235. 実はこいつが一番の名脇役なのでは?
覚悟を決め、やることが見えた段階で俺は行動していた。
とにかく何を始めるにしても、先輩Xを見つけなくては話にならない。
先輩であることと、やたらタッパがある、これが手がかりだ。だが後者を使えば先輩Xの特定はさほど難しくないだろうと思っていた。
なんせこの学校は男が少ない。そして先輩であの長駆となれば、きっと目立つ。
俺は午後の授業の間の休み時間に、クラスメイトに声をかけた。自分の部活の先輩に背がやたら高い人はいないか。190近くある男の先輩に心当たりはないか。
この学校は部活が盛んで部活加入が強制というこれまでは百害あって一利なしの校則が、はじめて役に立った。
クラスメイトの男子と周りの女子など色々と聞いてみた。そして中谷に聞いてみたところ、これがヒット。陸上部に特徴が一致する先輩がいるらしい。
なるほど、あのスタイルは陸上部と言われたら納得できる。
外は曇り、だが雨は降っていない。そうなると、先輩Xは間違いなくグラウンドにいるはずだ。
急いで靴を履き替え、グラウンドに走る。
中谷を見つけて、なんとかタイミングを見計らい声をかける。
「すまん中谷。さっき話した例の先輩呼んでくれないか」
「いいけど、なんの用?」
「まぁ色々あってな」
中谷は怪訝な表情をしていたが、深く追及はしてこなくて助かった。
数分後、遠くから中谷と、やたら縦に長いシルエットが歩いてくる。
「あ、お前」
「昨日はどうも」
俺と先輩のやり取りを見て、えっえっと言いながら俺と先輩を交互に見る中谷。
「何の用だ」
「言っておきたいことがあるので、すみませんが少しあちらに来てください」
さすがに中谷の前では差し障るのでグラウンドから離れた所に移る。
「で、何?」
「単刀直入に言います。今後一切白川には近づかないでください」
「へ、やっぱりお前あいつの彼氏か。白川さんも趣味悪りいなぁ」
「いや、違います。俺は彼氏じゃないです」
「は?違うの?」
「でも、これからなります」
「は、何いってんだお前」
「これから白川に言いに行きます。もう誰もお前に手出しさせないように守ると」
先輩は鼻で笑う。
「お前さ、漫画の見過ぎじゃないの。見るからにキモオタだしさ。そんなこと現実で言うやついねぇよ」
「そんなこと関係ない」
「なんだその目は。それが気持ち悪いって言ってんだよ!」
刹那、先輩の右足が俺の脇腹を直撃する。鈍い音とともに、ぐふっという声が漏れる。
「俺を蹴って満足するなら、それでいい。もう二度と白川に手出しするな!」
「は、反撃もできねぇのか。よくそれで守れるとか言えたものだな!え?なんとか言えよ!」
そこから先はあまり覚えていない。何度蹴られたかわからない。だが、雨が降ってきて、陸上部が室内に移動するという号令が遠くから聞こえてきたのと同時に蹴りが止み「二度と俺の前に現れるな」という捨て台詞が聞こえたことはおぼろげながら記憶にあった。
校舎の壁によりかかるために動く。制服は泥まみれ。口の中が切れているようで、ずっと血の味がする。しかし顔を蹴るのはいかがなものかと思う。
でもいい。もうこれで問題はなくなった。
あとは白川に言うだけ。もう心配することはないということ。そして俺の気持ちを。逃げ続けていた答えを。




