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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
最終章
238/241

234. 全員が幸せになんてなれない



 すっと右手に感じていた力が抜けた。俺はなるべく静かに立ち上がった。


 背中にはすすり泣く声がずっと聞こえた。これは俺のせい。俺が泣かせた。この涙は戒めだ。

 「「あ」」

 階段の前の廊下を見知った顔が通った。この時間に図書室の方向に用がある人なんて限られている。


 「そっか。まさくん。答え、出たんだ」


 佐々木は立ち尽くす俺と、俺の後ろでうずくまる北本を見て、だいたいのことは察したようだ。

 「ああ」

 「そっか、そっか・・・そっか」




 佐々木はその後も「そっか」と何度も繰り返して、なにかをぎゅっと噛みしめるような顔をした。


 そして最後に

 「じゃあ、さ、わたしにも聞かせて、その答え」

 俺は覚悟を決めていた。だからためらいなく、淀むことなく言った。



 「俺は白川が好きだ。だから俺が白川をなんとしても守る」



 ぜったいに目をそらさない。そう決心していた。

 だから佐々木の表情がよく見えた。見えてしまった。


 「なんとなくわかってたよ、最初に出会ったときから。負け戦だと」

 言いながら天井を見上げる佐々木。

 「だめだったか!」

 そう言ってニカッと佐々木は笑った。その表情を見て俺は思わず泣きそうになってしまった。ほんとうに、ごめん。


 「そうとなったら、ここに立ち止まっているわけにはいかないよね!」

 佐々木はいつにも増して元気な声でそう言い、俺の肩を強く叩いた。


 「そう、だ。そうだな」

 「さぁはやく行け!」

 佐々木は俺の手を掴んでぐいっと廊下の方に引っ張る。


 そのとき佐々木の後ろにいた順と目が合う。

 順はこくんとうなずき、視線で廊下の奥を指した。行け、そう言っているとわかった。


 俺はうなずき返して階段を後にする。

 人がいない廊下を走る。


 さっき俺が、俺たちがいた階段からは、大きな泣き声が響いてくる。


 その声に何度も立ち止まりそうになる。


 でも、それでも俺は振り返らずに走り続けた。



 目的地は先輩Xだ。

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