書かれた部屋へ向かった。




 7人全員が揃う。俺以外はお互いを認知しあっているように見えた。


 「とりあえず2日間よろしく。」

 鈴木がみんなに向かって言う。それを受けて口々によろしく~と聞こえてきた。

 見た感じ他の人も結束力がすごいということはなさそうだ。冷めたとはまた違うが、無駄な暑苦しさや仲間意識はなさそうで安心した。

 


 俺は早々に部屋の一番奥の一角に荷物を置き、自らの領土を確保していた。角は強い。オセロと一緒だ。

 

 すると鈴木が俺の横に荷物を置いた。

 「よお。ここいいか。」

 「ああ。」

 

 部屋の広さから、人と隣接することは免れないので知っている人が近いのは歓迎だ。

 鈴木はもう他の男子と話を始めていた。こいつのコミュ力は掃除の時間に確認済みだ。俺に話しかけてくるんだからな。

 健全な高校生活を過ごすためにはコミュ力強者と敵対しないことは非常に大切である。俺は誰かと仲良くなる気はないが、敵対する気はもっとない。平穏無事に学校生活を過ごしたい。だからこの合宿で他の男子とある程度知り合っておくことは吝かではない。


 しかし俺にはコミュ力も勇気もない。相手が話しかけてこない限りこちらからは生死の危険がない限り話しかけることはないだろう。


 ・・・。

 とにかくもうやることはなくなった。早くも暇つぶし七つ道具の出番が来たようだ。

 

 「おーい、暇だしみんなでUNOやらね?」

 

 鈴木、お前ってやつは。今後コミュ力王子と名乗ってくれ。手持ち無沙汰だった人々が続々集まってくる。


 結局全員集まった。ゲームが始まる自然と会話が生まれる。


 「てかこの合宿って何やんの?」

 「しおりにはレクリエーションと集会と風呂しか書いてなかったような。」

 「正直この合宿なくてもいいよね。」

 「まあ授業よりは楽しいし良くね?」


 目の前で会話がスーパーボールのごとく弾んでいる。会話への参入の仕方がわからないので仏像の如き微妙な笑みを浮かべることしかできなかったが、内容を聞いていると同じような感想を持っている人が多くて安心した。好戦的な人もいなさそうだし合宿は穏やかに過ごせそうだ。





 「・・・ところで、ずっと聞きたかったんだけどさぁ。」


 会話をしていた男子の一人が俺を見てくる。

 「斉藤って白川と付き合ってるの?」


 この一言で男子たちの空気が一変した。一気に殺気立ったように感じ鳥肌が立つ。本能がここで返答を間違えば死ぬと言っている。

 

 「いや、ただ部活が一緒なだけ。」

 努めて冷静に言った。

 「何部?」

 「勉強部みたいなところ。」

 「ふーん、そんなのあったんだ。」

 空気が弛緩する。なんとかここを死に場所とせずに済んだようだ。


 「でも、ただ同じ部活ってだけの割には仲良いよなー」

 「そ、そうか?」

 「ああ、はたから見てると殺したくなる。」

 まだ殺気は完全には消えていないようだ。



 「だがお前ら、あんなかわいいやつが俺を本気で相手すると思うか?。あいつはきっと誰にでもあんな風なんだよ。」

 「それもそうか。」

 一同笑う。俺も合わせて愛想笑いをする。俺、いつかこの合宿中心労で倒れるんじゃないか?


 「俺はこいつが北本さんと仲良くしてるのが気に入らない。」

 またも燃料が追加される。ああ、もうやめてくれ。またみんなの目が血走ってるじゃないか。


 「あいつも同じ部活だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 「あいつ?」

 「いえ、北本さんです…」


 ひええええ、こいつら女子のこととなると異様に目敏いな。進学校に進学する男って女関係にコンプレックス抱えているのかな。俺は人間全般にコンプレックスがあるから男女を区別してないけど。


 「なんだお前北本好きなのか?」

 「い、いやそんなことは。」

 話の標的が変わった。しかもこいつさては本当に北本のこと好きだな。


 「なに照れてるんだよ。」

 俺はここぞとばかりに会話に参戦した。




 「「「「お前は黙ってろ!」」」」

 その後俺の姿を見たものはいない。





 針のむしろとなった自由時間が終わり、学年集会のため体育館に移動する。学校がよく利用する施設だけあって体育館やグラウンドも併設されているらしい。


 ・・・。

 教師たちの御高説が終わる。

 高校生活は勉強が全てではないらしい。

 内容には首肯できるが、教師にこれを言われるとなんか引っかかるものがあるのはなぜだろうか。

 それなりに長かった集会が終わり食堂に誘導される。学年全員で昼ごはんを食べるというわけだ。

 名前順に座らされる。ということは・・・


 「こんにちは。」

 「おう。」

 当然となりはこいつである。


 「お昼ご飯はハンバーグかアジフライを選べるらしいですよ。」

 「へー。」

 1組がお盆を持って列をなしている。選択制となると余計に時間がかかりそうだがどうせやることもないし良いのかな。


 「意外と凝ってんな。てっきりカレーとかかと。」

 「そうしたら2食連続でカレーになっちゃいますからね。」

 「ほう、もう夕飯の献立も発表されてるのか。」

 合宿への期待が0なのでしおりもろくに読んでいなかったがかなり詳細に書いてあるみたいだな。


 「うふふ、夜はカレー作りってしおりに書いてあったじゃないですか。」

 「いや俺しおり読んでねぇかr…今なんて言った?」

 「夜は班に分かれてカレーを自分たちで作るんですよ。」

 「まじかよ・・・」

 はあああめんどくせえええ。今からでもココイチの配達に変えませんかそれ。



 「同じ班になれたら良いですね。」

 「ああ・・・」

 一気に憂鬱度が上がった。



 やはり今日は休むべきだった。仮病がダメなら週末水風呂に入ってでも体調を崩しておけばよかった。

 こういうイベントは自分がやりたくないということだけでも嫌なのに、俺みたいな人が班員にいると班全体の雰囲気が悪くなって周りにも迷惑がかかる。



 つまり俺が休むということは自分と同時に世界も救うことになるのだ。



 ・・・。

 しばらくしてハンバーグ定食を受け取る。

 明らかにレトルトの味だ。



 これでは食中毒でカレー作りは回避できなさそうだと落胆しながらおいしく完食した。


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