225. 未来へと連れて行くその手に
白川とのデート当日。天気予報では曇りとなっていたが、日差しも見えていて暖かい。
非常に偉そうなことを言うが、さすがに3回目ともなるとデートの待ち合わせにも慣れてきた。俺はいつものダサくもかっこよくもない(と思っている)トレーナーとチノパンというどこにでもいるコーディネートで家を出る。
集合場所は例の俺と白川の家からほど近い公園。今は9時40分なのでどれだけゆっくり歩いても集合時間の15分前には着く。
細い路地をすごい勢いで走り抜けるクソガキチャリを避けつつ歩くとすぐに公園に着いた。
「あ」
が、先に着いていたのは白川だった。
「はやすぎるわ」
俺は小さくつぶやいて、白川が座っている砂場近くのベンチに小走りで向かった。
「おはようございます」
俺に気がついた白川はすぐに立ち上がる。
「おはよう、ごめん待たせて」
息を切らせながら謝罪する。
「いえいえいえいえ、私が早すぎるんです」
さすがに自覚していたようで一安心。
「なんか、服、秋って感じでいいな」
ニットの服に、栗色?イチョウ色?の長いスカート。それに焦げ茶のブーツというなんともおしゃれで可愛らしいファッションだ。
「あ、ありがとうございます」
脈絡もなく褒めたせいか自分の服の袖を掴みながら白川が照れている。そんな顔をされると俺も少し照れてしまう。
「じゃ、じゃあ、えっと、とりあえず行こうか」
とにかくこの空気を変えようと俺たちは街に向かって歩き始めた。ごめんなさい、やっぱりデートは何回やっても慣れないわ。
繁華街を目指して歩く。手の先を冷やす寒い風がふたりの間を吹き抜ける。俺はおもむろに手をズボンのポケットに入れた。
「斉藤くん」
名前を呼ばれて横を歩く白川の顔を見る。
「今日はありがとうございました」
「え?」
デート開始早々お礼を言われて戸惑う。一瞬考えて、きっとプレゼントのことを指しているのだろうとわかった。
「いや、良いんだよ。誕生日プレゼントだし」
「それでもお礼を言わせてください」
「そ・・・それなら良いんだけど。言っちゃアレだが、結構クオリティの低いプレゼントだと思うぞ」
白川は首を振る。
「もしほかのプレゼントを思いついていたらそっちにしたんだけど・・・」
白川はさっきとは比べ物にならないほど勢いよく首を振る。
「いいんです!私もあの券がほしかったんです!」
「あ、いや、そうなら良かった・・・」
白川はぶんぶんうなずいている。だけどあの券を使ってデートを申し込んできたわけだし、つまりこれって白川は俺とデートしたかったってこと?
「他のコも斉藤くんと出かけているのに私だけなしなんて・・・許せません」
・・・そう言ってくれるのは嬉しいけど。でも・・・
「自分で言うのもなんだけどさ、俺と出かけることってそんなにいいことか?ろくなプランも考えられないし、その、そんなに愛想よくもできないし」
自分で言っていて悲しくなるが純然たる事実だ。というかプランなんて最初から自分が考えてくるから当日は来るだけでいいと白川に言われる始末である。
自嘲気味な笑みを浮かべながら先を進もうとしたら斜め下から声が飛んできた。
「いいえ」
さっきまでの明るい声とは違う、はっきりとした声で否定されて驚く。
「私が一緒にいたいから、いいんです。私が斉藤くんと一緒にいたいんです。そう自分を貶めるようなことは言わないでください」
白川は俺の正面に立ち目をじっと見てくる。俺はたまらず無意識に視線を外してしまった。しかし、落とした視界に白川の伸ばした手が入ってきた。その手はポケットに突っ込まれた俺の手のひじを捕らえる。
白川の方を見るといつもの柔和な白川がいた。
「もっと自信持ってください!今日はそんな斉藤くんに代わってもらいますよ!」
そう元気に言った白川はそのまま俺のひじに手をかけて引っ張った。
「ちょ、自分で歩くって」
だが、白川はその手を離さない。
「今日は私のプランに従ってもらいます。いいですね?」
「そりゃ、良いけどさ。ていうか今日はお前の誕生日プレゼントだし」
「うふふ、じゃあ行きましょう」
白川は楽しそうに俺を引っ張る。
気づけば足元が味気ないアスファルトから石畳に変わっている。周りも住宅と電柱から、きれいな店と木々に様変わりしていて、なんだか一気に明るくなった。
柔らかな光の先に白川が微笑んでいる。
ほら、と言いながら伸ばす白川の手に俺は改めて自分の手を伸ばし、その白く柔らかい手のひらを掴んだ。




