226. 要介護系主人公
見慣れない店が並んでいる。自分の住む街の、しかもよく行く繁華街なのに、まったく馴染みがない理由はこの辺りの店はすべておしゃれなアパレルショップだからだ。
なんでこんなところにいるのかというともちろん原因は今日のナビ、もとい案内人、もといデート相手である白川が連れてきたからだ。
「あの、なんかこの店・・・女物が並んでいないように見えるんだけど?」
とある店の前に連れてこられた俺は店の様子を見て、何かを察した。
「もしかして・・・」
白川はにこにこ笑うだけだ。
・・・。
俺は観念して白川に続いて自動ドアを通った。
「なにかお探しですか?」
白川がラックにかかった服を見ているのを遠目で見ていたところ後ろから女性の店員に声をかけられる。
「あ、いえ、その・・・」
張り付いた笑顔の店員にどう返せば良いのかわからずコミュ障の鑑というべき返事をする。
噂には聞いていたが実際に体験すると一瞬で俺もこのタイプの接客が苦手だとわかった。微妙に狭くて逃げ場のない通路。知らない空間で知らない人に馴れ馴れしく話しかけられるストレス。油断すれば刀で切られるのではないかとすら思えるようなにじり寄り方。これか、これがかの有名なアパレルショップの接客か。
「彼に似合う服を探しているんですけど、店員さんから見るとどちらがいいと思います?」
まごまごもじもじおどおどしている俺を見かねたのか、白川が助け舟を出してくれた。店員はあっちが攻略すべき対象と判断したようで、瞬きしている間に俺の前から白川の居る方に移動していた。
ほっと胸を撫で下ろす。が、それと同時にやはり俺が予想していたことを白川はしようとしているとわかった。
つまり今日、この店に入ったのは俺に何かしらの服を着せることを目的としているのだ。今日の俺は白川の着せ替え人形ということだ。助けて五条くん。
「彼氏さんはなにか好みとかありますか?」
唐突に話を振られる。
「いや、特に」
と、必死に返す。
たまに飛んでくる球を無難に打ち返しながら白川と店員のやり取りを眺める。というかいつからか俺が白川の彼氏ということになっている。
まぁこの誤解は仕方ないだろう。傍から見ればどう見てもそうだ。だがちょっと気になるのは最初の白川の店員への一言の『彼』が単に俺を指す三人称だったのかどうかだ。いや、きっとそうだ、そうに違いない。
「では、この4つを試着してみます!」
なんか話が決まったらしい。え、4つ?何?
「どうぞ~」
どうぞ~じゃないよ。
「ちょっと全部やるのそれ?」
「やりますよ」
白川はすごい力で俺を試着室に詰め込む。
「いいですか、それはそのパンツと、これは・・・」
5Gもびっくりのものすごいスピードで説明されるが、何一つ理解できない。
「・・・?」
「もう、とりあえずこれとこれ、着てください!」
俺のアホヅラを見てこいつは何もわかっていないと白川も気づいたのだろう、たくさんの服から上下1セットのみを渡されて試着室のカーテンが閉じられた。
「・・・」
三方が真っ白で、一面が鏡の空間に突如取り残される。
突っ立っていても仕方がないのでとりあえず服を脱ぎ始める。俺は一体なにをしているのだろう。
しかし女の人っていうのはなんでショッピングのときこんなに元気なんだろう・・・。
永遠にも思えた服屋での試着地獄を乗り越えて店を出た。なぜか俺はおしゃれなジャケットとズボンを履いていた。
「多少はまともになりましたね」
「は、ははは・・・」
あまりにも厳しい意見に一瞬白川が北本に見えた。どうやらこれまでの俺はまともではなかったらしい。
スマホの時間が店に入る前から1時間とちょっとしか変わっていなかったことに愕然としていたのもつかの間、白川は次の行き先に向かって歩き出した。
もう手をつながなくても俺は付いていくのに、なぜか白川は俺の手をがっちり掴んで離そうとしなかった。




