230. 勝負のゴングは鳴らされた
翌日、月曜。雨は降っていないが天気は悪く、しっかりとした寒さを感じられる。短い通学路を歩きながら「白川は今日来るのだろうか」ということばかりを考えていた。来づらいことは間違いないが、白川は真面目を絵に描いたような女だ、98:2くらいで『来るだろう』と思った。
だが予想は外れた。始業のチャイムが鳴っても白川は現れなかった。
1時間目終わりの休み時間が始まるとすぐに北本に声をかけられる。日頃は教室で話しかけられることがほとんどないが、今日に限っては理由が明確にわかる。
「あの、白川さんのことなのですが、なにかご存知ですか」
「ああ、まあな」
「・・・斉藤くん絡みのこと、なんですか?」
「詳しいことは昼休みで話す」
北本は内心もっと問いただしたそうな顔をしていたが、俺の表情を見て素直に自分の席に戻っていった。
1時間目の授業中、ずっと考えていた。この話はどこまでみんなに言うべきなのだろうか。部活のみんなはまず間違いなく、白川の誕生日の券の使い方がどういうものかわかっているはずだ。だからちょっと考えたら、俺と白川が出かけた日の週明けに白川が休んだということに気がつく。
だから遅かれ早かれ白川のことについて聞かれるだろうことは想像できた。
でも1時間目の間には結論が出なかった。なぜかというと、俺は後悔から他のことばかりを考えてしまったからだ。
あの日、俺にもっと出来ることはなかったのか。
あのまま公園でじっと寄り添うことしか出来なかった自分に今更情けなさを感じてしまったのだ。
授業が始まってすぐ「大丈夫?」と白川にメッセージを送った。しかし、しばらくして「大丈夫です」と返事が来て、俺はまたしても後悔。大丈夫?なんて聞いたらこう返ってくるに決まっているじゃないか。やはり俺一人で考えてもろくなことにならない。そう思った。
結局2限以降の授業も上の空。しかし、みんなには今回の件は話そうと思った。勝手に白川にまつわることを最低限話すことになるが、みんなにも事情を知ってほしい。いや、正直に言おう、俺ひとりでは抱えきれないのだ。黙っているという選択肢を取り、独断で解決策を考え実行できる自信が俺にはない。
だから昼休み、俺は正直に昨日何があったかを話すことに決めた。
昼休み、白川以外のメンツが揃う。昼休みに白川がいないのはいつものことだが、今日は事情が違う。
佐々木と順はいつもどおりの明るい調子でいるが、俺と北本の様子を見るなり「なにかあった?」と聞いてきた。
「実は、今日白川が学校に来てないんだ」
「風邪・・・っていうわけじゃないだね」
順が察する。
「ああ」
「待って、かおりんに何かあったの?」
「そう、と言っても事故とか怪我とかそういうことじゃない」
佐々木はとりあえず最悪の事態ではないことに安堵の表情を見せる。
「実は昨日ふたりで出かけて・・・」
佐々木の眉がピクッと動く。
「あの、誕生日の券のやつでね」
なぜか他の2人も佐々木と一緒にうなずく。
「それで、そのとき、まぁその、白川に告白して振られたと思われる男子生徒とばったり出くわしてな。そしたらそいつに、まぁ色々言われてさ」
「その男子生徒がうちの高校だったと」
「しかも先輩ときた」
はぁ・・・と部屋にため息があふれる。
「というわけなんだ・・・」
窓の外の曇天と同じような鉛色の空気が部室を包む。
「まさくんはさ、どうしたいの?」
3秒くらいだろうか、3分くらいだろうか、それとも3時間くらいだろうか。沈黙を破ったのはいつもよりも低い佐々木の一言だった。




