228. つかめそうで、つかめない
「白川ってこういうところ来たことあるのか?」
ゲームセンターの入り口へとつながる階段を登りながら聞いてみる。
「小学生の頃に来たような気がします。UFOキャッチャーとかしたような・・・」
他の高校生がそんなことを言ったらたまげて階段から転がり落ちるところだが、白川なら妙に納得できるから不思議だ。
「そうか、じゃあ今日は俺の数少ない特技のひとつを披露しようかな」
「なんですか?」
「UFOキャッチャーなら多少は心得がある」
最近はUFOキャッチャーでしか手に入れられないアニメグッズが増えてきたせいで、かなり鍛えられた。
「もし、ほしいものがあったら言ってくれ」
そう豪語して店内に足を踏み入れた。
「あの、もう結構ですよ。十分頑張っていただきましたし」
「いーや、ここで諦めたら男がすたる」
・・・。
「・・・」
アームが力なく景品を落とす光景を今日だけでもう20回は見た。
「もう少し右だったか」
「あのぉ~」
財布がどんどん軽くなる。景品はあんなに重そうなのに。
・・。
・。
結局、ぬいぐるみを取るために3人ほど英世とお別れすることになったのだった。
その後、音ゲーをやったり、白川に無理やりプリクラを撮らされたりして、ゲームセンターを後にした。
小さな広場のベンチに腰掛けて休憩しようと提案したところ、白川が「先に座っていてください」と言い残して、どこかにかけていった。
「ふぅ・・・」
背もたれに寄っかかって緊張の糸が切れた途端、急に疲れが出た。いくら白川相手でも気を張っていたようだ。いや、相手が白川だからこそかもしれないが。
白川は優しい。それは間違いない。これまで出会った人の中でもダントツで優しい。それに気配りも上手だ。一緒にいて嫌な思いをしたことがない。たまに見せる強引さもかわいらしいと思える範疇から決して出ない。
しかし、いや、だからというべきかもしれない。
「お待たせしました~」
「お、それは?」
「クレープです!」
「ありがとう、いくらだった?」
「これはさっきのぬいぐるみのお礼です」
「え、でも」
「いいんです!それよりほら、もう少し左寄ってください。私も座ります」
その優しさの中にある『白川香織』という人間の中身が、わかりそうで、決してわからない。
「美味しいですか?」
「めちゃくちゃおいしい。ありがとう」
近づけば近づくほど、白川が遠くなる。
「どうかしました?」
白川は無邪気に聞いてくる。
「いや、なんでもない」
俺は気がついてしまった。『優しさ』に包まれた白川という人間を俺は何も知らないし、知ろうともしてこなかったことに。
ぬるま湯につかっているということに俺は突然気がついてしまった。それはあまりにも遅い気付きだった。なんせ出会ってから半年以上経っている。だから神様はそんな俺に悪戯をしたのかもしれない。
「あの、もしかして最近私、何か気に障ることをしてしまいました・・・?」
「え、いや、どうして?」
急にそんなことを聞かれて驚く。
「だって、ここ1週間くらい、斉藤くん、あまり私と目を合わせてくれないことありましたし・・・」
あ、そうか。やはり順の言う通り、わかってしまうようだ。
「いや、お前がなにかしたってことは本当にない」
ただ余計なことを考えているだけで・・・。
「ごみ、捨ててくるわ」
自分の分と白川の分のクレープの包み紙を持って、ベンチを立った。
「っと、どこだろ」
だいたいこういう広場にはゴミ箱があるものだと思い、すぐ見つかるものだと思ったが、案外近場にない。
・・・。
端の公衆トイレの横にゴミ箱を見つけたのでついでにトイレも済ませてからベンチに向かって小走りで向かった。
「悪い、近くに」
ゴミ箱がなくて・・・と言い終えることは出来なかった。
白川が、男と話していた。




