229. 君の重みを肩に感じて
「白川さん、もしかしてこいつが・・・?」
「・・・」
ベンチにはうつむく白川と、どこかで見た覚えのある長身の男が立っていた。いざ同じ地面に立って見てみると思った以上に背が高い。190近くあるのではなかろうか。
「・・・」
露骨に向けられた敵意に俺も反応する。なんだこいつは。白川のことを知っているから、ただのナンパというわけではないだろう。
睨まれていることを感じながらも、妙に冷静な頭がここにいる必要はないから立ち去れば良いと言ってきたので、俺は体の硬直を解いてうつむく白川の手を強く引いた。
「行くぞ」
「白川さん、あんた、男の趣味悪かったんだな」
「・・・っ」
「無視だ」
状況は把握できていないながらも、明らかに反応すべきではない相手だということはわかる。
「俺よりそんな根暗陰キャを選ぶようなやつだとは思わなかった」
「彼のことは悪く言わないで!」
「・・・!」
白川の手を握っていた右手を思いっきり引っ張られる。
「やめろ白川。もういい」
俺がさらに強い力で強引に白川を引っ張る。さっきの抵抗が嘘のように白川は力なく歩き始めた。
「・・・とりあえず、他のところに行こう」
とにかく人のいないところに行かなければならない。
これ以上、白川の泣き顔を衆目に晒すわけにはいかないから。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「お前は何も悪くないだろ」
小さい声で謝り続ける白川の手を引きながら、こんなことがあってもやはり冷静な頭が、ようやくさっきの男の正体を思い出したようだ。さっきの男は俺が日直のとき目撃した、白川に告白していたと思われる男子生徒だ。
休日ということで繁華街の周りはどこも人がたくさんいた。仕方なく、少し遠いが俺たちの家の近くの、今日の集合場所にもなった公園まで歩いてきた。ここなら人はほとんどいない。
「どうだ、落ち着いたか・・・?」
「ぐずん・・・すみません・・・」
「いいんだ、お前は何も悪くない」
横に座る白川は俺の左肩に顔をつけてしばらく泣いていた。
「もう、大丈夫、です」
「そうか」
「ごめんなさい、せっかくのプレゼントのデートを台無しにしてしまって・・・」
「もういいよ。それよりあいつは?」
落ち着いた白川は、ざっと説明する。内容は俺が予想した通りの内容で、あの日直の日に告白されてお断りした相手と今日運悪く遭遇してしまったということだった。
「そうか。災難だったな。しかし相手も同じ高校だとなると面倒だな」
しかも話を聞くとどうやら件の男子生徒は1つ年上だという。
「あ・・・」
白川は明らかに怯えている。そりゃ長駆の男にあんな風に詰められたら怖いわな。だって俺でも怖いもん。
「とりあえず、今日はもう少しここでゆっくりしよう」
白川は俺の腕にぎゅっとつかまっている。きっと色々な感情があるのだろう。
・・・。
・・。
・。
秋の日はつるべ落とし。しばらく公園で静かに過ごしていると、さっきまで明るかった空があっという間に暗くなってきた。
長いような短い時間。左手に白川の重さを感じながら色々な考えが頭に浮かんでは消えていった。
でも今日の出来事で俺がもっとも強く感じた感情は意外にも「安心」だった。
「白川が告白を断っていた」という事実に、俺は不謹慎にも安心感を覚えていたのだ。
俺は白川を何も知らなかった。
これまで俺は白川を何も知ろうとしてこなかった。
俺は白川のシグナルに気づかないふりをしていた。
答えを出すのが怖かったから。
でもこれからの俺は変わらなければならない。
本当の白川を知るために。
そろそろこの曖昧な関係に終止符を打つ季節が来たのではないか。漠然とそんな予感がした。




