234. 全員が幸せになんてなれない
すっと右手に感じていた力が抜けた。俺はなるべく静かに立ち上がった。
背中にはすすり泣く声がずっと聞こえた。これは俺のせい。俺が泣かせた。この涙は戒めだ。
「「あ」」
階段の前の廊下を見知った顔が通った。この時間に図書室の方向に用がある人なんて限られている。
「そっか。まさくん。答え、出たんだ」
佐々木は立ち尽くす俺と、俺の後ろでうずくまる北本を見て、だいたいのことは察したようだ。
「ああ」
「そっか、そっか・・・そっか」
佐々木はその後も「そっか」と何度も繰り返して、なにかをぎゅっと噛みしめるような顔をした。
そして最後に
「じゃあ、さ、わたしにも聞かせて、その答え」
俺は覚悟を決めていた。だからためらいなく、淀むことなく言った。
「俺は白川が好きだ。だから俺が白川をなんとしても守る」
ぜったいに目をそらさない。そう決心していた。
だから佐々木の表情がよく見えた。見えてしまった。
「なんとなくわかってたよ、最初に出会ったときから。負け戦だと」
言いながら天井を見上げる佐々木。
「だめだったか!」
そう言ってニカッと佐々木は笑った。その表情を見て俺は思わず泣きそうになってしまった。ほんとうに、ごめん。
「そうとなったら、ここに立ち止まっているわけにはいかないよね!」
佐々木はいつにも増して元気な声でそう言い、俺の肩を強く叩いた。
「そう、だ。そうだな」
「さぁはやく行け!」
佐々木は俺の手を掴んでぐいっと廊下の方に引っ張る。
そのとき佐々木の後ろにいた順と目が合う。
順はこくんとうなずき、視線で廊下の奥を指した。行け、そう言っているとわかった。
俺はうなずき返して階段を後にする。
人がいない廊下を走る。
さっき俺が、俺たちがいた階段からは、大きな泣き声が響いてくる。
その声に何度も立ち止まりそうになる。
でも、それでも俺は振り返らずに走り続けた。
目的地は先輩Xだ。




